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章間 ルシア

  空の色は、いつも見ているものと同じはずなのに今日見る空は、こんなにも違って見えるのはなぜだろうか?

 エルフの里の話は、幼い頃から物語や噂程度でしか聞いたことがなかった。しかし、その話以上にエルフの国は素晴らしい風景が広がっていた。空を突くように高い山に挟まれた原生林。その木々をつなぐように建てられた彼らの住処は、その森の一部であるかのように一体になっている。

 木々からこぼれる木漏れ日も良い。暗くならない程度に、これから夏に向かう日差しを遮ってくれている。こんな風景。この遠征に参加しなければ一生見ることは出来なかっただろう。


 ルシアにとっては、初めての遠征だった。最年少で天馬騎士団に入団し、模擬戦や修練を重ねて団長やこの国の英雄たちである自警団員の方々にも見劣りはしないくらいの実力を身に着けたつもりだった。しかし、気付けば今年で16歳の誕生日をむかえ、同い年の女の子達も天馬騎士団の候補生として何人か本隊との合同訓練に参加し始めてきている。


 このままじゃいけない。


 別に他の女の子達と差を付けたいわけでは無い。元々大きな差があったと思えばいい、みんなもわたし以上の努力を重ねていると思えばいい。ただ、そうではないのだ。同年代と差があることをいいことにルシアが怠けてよい理由にはならない。

 しかし、天馬の扱いは、こちら(人間側)がどんなに頑張ったところで上達はしない。それは、彼ら(ペガサス)の気分だってある。そちらは焦ることなく、ゆっくり信頼を深めていけばいい。で、あるならば今わたしが出来るところから始めなくてはならない。まずは、槍術。

地上戦でも、天馬が居なくても戦えるようにならないとならない。

 

 「結局、通用しなかったな・・。」


 そして、あの地揺れに巻き込まれ現在いる『入れずの森』の中に存在するエルフの国でその王子たちとの決戦の日を控えることになるなんて思ってもいなかった。

 そこで痛感したのは、己の未熟さであった。ルシアが対戦した相手、バルドに自身の槍術は全くと言っていいほどに通用しなかった。バルドの鎧にルシアの槍が届いたとしても、バルドを傷つけることは敵わない。最終的には、ほとんど八百長気味にルシアは勝利を手にしてしまった。

 先程、エルフ族のターニャと共にエルフの国を見に行ったフィルビア、シャノンを見送ったルシアは、一人だけになった寝室を出る。するとそこには、円卓の上で先程と同じくエルフ族のオフィアという女性談笑している黒髪の男性と目が合う。



 「おはようございます。アレクさん。」

 「おう。おはよう。」


 強くなりたい。

 そんな、これからの漠然とした目標を持っていた時にアレクさんと出会った。

 本心をいえば、アレクさんが模擬戦の相手をしてくれると聞いたときはがっかりした。わたしは、強い人と戦いたいのではなく強くなりたいのだ。しかし、彼はわたしに新しい戦い方を示してくれた。わたしの限界を教えてくれた。別に彼でなくてもいいと言われればそうかもしれないが、しかし、彼の戦い方は、わたしに衝撃的だった。

 常に先を読み続ける。相手の攻撃の流れを、相手の呼吸の方向を、相手の体に隠された真意を、だから彼に攻撃は当たらない。なぜならば、アレクさんは、まるで薄っぺらい小説のようなわたしの攻撃の全てを読み切っているのだから。


 今までの人達にはなかった。


 槍術の師匠であるフィルビア様にもたまに相手をしてくださるアリシア様にもスフィア様にも当然、団長方でも経験できなかった。彼らにも攻撃を簡単に避けられる時もある。けれどそれは、勘と経験からくるものであり、ルシア自身もそれを磨くようにしてきた。

 けれど、アレクさんとの戦闘で経験したものは、それらとは異なっていた。わたしの進みたい方向に彼の剣が存在し。わたしの槍の方向に彼はいない。そんな感覚を与えられる戦い。


