表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/70

再会そして・・・

 エルフの王子、ポールとの三英雄戦が無事互いの思惑が折り合いのつく形で終了し、アレクはバルドとポールと共に今後のイグニアス王国との同盟の内容について協議を重ねていた。イグニアス王国についてあまり詳しくないアレクが協議に出た理由はアレクなりの責任も感じてのことだろう。嘘はついていないとはいえ、ターニャの人生を決める選択の一番の要因をアレクが創ったといっても過言ではい。だからこそ、アレクなりに考えた結果が、これなのだろう。


 「では、アレク殿。よろしくお願いいたします。」

 「はい。やれるだけやってみます。イグニアス王国側からの要求は今後アリシア達と正式に。」

 「そのアリシア様が、暴君ではない限り、エルフ側にそちらの要求を拒否する理由はありませんな。」


 声質の割には老人臭い言い方をするバルドと、アレクは握手を交わす。

なお、エルフ側から提示されたエルフ側からの基本的な要求内容は以下の通りであった。


 『エルフの里がボトムス王国並びに侵略行為をあった際、国の防衛に支障のない範囲での軍事力援助。』

 『軍事的経済的な協力関係構築に向けての協議を進めること』

 『エルフ国内においてのイグニアス王国の人間の商業の自由権利。なお、その責任は、自警団、アレクが全面的に保証する事。』

 『エルフ国の半従属関係をイグニアス王国と結ぶ。』


 と言ったもので、その他の条約内容は、今後の協議で進めていこうとの話し合いが、三日に渡り行われた。

 注目すべき内容は、エルフ国の従属であり、その内容を持ち題したのはポール本人であった。人間が、エルフの民への安全を保障してくれるのであれば、属国になることもやぶさかではないという姿勢を表した一文であり、アレクへの信頼の一文である。アレクやフィルビアもアリシアであれば、王女の名前を使ってエルフの安全を保障してくれると、何度も言ったのであるが、

 

 「こういうのは形が必要なのだ。」


 と、押し切られてしまった。

 しかし、実際に条約を結ぶときには、アリシアやメリンダの舐めを使う事になるだろう。その際は、この一文は消える可能性は非常に高い。


 「それじゃあ、直ぐにでもイグニアス王国に帰りたいんだけど、どうやれば帰れるんだ?」

 「簡単です。あの森を抜ければ直ぐにでも王都へ向かう街道に出ることでしょう。四日もあれば王都へ着くと思われます。」

 「ありがとうございますバルドさん、ポール。本当に世話になりました。」

 「気にするな、アレク。・・信じているぞ。」

 「ああ、しっかりアリシアに伝えるよ。任せておけ。」

 「そのこともそうだが、ターニャのこともだ。」


 結局、ターニャは、アレク達と共に自警団に同行することでここでの話はまとまってしまった。彼女自身の承諾を得ているので、無理やり連れて行くわけでは無いのだが、何も知らないエルフの民からすれば、人柱に近い役割をターニャに与えているようなものだ。イグニアス王国とエルフの同盟のための生贄であると。


 「・・・ああ。任せてほしい。」


 バルドと握手を交わした後、ポールともアレクは固い握手を交わす。


 その夜、バルドとポールの二人と協議した条約のないようについて、フィルビアとシャノン、ルシア、ターニャ、オフィアを交えて話をした。フィルビアとオフィアは何度か話し合いに参加していたのであらかたの情報は持っていたが、従属の件はポールとバルド、アレクの間で進められていた為、その一分に関しては誰もが驚いていた。


 「まぁ、正式な条約文は、アリシアやメリンダ様の名前が無いと出来ないから、いくつかの変更があると思うけど、そういう意思があるってことらしい。オレもパイプ役として話を進めるけど、ターニャの話が重要になってくる事は覚えておいて欲しい。」

 「ええ。任せて。これでもあなたたちより長く生きているのだから。」

 「それも、そうだな。よろしく頼む。」

 「それで?いつ帰るんだい?」

 「上でリズたちも心配しているだろうからなるべく早く帰りたいんだけど、みんなは一通り用事は澄んだのか?」


 それぞれ、エルフの里においていくつかの用事を抱えていたことはアレクも知っている。アレク自身、オフィア達に買ってもらった≪ブラスト≫と言う風魔法の使い方を習ったり、エルフの里にしかない書物等を買いあさったりなどしていた。しかし、あの地震からもう七日以上の時間が経過してしまっているので、上に残しているリズベルやフェルヴィオ、ピリア、セベのことが気がかりになっているし、彼らも心配していることだろう。一刻も早く自分たちの安否を知らせたい気持ちも強まってきている。今日までは少々慎重に話を進めていたが、それが終わった今、一日でも早く合流したいのがアレクの本心である。


