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帰還

「それで、お話と言うのは?」

 「ああ、この谷の下。ここでは『入れずの森』っていうんだっけか? その先であった事なんだが、その前に一つ紹介したい人がいるんだ。」


 アレクとフィルビアはエルフの里であった事、そして、同盟についての説明のためにアリシアとサイアスと共に会議室のような長机と椅子くらいしか家具のない部屋を借りていた。と、言っても貴賓用なのか必要のない装飾品のいくつかは見受けられたが、王城ほどではないその装飾品にアリシアは大した感情は出てこない。

 アレクに促されるようにアレク達と共にこの砦にやって来た者にアリシアは目線を向ける。深緑色のフードを目深にかぶり、その顔は見えないが、体の線から察するに女性。全体的に緑色の服の様だが、背中の中央までフードから伸びるハーフマントが覆っている。緑色のハーフパンツに革製のブーツ。腰に巻いた布は、後ろで二つに分かれ、一番長いところはふくらはぎにまで届くだろうか。

 アリシアの記憶ではこんな人物は自警団にはいない。あの仮面の剣士と言う可能性も考えたが、胸のふくらみや腰つき、着ている服などを見る限りその可能性も薄いだろう。


 「えっと、なんていえばいいのかな・・・・。」

 「大丈夫よ、アレク。自己紹介くらい自分でするわ。・・お初にお目にかかります。イグニアス王国王女アリシア・イグニアス・プリエル様。わたくしは、ポーア様が統治する里出身、テフカが娘、ターニャと申します。本来であればこの場に相応しい身分ではないのですが、アレク殿を後見人とさせていただいておりこの場に参上いたしました。」

 

 ターニャは、目深にかぶっていたフードを外すと机を挟んで床に跪く。完全服従姿勢で、伏せられているため、アリシアからはターニャの薄桃色の髪の毛しか見ることが出来ない。


 「それで、ターニャさん。なぜ、ここへ?」

 「はい。本日参上いたした理由なのですが、我が里をイグニアス王国の属国に加えていただきたいという命を受け、この場に参上させていただいております。」

 「ぞ、属国!?」


 その後、アレクはバルドとポールから受け取った書類とエルフの国で何があったのか、どうしてこのような話が持ち上がったのか、鬼族(オーガ)のことも含め事細かに説明をした。話の終盤までずっと頭を伏せていたターニャもアリシアの願いを聞き入れ、今は同じ席に腰掛けている。


 「・・・・まさか、エルフがあの森に住んでいたとは。文献では目にしたことはありますが、実際に見るのは初めてです。それにしても、属国ですか・・・・。」

 「あくまでのそのぐらいまで要求を受ける用意があるって話で、属国になる話し合いは進めていないぞ。」


 アレクとフィルビアの説明では、あくまでも次期族長となるポールとバルドで出した結論であって、交渉の結果ではない事。イグニアス王国側の要求の上限を示したものでそれが最終要求ではない事。現状、鬼族(オーガ)との戦争時に助力の確約が一番の目的であることを話してくれた。


 「いかがでしょうか、アリシア様。」

 「すみません。私は王女であってこの国を統治するものではないので確かなことは・・・・・。ただ、こちらとしてもエルフとの交流が再開することは望んでいます。」


 何だか仰々しい口調で話している二人を見なれないアレクだけがこそばゆい感情を抱く。エルフの国にいたころは、こんなしゃべり方をしていただろうか? 一国の王女に遭うという事である程度畏まっているのだろうが、いつものイメージとそぐわない。しかし、二人の話を止めるほどのことでもないだろう。何せ、話はまだ終わらない。これは、一つ目のはなし。次は、


「それでなアリシア。ターニャを自警団と一緒に行動することを許してもらえないか?」

 「どういうことですか? ターニャさんはエルフの使者、自警団は危険もありますし、同行するのは・・・・。」

 「心配には及びませんアリシア様。この身、この命アレク殿ものですので。」


 「・・・・。分かりました、少し時間を貰えますか?」

 「はい。いつまでもお待ちします。」

 

 そういうと一応は、ターニャ側の立場であるアレクとフィルビアはその貴賓室を一度出て隣にある小部屋に入る。


 「おい、何考えてる?」

 「いいじゃないか。お前の主なのだろう? 評価は高い方がいいじゃないか。」 

 「過剰なんだよ。普通にしゃべれって。」

 「おい、おい。あっちは一国のしかも大国の王女様だぞ? 下手な口はきけないだろ。」


 ターニャの言い分は正論だが、なんだかこのままだとアレクがよいしょされ過ぎる結果になりそうな予感は否めない。


 「フィル。助けてくれ。」

 「今回の一件は間違えなくアレクの手柄だよ。ちゃんと褒めてもらえば?」


 そんなわけにはいかない。アレクの命が助かったのはオフィアとターニャのお陰だし、バルドが負けてくれたのはルシアが強かったからだ。フィルビアの機転もアレクがポールとの戦闘を行う際に非常に有効であったし、以前シャノンに貰った魔力を回復する薬が無ければ、アレクは三英雄戦に参加することも出来なかっただろう。