 こんな風に戦いたい。


 今まで漠然と、ただ強い騎士になりたかった。そうすれば、みんなが認めてくれるから。みんなと対等になれるから。

 

 しかし、一朝一夕では、アレクのように戦うことは不可能であることも分かっていた。アレクとの模擬戦以降、必死になって相手を読むように心がけていたが、バルドとの英雄戦ではその張り詰めた神経が持つわけも無く、最終的には気絶するように倒れそうになってしまった。


 「あ、あの。アレクさん。」

 「?どうした?ルシア。」

 「槍の修練に付き合ってもらっていいですか?」

 「熱心だな・・いいけど・・・。」


 アレクは、今まで話していたオフィアの方に目線の飛ばす。何の話をしていたのかはルシアには分からなかったが、彼らの明るかった表情を見る限りではそこまで重要な話をしているようには見えなかった。だからこそ、頼んだというところもあったのだが、気を遣わせるくらいならと、


 「い、いえ。忙しいのなら大丈夫です。」


 と、逃げるようにエルフ族のオフィアが用意してくれた家を飛び出す。

 1人、金属製の胸当てに淡い赤のインナー、赤い刺繍の入ったスカートにエルフ族から借りている革製のブーツでエルフ族の里を誰もいない草原で眺める。


 「はぁ。またやっちゃった。」


 天馬騎士団のときもこうだった。何かしてほしいことを口にしようとしても迷惑になるという思考が先行し、上手にしゃべることが出来ない。団長たちに遠征参加をお願いしたくても指名されないのは実力不足と思い今までも強くは志願しなかった。今回は、自警団の面々が忙しいという事と、早急に向かわなくてはならないという理由で、天馬の扱いに長けた者として選ばれたことは本当にうれしかった。

 でも、今はその天馬とも離れて、天馬騎士団の面々もここにはいない。唯一と言っていい知り合いのフィルビアは、いざこざの収まったエルフの里を散策しにターニャと一緒に行ってしまった。


 「どうかしたか?ルシア嬢よ。」


 突然後ろから話しかけられたバリトンの利いたいい声にルシアは思わず変な声が漏れそうになるのを必死にこらえ振り返る。

 そこにいたのは、ルシアの予想通り、エルフ族の英雄バルドであった。白髪混じりの茶髪をオールバックにし、緑色のフルプレートの鎧を着ていても分かる大きい筋肉。紛れもない英雄。ルシアが本来勝てるはずのない存在。

 反射的に立ち上がるとルシアは、全力で頭を下げる。


 「あの!すみませんでした!」

 「?何のことだ?貴殿は何もしていないぞ?」

 「い、いえ。その、実力に見合わない戦績が・・・。」


 ゴニョニョしゃべるルシアの言葉の端を聞き、言いたいことを理解したバルドは、おおらかに笑う。


 「はっはっは。気にすることではない。ルシア嬢。貴殿が強かった、それだけだ。」

 「で、ですが。バルド様に勝てるほどでは・・・。」

 「うむ。確かにそうだな。負けたワシが言っても説得力はないが。だが、それを気にする必要はない。しかし、貴殿の戦いぶりは実に見事。あのような戦いをする者は初めて出会った。」


 その戦い方も自分のものではない。アレクの真似をしているだけに過ぎない。もし仮に、今までのルシアの戦い方をしていたら、バルドはルシアに対してわざと負けてくれることは無かっただろう。


 「それも、わたしの戦い方では無いです。」

「ふむ。それが悪いことなのか?自身より優れた者に学ぶことは悪いことではない。どう、自身に消化できるかが重要なのだ。」

 「・・はい。」

 「むう。迷いは鈍らせるぞ。矛も自身もな。」


 そういうと、多忙であるバルドは去って行ってしまう。

 バルドには、闘いのさなかに感じるものがあった。それは、ルシアの迷いだ。必死に戦っていたルシアの矛には、バルドのような一流の戦士にしか分からないレベルの迷いが乗っていた。だから、時間があれば話したいと思っていたのだが、このような時間しか取れない自身の役職が悔やまれる。


 「迷い・・か・・。」


 再び、一人になってしまったルシアは、バルドの残してくれた言葉を口の中で転がす。

 そんなものが無かった日など無い。天馬騎士団に入ってから、ずっと迷いと言うか不安が付きまとっていた。憧れの天馬騎士団に自分が見合う存在なのか?なにをすれば彼女たちのように輝けるのか?