 「わたしは大丈夫だよ。薬草も買ったし、これも貰ったから。」


 シャノンは一冊の分厚い本を満足げに見せてくれる。オフィアに聞いた話では、ここ三日間はとあるホビットの老人に薬学を学んでいたらしい。それに必要な薬草や素材等々もその老人が買い与えてくれたらしく、準備は万全らしい。


 「私も一応大丈夫かな。」


 フィルビアもターニャと一緒にグランドウルフの使役に成功したの、残りの時間を観光や槍の稽古に使っていたので準備は出来ているようであった。

 無言で頷いたルシアも、折れてしまった槍を新調してもらい、バルドからいくつかの稽古をつけてもらったようで、数日前の落ち込んでいた表情は少しは回復したように見える。

 オフィアは、アレク達と一緒に行きたいようであったが、ターニャに加え、オフィアまで行ってしまったらエルフの国の防衛が成り立たなくなることも十分に分かっているので、今回はエルフの里に残る。


 「あたしも大丈夫よ。お母さんにもしっかり挨拶してきたわ。」

 「よし、じゃあ、明日にでも出発しようか。」


 全員がアレクの言葉にうなずく。オフィアが森を出るまでの案内人を名乗り出てくれる。三英雄戦から三日後、リズベルたちと離れることになった大震災から実に八日の時間が過ぎていた。









 一方、ボトムス王国との国境警備のために建てられた西の城塞に残されたリズベルたちは土砂によって王都との連絡は途絶え、復旧するのに約四日の時間を費やしようやく、道と呼べるものが復旧することが出来た。

そして、アレク達の三英雄戦が終了し、協議が終了した日と同じ日のこと。王都での復旧作業もめどが立ってきたため、アリシアはサイラスと共にリズベルたちが向かった西の国境の砦にようやく入ることが出来た。


 「ようこそいらっしゃいました。アリシア様。・・・」

 「形式の挨拶はいいです。リズ、・・自警団の面々は?」

 「それが・・。」


 渋る様に言葉を濁し、砦の主の表情が明らかに曇るのを見て、アリシアの頭にいやな予感が駆け巡る。その後、リズベルを含む自警団の面々あった時には、安堵したが、泣き崩れながらもその場にいない人物の説明をするリズベルを抱きしめるアリシアの顔には、晴れやかな感情は一切感じられなかった。


 「大丈夫。フィルなら、大丈夫だから。」


 リズベルに向けてそう語るアリシアは、寧ろ自分自身にそう言い聞かせるように、何度もリズベルにそう言い続けた。

 一通り泣きつかれたリズベルを借りているベッドに寝かせ、アリシアは、サイアス、フェルヴィオ、砦の主の四名で崖の下に落ちてしまった人物に関する対応策を協議していた。


 「普通に考えれば助からないでしょう。約900メートルですよ?気に引っかかって助かるような話ではありません。」

 「・・・。」


 フェルヴィオのド正論の意見にアリシア達は何も言い返すことが出来ない。普通に考えれば、助かる訳が無い。ルシアやフィルビアの天馬がいなくなっているのであれば、僅かな可能性はあったが、その二頭の天馬は、この砦の厩舎で大人しくしている。

 しかし、


 「天馬たちが大人しいという事は、主たちが無事な可能性も十分にありますよ?」


 サイラスの言葉に全員の視線が向かう。


 「天馬は、基本的主を変えません。主が死した場所で自分も死のうとする習性があります。もし、ルシアやフィルビアはが死んでいるのであれば、暴れてでも主のもとに行こうとするのではありませんか?」

 「死んだことにすら気付いていなかったら?」

 「それはどうだろう。天馬は普通の獣とは違う。彼らとの絆は特別なものだ。」


 実際に天馬と絆を結んだ者にしか分からない不思議なつながり。サイアスもフェルヴィオも含むここにいる誰も天馬に乗ることが出来ないので、確かな確証にはならないが、天馬騎士団の面々に聞かされてきた話が正しければサイラスのいう事にも希望が持ててくる。


