第二戦 フィルビアVSバボア
アレク達の控室に満身創痍の状態でルシアが戻ってくる。バルドが手加減をしてくれたおかげで、致命傷につながるような大きな怪我は一切していないが、酷使しすぎた脳と体は悲鳴を上げていた。控室から自由に出入りすることが出来るオフィアがルシアの肩を支える形でようやく休息に入ることが出来た。
「お疲れルシア。いい試合だったよ。」
「本当よ。驚いたわ、バルドをあそこまで本気にさせたエルフはいないわよ。」
アレクとオフィアの称賛にルシアは素直に喜びを感じることが出来ない。これでいいはずなのだ。
バルドに認められた。だからこそ、最後の一撃で彼は自ら倒れてくれたのだろう。
予定通りの展開のはずだ。ルシアは勝ったのだ。しかし、
「(・・・悔しい。)」
また、勝たされてしまった。こんなにも悔しい勝利は、アレクとの模擬戦を行って以来のことだ。
強くなれたと思っていた。アレクに出会い。彼の戦い方を見よう見まねでも意識し、彼から学んだ自身の弱点を改善できているつもりだった。しかし、バルドには全く通用しなかった。彼の体力の一割も削ることもかなわなかった。なのにまた、アレクとの模擬戦の時のように「勝利」。という結果が残ってしまった。
「・・・ありがとうございます。」
ルシアは、称賛の声に対して形だけでも笑顔を見せる。
これでいいのだ。目的を果たしたのだ。これが最良の結果なのだ。
と、自身に言い聞かせて。ルシアは開いている控室の長椅子に腰掛ける。そこにフィルビアが歩み寄って来る。
「お疲れ様、ルシア。また、強くなったのね。」
「・・フィルビアさん。」
「泣かないの。悔しいのは分かってるから。まだまだあなたは強くなれるわ。だから、頑張りなさい。」
「・・はい。」
ルシアの本心を理解しているように、フィルビアはルシアの頭を抱く。フィルビアの胸の中でルシアは必死に悔しい涙を堪える。フィルビアの言う通り、これから強くなればいい。バルドやアレクのような強者にもう二度と負けないように。その為の時間は沢山あるのだから。
「ありがとうございます、フィルビアさん。次の試合頑張って下さい。」
「ああ。そのことなんだけどね。・・・・」
そこで一度言葉御止めると、全員に聞こえるようにフィルビアは振り返る。フィルビアとルシアのことを気を利かせて見守っていた全員が、フィルビアのアクションに反応して視線をフィルビアに飛ばす。
全員が注目したことを確認すると、フィルビアは言葉を続ける。
「私。次の試合、辞退しようと思うわ。」
オフィアの思惑通り、ルシアとバルドの試合は上手に進めることが出来たとことにターニャは、一先ずの安心を得ることが出来た。あのエルフの英雄バルドに正面から戦って勝てる人物を想像することは出来ない。そんな戦士が一勝譲ってくれたのだ。アレクという名前の黒髪の人間(あたしに求婚中)の采配は間違っていなかったと言えるだろう。
そして、次に控えているのはルシアさんの師匠でもあるフィルビアさんと、バルドに認められたルシアさんを圧倒する強さを持つというアレクだ。
先鋒を決めるときにフィルビアは、「この中で一番弱い。」と、言っていたが、師匠が弟子より数段齢ということは無いだろう。ルシアより弱いとしてもほんのわずかな差であるとターニャは予想している。で、あるならば、次の英雄、バボアの実力と拮抗することだろう。それにこちら側は、王手をかけているという精神的有利も加味すれば、大将戦を前にして決着がつく。
と、言ってもこの三英雄戦は、三本勝負全てが終わるまで行うことには変わりはない。そういうルールだし、その前に陣営勝利が決まったとしても大将戦は行うことになる。だとしても、これでアレク達が、延いてはイグニアス王国がエルフの国の後ろ盾となるためのパイプを作り、イグニアス王国との無駄な戦争を起こさずに済むだろう。
しかし、問題となることはまだ残っていた。それは、この三英雄戦において対戦相手を殺してはいけないというルールは存在しない事である。族長の息子でもあり、次期族長となる王子―ポールが、アレクを私怨で殺すとは考えられないが、可能性としてはゼロではない。その時は、アレク本人に頑張ってもらうしか・・・・。
「・・・なんだけど。」