 それは今でも変わらない。何をすれば認めてもらえるのか。対等な存在に立てるのか。何を信念に強くなりたいのか。ルシアにはもう分からなくなりつつある。


 「ルシア。いきなり飛び出したからびっくりしたぞ。って、どうした!?」

 「へ?」


 また、突然話しかけてきたのは、アレクだった。そして、知らない間に涙がこぼれていることにルシア自身も気付かなかった。


 「なんでも無いです。あ、目。目にゴミが。」

 「・・・大丈夫ならいいが・・。」


 分かりやすい嘘にアレクは乗ってくれたのか、ルシアの隣に座る。

 聞くに、逃げるように飛び出していったルシアを心配しして探し回っていたらしい。自警団の団員でもないルシアに、いや、アレクとほとんど接点など無いルシアにまでアレクは優しい。


 「・・・あの、アレクさん。」

 「ん?」

 「アレクさんには、迷いはありますか?」

 「迷い?そんなもんあるに決まってるだろ。迷わない人間なんていないよ。」


 やはりそうだ。迷わない人間なんていない。では、バルドはエルフ族だからあんなことをいったのだろうか?だとしたらルシアは一生、バルドの言う強さには辿り着けない事だろう。


 「ただ、悔いは残さないようにしてるよ。迷った選択の結果が最良だったって信じるようにね。もちろん、そんなことは無いんだろうけどさ。オレには記憶がないから、何をやって来たか分からないんだ。だから、せめてこれからは後悔無いようにね。」

 「記憶が、ない?」

 「あれ?話してなかったか?オレはアリシアと出会ったここ20日間くらいの記憶しかないんだよ。だから、ルシアはオレの中じゃ古参お知り合いだぜ。」


 と笑いながら、アレクは衝撃的な事実を語ってくれた。

 記憶がない。それは、ルシアの想像するどれくらい悲惨な事なのだろうか。世界に自身の居場所など無い。たった一人で誰も信用することが出来ない。さらにアレクは、この国誰もが知らない存在だ。故にその孤独は想像を絶するものだろう。自分が何者なのかも分からない世界でなんで彼はこんなにも強く有れるのだろうか。


 「アレクさんは、なんで戦うんですか?」

 「やっぱり気になるんだな。まぁ、カッコつけるならルシアやみんなに笑っててほしいからかな。本音を言うなら、もう一人になりたくないからだ。アレクとして、みんなのために頑張れば、また記憶をなくしてもアレクの仲間なら探し出してくれそうだろ?」


 その笑顔は、今までアレクが見せた笑顔と何一つ変わらないものだった。けれど、ルシアには、その笑顔が寂しく思えた。彼は、アレクとして自警団のイグニアス王国のために尽くしている。自信が分からない以上は、その存在にすがるしか存在価値を見出すことが出来ないと。


 「大丈夫です、アレクさん。皆、あなたを探してくれますよ。」

 「そうか?個人的にはルシアにも探してほしいんだけどな。ほら、槍の稽古するんだろ?許可貰ったし行こうぜ。」

 「はい。」


 迷い。それを取り払う方法はまだルシアには分からない。強くなるために一番の近道であることも理解している。でも、ルシアには、側にいてみていたい存在が沢山いる。彼らの強さを見つけ、それを糧に自身の迷いを晴らせばいい。こんなにも迷いながら進んでいる人がいるのだから、わたしだっていつかは。


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