 「で、では、生きていた場合助けに行く必要があるのではないのですか?」


 二人の騎士が視線で火花を飛ばし始めてしまい、雰囲気を変えようと砦の主が、話題を進める。


 「それこそ不可能だ。『入れずの森』は文字通り、決して入ることが叶わない。ボトムス王国側からは入れるような話も聞くが、鬼が出るという噂だ。」

 「同意見ですね。あの森を踏破するのは現実的に考えられません。しかし、同様に上から向かうというのもいい案ではないでしょう。」


 会議は意味をなさずその後も『生存の可能性はゼロではないが、助けに行くことは不可能だろう』と言う結論から動かない事にアリシアは苛立ちを覚えていた。それは、その意見を打診してくる二人の騎士に対する苛立ちではなく。自身の生きているかもしれない部下、いや仲間を助けに行けない事実に対して。

 すると、その会議をしている部屋の外のいる兵士が騒いでるのが耳に入る。その音は、二人の騎士も気が付いたようで、サイアスは、アリシアを庇うように、フェルヴィオも魔法の準備を始める。

 扉が勢いよく開かれ、転がるように入って来たのは、アレクが自警団に連れて来た新しい仲間、セベであった。


 「アリシア様!お願ぇだ!シャノンを!シャノンを!」


 ボロボロの表情で土下座をする。たまに上がる顔にはリズベルにもあった深いクマが目の下にあり、涙で目の横は赤くなっていた。リズベルを看病しているピリアの話では、リズベルとセベの二人は、ほぼ不眠で、助けに行こうとしていたらしい。ほぼ力ずくでそれを止めていたが、二人とも気を失う以外では眠っていなかったようだった。

 何も言えないアリシアに対してセベは、泣きかすれた声で何度も何度も頭を下げる。

 そのまま、気を失ってしまったセベを運び、王都の復興の後、不休でここまでやってきて疲労困憊のアリシアも一つの部屋を借りベットの上に腰掛ける。


 「どうすればいいというのですか・・・。」


 命が助かっているかどうかも分からない。天馬が反応していない事を考えると大事はない。そんな物は、楽観的に現状を見た感情的な結論だ。現実を見ればフェルヴィオの意見が正しいのはサイラスにも分かっているだろう。森に入る事も出来ない。もし、最悪の場合にも、アリシアはフィルビア達の亡骸すらも見つけることは叶わない。しかし、それを打開するすべは持ち合わせていない。


 「なんでこんな・・・。」


 いいことが続いていたと思っていた。アレクが現れ、野盗の襲撃を大きな損害が出ないうちに乗り切ることが出来た。予てより進めていた同盟も締結し、大震災の後でもメリンダは無事であったし、王都の復興も大きな混乱など無く進み、メリンダの暗殺と言う未曽有の危機も脱することが出来たというのに。

 アリシアは自らの手のひらを眺める。その掌で掴めるものはなにか?

 それは、剣しかない。


 「・・何が宝剣に選ばれた者よ・・。」


 自分の力では何もできない。

 街で野盗を撃退した時も、セバスやリズベル、アレクが居なければアリシアは死んでいただろう。ベルディア公国へ向かう間に村が襲われているという情報を貰った時でも、リズベルたちが居なければ助けることは出来なかった。メリンダの暗殺を予見したのもアリシアではない。王都の復興もメリンダや天馬騎士団が居れば十分だったのではないだろうか?

 そんな思考がアリシアの頭の中にぐるぐると回り続ける。

 宝剣に選ばれたといっても何が出来る訳では無い。そんな無力感に包まれ、アリシアは木を失うように眠りに落ちた。

 そして、夜が明けた。


 アリシアが起きると、外にはもう既に日が昇っていた。ベルディア公国との同盟締結以降七日以上の復興期間はほぼしっかりとした睡眠などとることは無かった。それに加え、アリシアの乳姉妹であるフィルビアの安否不明。精神的な不安は、アリシアの体に無理を強いることは出来なかったようで、実に11時間の眠りにアリシアは落ちていた。

 寝間着姿から、淡い青のシャツと麻色のズボン。最小限の金属製の鎧と腰に剣を下げて自室を後にする。


 「・・なにかあったのかしら?」


 完全に覚醒したアリシアは、先日と違う砦の雰囲気を感じ取る。と言っても、昨日は夜に来ていた為、昼間の砦の雰囲気と言う可能性もあるが、不思議に思ったアリシアは、無作法にならないように急いでいた女中の一人を呼び止める。