ターニャが一人で考えに更けていると試合から帰って来たルシアと話していたフィルビアが、控室にいる全員に対して、何かを話し始める様子を見せる。
そのフィルビアに対して、全員の視線が集中するとフィルビアは再び話し始める。その内容は、誰もが驚く内容であった。
「私、次の試合、辞退しようと思うわ。」
「は?どういうことだよフィル。」
「だってその方が面白いじゃない。それに、私が出ても出なくてもアレクが族長の息子との試合に勝たないといけないんでしょ?」
アレク達がこのエルフの国で罰を受けないための条件は、この三英雄戦で陣営勝利し、鬼族との戦争での有用性を証明することである。その為に必要な残りの勝利数はあと一回。それは、アレクかフィルビアのどちらかが勝てばいい話である。
しかし、先程も言ったように陣営の勝利が確定したとしても最後まで試合を行うことのになる。その為、ここでフィルビアが辞退したとしたら一対一の戦績で大将戦を行うことになるのだ。
「ちょっと待ってくれよフィル。もしもの時のために陣営勝利をしておくのも悪い手ではないぞ?」
と、鬼族との戦争のためにも、エルフ族の今後のためにもイグニアス王国とのパイプを作りたいオフィアが、フィルビアの説得にかかる。
「それもそうだけど、次の英雄。バボアだっけ?そこそこ強いんでしょ?」
「まぁ、そうだが・・・。だが、バルドほどの強者ではないぞ?」
「だとしても、王子の方が弱いならそっちでの勝利を狙うべきだわ。それにね。」
と、フィルビアの考える勝利への方程式なるものを語ってくれた。
フィルビア曰く、ルシアの特出した身体能力を人間の平均値であると誤認させることが出来ること。
もし、フィルビアが負けた場合、相手に試合の流れを持っていかれること。
それと、
「アレクが、『お前の女を奪う人間はこんなにも強いんだぞ。』って〆た方が面白いじゃない。」
だ、そうだ。
最後の考えはさて置き、フィルビアの考え方は、アレクも同意せざるを得なかった。拮抗した実力での一対一の戦いは情報戦である。いかに相手の手を読み切り、こちらの奥の手を見透かされないかにかかっている。人間の交流の無いエルフ族は、アレク達が初めて見る人間側の戦士である可能性は高い。その時に、ルシアの身体能力が、人間の一般的であると誤認してくれれば、王子側の士気は低下する可能性が高い。で、あるならば、下手にフィルビアが戦うよりも一番弱い王子との試合にかけた方が、陣営勝利も見込める。と、言う話である。
「・・・最後のは別としてフィルの考えには一理あるな。」
「でしょ?なら決まりね。任せたよ、アレク。」
「・・・ああ、わかった。善処するよ。」
しかし、この方法は、相手側にも有利な点が生まれる。それは、精神的負担の軽減である。もう一杯も出来ない試合が不戦勝でなくなるという事は、普通の戦闘での勝利に比べ、影響は少ないものの、心の余裕は生まれることになる。だが、次鋒の三英雄-バボアに負けるよりはましである。と、アレクは判断を下した。
「じゃあ、言って来るわ。」
そういうとフィルビアは、オフィアと共に選手の入場口に降りて行ってしまった。
「大丈夫なんですか?アレクさん。」
心配そうにターニャが、アレクに歩み寄る。
アレクが強いという事は、ターニャ自身で確認したことは少ない。森の一角、直径にして200メートルの森を吹き飛ばすことのできる魔法を使用する剣士。そして、バルドが認めた戦士を圧倒したという情報もある。それだけで考えれば、アレクがポールに勝利することは難しくないだろう。しかし、不安というものは、聞いた情報だけでは決して拭い去ることは出来ないものだ。
「不安は無い。・・・と言えば嘘になるかな。でも、これが今、一番可能性の高いやり方なのは確かかな。」
「そう、ですか。わかりました。」
ターニャにはどうする事も出来ない。彼ら自警団に賭けたのだ。もう、その彼らか下した決断に賭けてみるしか道は無い。
数分後、三英雄戦では前代未聞のはずの辞退の申し出が受理され、闘技場内はブーイングの嵐が巻き起こり、エルフ陣営側の控室では、自身が最も信頼を置く英雄バボアの強さを見せつけることの出来なかったポールが、激昂しつつも、自陣の勝利が近づいたことに喜びを感じていることは、アレク達は知る由もなかった。