 いつの間にか交渉の中心にアレクが立っていたが、その場まで駒を運んでくれたのは、間違えなくあの場にいた全員のお陰と言っていいだろう。それなのにアレク一人が評価されるのは、アレク自身としては納得がいかない。そのこともしっかり伝えるべきである。


 アレク達が隣の部屋に移り、アリシアとサイアスだけになった貴賓室でアリシアはもう一度先程までの話をまとめる。

 ターニャの話を聞く限りでは、アレクがエルフとの同盟を結ぶ上で最も重要なことをしてくれたことは確かである。先程聞いた三英雄戦での一件、アレクの采配でバルドに勝利し、次期族長には実力で下している。また、崖から落ちたときもアレクの機転で全員の命が繋がれたといっても過言ではない。

 今も、数日間しか一緒にいなかったはずのエルフ族の女性にも信頼を得ている様子は伝わってくる。もし、アリシアがその立場であったら、アレクと同じように出来ただろうか。いや、決してできなかったと断言できる。


 「アリシア様。どうなされますか?」

 「あなたはどう考えますか? ターニャさんの同行とアレクさんについて。」

 「同行に関しては団長であるアリシア様の一存でいいかと、アレクさんに関しては非常に優秀な方であると再認識せざるを得ないでしょう。魔獣との戦いの際は、魔力欠乏症であったようでしたし、本来の実力は底が見えません。」


 大英雄サイアスから見てもアレクと言う人物はやはりすごい人に見えている。何せアリシアが十年の近い年月をかけてベルディア公国と同盟を結んだというのにアレクは数百年も交流が無かった、それ以上に負の歴史を持っているエルフの信頼をたった数日で得ているのだ。

大国と一つの里とでは、互いの意見のすり合わせにかかる時間の違いも十分に理解はしているが、それでも、誰にでもできる芸当ではない。

剣士としても優れ、魔法にも精通し、人望もアリシア以上であるといっても過言ではないだろう。セベやシャノンの件もそうだ。アレクは、アリシアの下にいるには大きすぎる英雄になることは間違いないだろう。サイアスのように。


 「アリシア様?」

 「いえ、何でもないです。アレク達を呼んでください。心は決まりました。」



 「それではターニャさん。これからよろしくお願いします。」

 「はい。御身のお役に立てるよう、この身果てるまで・・・・。」

 「あの、これから仲間に成るわけですし、私もこのような話し方はあまり得意ではないので、フィルやアレクに接するようにしてくださいませんか?」

 「・・・・。ええ、よろしく頼むわ。これでいいの?」


 はい。お願いね。と、はにかむアリシアの笑顔を見たのは本当に久しぶりな感じがしてアレクは、ようやく気が緩むのを感じる。

 

 「それで、アリシア?この後は王都に帰るのか?」

 「そうですね。とりあえずこの砦にボトムス王国の軍は迫っていないようですし、姉様がアレクさんにお話もあるそうなので。

 「オレ、何かやらかしたか・・・セベとシャノンの件か?ベルディアでは大人しくしてたと思うし、エルフの件は当然知らないよな・・・・ハッ!まさかあの馬!国宝級!」


 自身が、メリンダの暗殺を予感しありサイたちを返したことも忘れて、アレクは仮面の剣士に渡したベルディア公国の馬の値段を換算しているようだ。


 「ふふ。帰ってからのお楽しみという事で。」

 「だー!怒られるタイプの奴やー。」


 久しぶりの平和に誰もが安堵の表情を浮かべている。今までの懸案事項であったベルディア公国との同盟も思う形の終わりを迎えることが出来、エルフ族と言う長い間国交のなかった種族とも再び国交が復活する兆しが見えて来た。不運にも起きてしまった地揺れによって多くの死傷者を出してしまったが、復興の方も順調に進んできている。それにあの地揺れは、ボトムス王国でも相当の被害が出ていることだろう。そんな状態でイグニアス王国に大々的に攻め入るようなことはしてこない。

 アリシアはつかの間の平和を感じていた。実際にその翌日には、リズベルを含む自警団の全員で王都へ向かい、二日後には無事王都へと帰還した。



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