 「あの、何かあったのですか?」

 「ア、アリシア様!?いえ、申し訳ありません。城門の方に見たとこもない生き物に乗った一団が近づいてきていると報告がありまして、一応の戦闘準備をしているところです。」

 「ありがと。」


 イグニアス王国の王女であるアリシアに話しかけられたことで、緊張していた女中はアリシアに礼を言われると、いそいそと仕事に戻る。アリシアもとりあえずは、自警団かもっとその一団に関する詳細な情報を持っている人を探し始める。

 と、言ってもこういった場合は、とりあえずその城門に向かうのが普通であろう。ボトムス王国に面した城壁の方へ向かってみたものの慌ただしい雰囲気はなかった。


 「いいかしら?城門に一団が来ているという話を聞いて来たのだけれど?」

 「はっ!こちらではなく、東方の門だと報告を受けております。」


 無駄に大きな声で返事をしてくれた城門の兵士に礼を言いつつ、アリシアは急いで東方、イグニアス王国側の城門へと向かう。そこには、遠くに目線を飛ばすサイアスとフェルヴィオの姿があった。砦の主は下層で兵の準備をしているらしい。


 「サイラス。フェルヴィオ。どう?」

 「アリシア様。ここは危険です。そのような装備で。」

 「問題ないです。ですよね、サイアス。」

 「はい。何があろうと、御身は御守りします。」


 フェルヴィオの心配もアリシアには分かるが、そんなに悠長に構えてもいられない。この方向から敵が来たとあれば一大事だ。双眼鏡をサイアスから受け取り、よく見てみると山道を上ってきている一団が見える。人数はごく少数。十人にも満たない数だが、二頭の見たこともないほどに大きい獣も見える。と言っても山ほどでかいのではなく、馬より少し大きいくらいの四足歩行の獣。全員が同じ深緑色のフード付きのローブをかぶっており、その一団が何処の国に所属しているかが全く分からない。行商人や大道芸人の一団にしては、荷物が少なすぎるし、ボトムス王国の軍にしては堂々とこの砦に向かってきていて不自然だ。かといって、野盗のでもなければアリシア達が知っているイグニアス王国のものでもないだろう。


 「何者なのでしょうか?」

 「分かりません。戦闘になるかもしれませんね。私も装備を着てまいります。」


 そういうと、アリシアは自室に置いてある淡い青色の装備を身に着ける。白いインナーと淡い青の配色にアリシアの蒼い髪が映える。サイラスたちの待つ場所にアリシアが帰るころには先程の一団は肉眼でもなんとか見え距離にまで近づいてきていた。

 向こうもこちらに気付いたようで、友好的にこちらに多を振っているようなしぐさをしている。アリシアの蒼い髪は、遠くからでも目立つし、サイアスの白亜の鎧も同じく目立つ。彼らにとって、アリシアとサイアスが不都合な存在でないのであれば、こちらに害意は無いのだろう。


 「アリシア様。どうやら朗報の様です。」

 「誰か分かったのですか?」

 「ええ。我々も下に行きましょう。」


 誰とは明言することは無く、緊張感のある表情からいつもの柔らかい微笑みを浮かべた表情で下の大広間にサイアスは向かう。それについてゆくアリシア。フェルヴィオもついてきているようだが、途中で別れ、リズベルの所に向かう。

 一階の城門の手前、広間には、砦の主と砦を守護するための数人の兵士達が戦闘のために気持ちを入れているようであったが、サイラスが、その必要がいない旨を伝えると安堵の表情と声を漏らし、城門を開け放つ準備を進める。


 「サイアス。誰なのですか?」

 「フィル達ですよ。見たこともない獣に跨っていましたが、後ろもアレク達でしょう。ただ、フェルヴィオから聞いていた人数と少し会わないようですが・・。」


 よく見てみるとその一団の人数は六人と、聞いていた人数であるアレク、シャノン、フィルビア、ルシアの五人と合わない。

 その辺りに疑問は残るものの、サイアスにはあの一団がアレク達に見えたのだからそうなのだろう。

 門が開き、すぐ外には先程の一団が立っていた。門を開けて兵士達がどよめく声が辺りを包むアリシア自身もかなり驚きを隠せない。なぜなら門を開けた目の前には二頭の規格外のサイズのオオカミがいたからだ。横を歩く深緑のフードをかぶった一番背の高い人物の頭がオオカミの鼻先にあるので、大体、肩の高さが140センチくらいだろうか。馬であればかなりの大馬である。

