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決戦 ポールVSアレク


 森の中にある小さな里。そこは人間の住むどんな国よりも自然が豊かで多くの太古の姿を残す動物たちと暮らすエルフの里。太陽の光は、生い茂る原生林の木々に遮られ心地いい木漏れ日へと変わり、澄んだ川の穏やかな水だまりは、鏡のようにその緑を際立たせていた。

 そんな自然を愛し、動物と共に生き、争いを好まない心優しい種族であるエルフの日常では、滅多に起こることのない熱気に包まれていた。

 里の中の一角。年に何度も使用することも無い闘技場内に集まったエルフたちは、食い入るように眼下に広がる闘技場を見つめていた。


 「よう。えーっと、族長の息子のポール様だったっけ?」

 「・・・黙れ、貴様と馴れ合うつもりはない。」


 闘技場の中には二人の男性の姿が見受けられる。

 片方は、身長176センチ、中筋中肉の男性。男性にしては少し長めの髪を少し後ろに流し、残りの前髪を目に届くくらいに伸ばしている。白地のインナーの上から体よりも少し大きめのローブを羽織っている。ズボンの方もローブよりも少し淡い色の黒。腰からは簡素な革製の鞘に入った剣を下げていた。

イグニアス王国の自警団によって拾われた過去のない男性―アレク。数百年に一度の大震災に巻き込まれ、期せずしてエルフの国に入ることになった男性。そして、特に考えもしないで起こした行動から現在は、エルフの次期族長と命を懸けた決闘をすることになってしまった男性でもある。

 そんなアレクと対峙しているのは、身長184センチと高身長で金髪の男性。短く切りそろえられた髪をオールバックにし、鋭い緑色の瞳は、一直線にアレクを捉える。その凛々しい素顔は、憎悪で歪んでいた。さらに、アレクとの決定的な違いは、その尖った耳にあるだろう。

金属製の全身を覆う軽装備は深い緑色に統一されており、腰からは鞘や柄にさえ仰々しい装飾の施された剣を下げている。

 次期エルフ族長を継承することになる男性―ポール。現在エルフの里を襲う鬼族(オーガ)との戦争においての最高責任者。そして、アレクによって自らの思い人であるターニャを奪われようとしている男性。


 「なんだよ。フィアンセがとられたことが、そんなに不服か?」

 「・・彼女の幸せだ。我が看過するところではない。」


 ポールも本心をいえばまったく気にしていないわけでは無い。初めてターニャと言う女性にあったのは、もう十年も昔のことになるだろう。次期族長として、幼少期より先んじて訓練を行っていたポールは、同世代の指導役として訓練所を訪れた時、ターニャと出会ったのだ。その時は、別段何か思うところがあったわけでは無い。ただ、十年という時間が、ポールをターニャと言う女性に引かせるのには十分すぎただけの話である。そんな、人生の半分近くを共に過ごした女性が、昨日今日であった男にしかも、エルフ族よりも劣る人間なんかに靡くなんて信じられないし、受け入れられない事実である。

 しかし、私怨だけで動くことのできない立場であることは十分に理解している。バルドなどの実力者は、ポールが、私怨でこの三英雄戦を開き、アレクを殺そうとしていると思っていることだろう。最後のアレクを殺そうとしているという部分は正しいかもしれない。だが、それだけがポールの考えではない。


 「じゃあ。なんで戦うんだ?バルドから聞いたぞ、今、イグニアス王国と戦争するだけの余力は無いって。」

 「余計なことを・・・・。良いだろう、教えてやる。それは貴様らが人間だからだ。」


 エルフ族は、遥か昔。今ではその頃の状況を知る文面さえあまり残っていない昔では、今と違い人間とも交流があったと言われている。共に生活をし、繁栄を極めたという記述も存在するにはしているのだが、それ以上に人間によって捕らわれ、迫害されてきた史実の方が色濃く残っている。


 「人間は信用できない。お前やお前の国の王が、どれほど信用にたる人物であったとしても、それは人間全体の信用とは別問題だ。」


 アレクは何も答えない。

 人間は信用できない。それは史実からも証明されている。今のイグニアス王国の国王が、尊敬できる人物であることは、一刻の王になる者としてある程度の情報は持っている。しかし、それが国全体の民に言える話ではない。必ずよこしまな考えを持つ人間はいる。その考えの矛先は、同種である人間よりもエルフに向ける方が、心のリミッターは外し易いことだろう。


 「我はこの国を愛しているのだ。この国の民が大好きなんだ。そんな、エルフの民が人間に凌辱される可能性を高めることなど、我は、看過できない。」


 人間は忌むべき存在である。歩み寄れば必ず痛い思いをする。そして、それを強く残すのは、数だけは多いい人間ではない。


 「でもこのままじゃエルフは滅ぶかもしれないだろ。」


 アレクのいう言葉にも一理ある。現状、エルフの里は鬼族(オーガ)との戦争を抱えている。それは、鬼族(オーガ)が、人間の国であるボトムス王国の侵攻を受けているからであり、その鬼族(オーガ)がエルフとの戦争に負ければ、必然的にボトムス王国は、エルフの里に進行してくるであろう。そんな折に、後方に広がる大国であるイグニアス王国との間にしこりが存在すれば、少数部族であるエルフ族は、滅びの運命をたどることになるだろう。