 当然、肉職種であろう大きな牙や、強靭な足腰、爪の大きさに至るまで今まで見たことのあるオオカミと形は同じでも大きさが圧倒的に違っていた。言ってしまえば怪物。そんな獣を敵か味方か確証のない人物が乗っているのであれば、警戒してしかるべきであろう。

 オオカミの上に乗っていた一人が地面に降りアリシアの方に歩み寄る。一番背の高い人もその人と並ぶようにアリシアの前にまでくると、気付いたようにフードを取る。


 「なんだか久しぶりな感じだな、アリシア。ここにいるとは思わなかったよ。」

 「心配させちゃったかしら?ごねんね、アリシア。」


 そこには、生きていることを心の底から願っていた人たちの顔があった。フィルビアそれにアレク。後ろの二人も続いてフードを捲ると天馬騎士団のルシアに新しい仲間であるシャノンの無事な顔がそこにあった。

 嬉しさのあまり泣き崩れそうになるのを堪える。今は、砦の兵士の目もある。


 「無事でよかったです。本当に、本当に心配しました。」


 思わずフィルビアに抱き着いてしまったが、これくらいはいいだろ。

 アレクもサイアスと話しているようだ。


 「シャノン!」


 大きな声が、上層の階段から聞こえて来たと思うと、


 ドドドドド。

 

 と、何かが階段を転がり落ちてくるような音が響き渡る。


 「ちょっと、なにやってんのよ。」


 シャノンがその階段を転がり落ちた人物に近づくと、その人物―セベは破顔して泣き崩れる。


 「よかったべー。ジャノン“に何かあっだら、おら、おら”ぁー。」

 「もう、しっかりしてよ、男の子でしょ。」


 そういうシャノンの瞳にも涙が浮かんでいた。それもそうだろう。それも仕方のないことだと思う。下に落ちたメンバーからしてみれば、上に残っているメンバー全員が生きていると願うことしかできなかった。下に落ちるよりは生存の可能性は高いといってもあれほどの地揺れに巻き込まれれば、命を落とす可能性は決して低くない。


 「フィル姉ぇ!アレクさん!シャノン!ルシア!」


 さらに階段の上から聞こえた声に視線を向けてみると、そこには、リズベルが足に力なく座り込んでいた。安堵からくるような笑顔を浮かべているが、遠くからでも分かるほどその顔色は、疲労困憊をにじませていた。階段を下りてアレク達のもとに来ようとしているが、横に立っていたフェルヴィオに支えられてもまともに歩くことが出来ていない。


 「リズはねー、ずっと頑張ってたのー。

 「っ!? ピリアかびっくりした。」


 突然後ろから話しかけられたアレクは背筋を伸ばし、後ろを振り返るとピリアが立っていた。


 「地揺れの後のこの砦と山道の復旧、アレク達の救出作戦の立案までやってたのー。」


 地揺れが起きてからすぐの頃は、アレク達がいなくなったことで泣き崩れていたようだが、翌日には自身の立場を理解して指揮系統の中心に立っていたようだった。しかし、根を詰めすぎたようで最初の内は気絶することでしか休まなかったようだ。昨日、アリシアが到着したことでようやく休んでいたようだが、それでも連日の疲労がまだリズベルの顔からは抜けていない。


 「よかったー。よかったよー。」

 「心配かけてごめんね、リズ。」


 床に膝をついたリズベルにフィルビアは駆け寄り優しく抱きしめる。アリシアも側によると三人とも本当の姉妹のような雰囲気を持っている。


 「ピリアもいっぱい心配したのー。無事でよかったのー。」


 薄い笑顔に抑揚のないしゃべり方。それでもピリアの安心の感情が伝わってくるのはなぜあだろうか。涙こそ流しはしないものの、セベやリズベルのように心から安心していることがアレクにも伝わって来た。


 「心配させたな。ピリアも無事で何よりだ。」


 その後も自警団の面々や砦の者たちと互いに無事であったことの感情を共有し合った。リズベルは再び眠りに落ち、ピリアとフェルヴィオで彼女を運び、シャノンも疲れが出たのか案内された部屋で眠りに落ちてしまった。ルシアは、天馬騎士団のことが気になっているようで一足早く天馬に乗り、王都へ向かう伝令兵と共にバルムントに帰って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