 「そうかもしれない。しかし、我は族長として、後世に汚名は残せない。」


 もしここで人間と国交を得ることが出来れば、エルフ族は残る可能性は高いかもしれない。人間の支配下に置かれるかもしれないが、種として滅ぶことは無いだろう。しかし、ポールは、後世にこう語り継がれることになる。『人間にエルフを売った王』であると。


 「そろそろ開戦だ。武器をとれ。」


 ポールは自身の得物を右手で腰から引き抜く。

 対するアレクも腰に下げていた曲剣を右手で抜刀し、懐の中に左手を入れる。

 両者の戦闘の準備が整ったと判断したように闘技場内に銅鑼の音が鳴り響く。







 「アレクさん。勝てるでしょうか・・・。」


 心配そうに闘技場内を見つめるターニャ。アレクには、この国の未来と一緒に自身の未来をベットしている。それを果たすためには、アレクにはこの試合確実に勝ってもらう必要が存在する。なぜならば、この試合、ポールが勝利するという事は、アレクの死という意味に直結するからだ。そうなれば三英雄戦の陣営勝利など関係ない。アレクのイグニアス王国内での地位は分からないが、彼の魔法の規模とルシアほどの強者に勝つことの出来る剣術を持っているところから察するに、国の英雄であることは予想できる。そんな彼を殺した国に協力を快く受けることは無いだろう。そうなれば、エルフの未来は真っ暗だ。


 「大丈夫よ、ターニャ。アレクは負けないから。」

 「フィルさん。」


 側にいるフィルビアと言うアレクと同じイグニアス王国の自警団の人間が、ターニャの肩をそっと抱き寄せる。

 不安はぬぐい切れることは無い。でも、ターニャも信じてみたいと思う。

 ポールの気持ちもターニャやオフィア、バルドと言った穏健派にも十二分に理解できていた。史実で語られる人間のほとんどは、エルフを亜人と呼び、人間と似て非なる存在として迫害してきたことを彼が次期族長として気にしていることも。

 けれど、バルドは言っていたのだ。


 『人間は、エルフよりも成長が早い。同じ失敗を繰り返すほど馬鹿でもない。』


 と、そして、それをターニャの師匠であるオフィアが信じると決めたのだ。それをターニャも信じたい。


 「時にオフィアさん。一ついいかしら?」

 「なんだい。フィル。」

 「この英雄戦に勝った後に何を約束してるの?」

 「?。まだ話していなかったか?鬼族(オーガ)との戦争にイグニアス王国の助力を得ようと思ってな。その、交渉をアレクにお願いした。」


 その言葉御聞いて、フィルビアは苦笑いを隠すことが出来ない。他にも、アレクと同じ自警団に所属しているシャノンやイグニアス王国の天馬騎士団に所属しているルシアも小首を捻っている。


 「どうしたんだいフィル。彼は、あの規模の魔法を使う剣士なのだろう?人間の基準は、あまり分からないが、バルドの話ではそこそこの地位を持っていてもおかしくない英雄との話だったが。」

 「まあ、強いは強いんだけどね・・・。彼、アレクは・・・」


 そこで、アレクが記憶を失い、自警団に入ってまだ間もないこと、さらに、イグニアス王国外出身で貴族院や衆議院からの信用は皆無であることをターニャとオフィアに語った。


 「まぁ、自警団の団長は王族だし、同盟の件は快く受け入れるかもしれないけど、アレクが確約できるほどの地位は無いと思うの・・・」


 別に、アレクはターニャやオフィアを騙したわけでは無い。現にアレクは、自身が交渉において心許無い存在であることを話しているし、確証は無いと忠告もした。その上でオフィアは交渉役を頼んでいたし、彼女たちエルフ側からアレクのイグニアス王国内での立ち位置を聞いたことは無かった。

 しかし、アレクがオフィア達の勘違いを利用したのは、事実であり、アレク自身もオフィア達が勘違いしていることにも気付いていた。それを確かめる方法は存在しないが。


 「・・・信じます。信じますともアレクさんが勝利することを。けど、」


 ターニャは、アレクに一発かますことを心に決める。別にアレクが悪くないことは分かっている。彼のことだからこの三英雄戦に勝てば、責任をもって同盟のパイプ役もこなしてくれることだろう。しかし、そんな事は、関係ない。理不尽だと言われても構わない。

 ターニャは、エルフとして成人を迎えた証拠である成長が止まる時期も来ていないのに、人間と形式だけでも結婚し、国を出ることを決意したのだ。それは、アレクを勝手であるが信じたからだ。その裏切りが一発だけであれば、彼はきっと許してくれるだろう。と、ターニャは自己完結させる。


 「(そうだ。彼は、あたしの借りがあるのだから・・・ふふふふふふ。)」


 と、不気味な笑みを浮かべている時。三英雄戦最終試合である大将戦の開始を告げる銅鑼の音が鳴り響く。


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