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英雄バルド


 「・・女。名を聞こう。」

 「ルシア・セルビアン。」

 「・・・ルシア・セルビアン。戦士としてワシは、そなたを見誤ったことを詫びよう。そして、貴殿の全力を引き出させて見せよう。」

 「・・・お願いします。」


 先程の一撃を食らったという事実があったとしても、両者の実力の差は、互いに理解できた。どう頑張ったとしてもルシアが本気になったバルドを打ち負かすことは叶わないだろう。しかし、先程までとは、バルドの目が違う。意思が違う。気持ちが違う。剣が違う。

 対峙するのは、戦士と戦士。交わるは、剣と槍。交差する視線は、確実に相手を捉えている。


 その後、ルシアとバルドは一進一退の攻防を繰り広げる。と、言ってもバルドは、ルシアへ友好的な一撃を与えないように手加減しつつ、ルシアの呼吸法を合わせた、見た目以上の一撃を、躱し、弾き、押し返し。

 一方、ルシアは自身の持つ全力で。今までのように特殊な呼吸を常に使った戦い方ではなく、適度にバルドの見せる隙に合わせ、また、防ぎきれない一撃を避けるための一手として使用する。

 その攻防は、見ているすべて者を魅了した。恐らく、バルドの余裕を感じられている者は、ほんのごく一部の実力者だけであろう。


 再び距離が開く。しかし、不満を上げる観客は存在しない。エルフの英雄が人間に対して後れを取ったことに苛立ちを覚えているのは、この戦いに負けられない族長の息子ただ一人だけだろう。

 誰もが黙り、眼科で繰り広げられている次の展開を待ちわびる。

 そして、再び状況は動き始める。やはり、先に動いたのはルシアの方であった。しかし、今回は、バルドの方も同時にルシアに対して距離を詰めるように進みだす。盾を前に構え互いの距離を測りつつ、絶対的な壁を携えて。

 交差と同時に鈍い金属音が再び鳴る。

 先程と同様、神速の突きを今度は、バルドの右手で持つ直剣で受け止める。はたから見れば、棒切れと大剣。実際にそのくらいの質量差は存在するし、腕力の差を思わせる対格差もある。


 「ッふつっ。」

 「はッ!」


 しかし、金属製で出来た槍は、その持ち主の対格差を感じさせないくらい、大剣の一撃を受け止める。大きくしなった槍は、大きな反発力をルシアに与えてくれる。

 その反発を抑えるのではなく利用することで、先程、バルドに一撃を与えたように体を捻る。

 けれど、直前に受けた一撃と全く同じ手を受けているようでは、エルフ族の英雄とは呼ばれない。渾身の一撃を放った右手の直剣による左から右への薙払いでルシアの突きを弾くと、難なくその次に放たれた槍による切り上げすらもはじき返す。

 一瞬の間に行われた神速の攻防にも拘らず、バルドはさらなる一撃の準備を完了している。二度のパディイで最初の突進の勢いが失われたルシアに対して、左手に持った盾による殴打が迫る。多くのエルフは、この一撃を甘んじて受けることを選択する。躱すことはたやすくない。しかし、殺傷能力のある一撃ではない。この盾を躱し、次に来る剣による一撃を受けるくらいなら、盾の一撃を利用して距離を取ろう。これが、今まで他のエルフ族の戦士が敗北してきた戦い方のパターンだ。

 何せ、この盾の攻撃以上に自分たちの攻撃は、バルドに対して有効では無いのだ。盾による殴打による一撃は、殺傷能力は低いものの短い持ち手は確実なダメージを与えられる。バルドの最大の武器は、重量8キロの直剣ではなく。総重量16キロという、盾による殴打なのだ。

 その思考を呼んだのか、はたまた、来る攻撃全てを回避するようにしているのかは不明だが、ルシアは、攻撃が二回失敗したことにひるむ様子は見せず、大きく一歩退くことでバルドの盾を躱す。

 素晴らしい身体能力であると観客の誰もが思う。バルドの連撃を躱せる者はエルフの身体能力をもってしても躱せる者は少ない。それを、人間というエルフに劣る種族が交わすことが出来た。しかも、2メートル以上の距離を作り。

 しかし、同時に悪手であると思う。

 バルドの最大の武器は盾による殴殺。しかし、それ以上にエルフの中でもずば抜けた身体能力なのだから。


 盾による一撃を躱したルシアに感心しつつ、バルドは2メートル以上出来た距離を一瞬縮めてしまう。

 それは、ルシアにとっても初めての経験だった。自分以上のポテンシャルを持つ相手が本気で戦うことなど。


 「・ふふ。」


 だからこそ笑みが零れてしまう。

 アレクは強かった。どこから反撃が来るのか分からないし、こちらの手はすべて当たらない。しかも、最大の武器である魔法を持たずルシアを手玉に取れるほどだった。

 サイアスには敵わない。本気を出されれば、なんで負けたのか分からないほど一瞬で勝負が着くことだろう。さらに行ってしまえば、彼が仲間に対して本気を出すことは無い。


 ルシア以上の強者は沢山いる。しかし、イグニアス王国以外に出たことのないルシアに対してその全てをぶつけてくれる人はいない。だからこそ嬉しい。上位の者が、そこで戦うことを許してくれることが。


 「ッはっ。」


 呼吸を整える。バルドが到達までコンマ0秒の世界で次の一手を探る。しかし、バルドには、両手にルシアを確殺することが可能な得物を有している。両方に集中しなければ、どちらの攻撃もバルドは可能だろう。しかし、どちらかに集中しなければ、そのどちらも受けきることは不可能な一撃。

 

 「ならっ。」

 「甘い!」


 一瞬の隙。この一瞬の間にバルドの攻撃を予想し、そのリスクを考え、構えを変えようとするところまでできる戦士は、バルドが生きて来た100年間の内、両手で数えるほども出会っていない。それをこの年で出来たことは称賛に値するだろう。

 

 合格点だ。


 いや、このルシア以上の戦士がいるのだともうと、バルドは眠っていた戦士の血をもう一度沸騰させようと思うほどだった。

 ルシアの思考がまとまり、盾による一撃を躱すことに集中したところに、直剣による薙払いを放つ。

 この一撃で落ちることは無いだろう。わざと槍に当て、吹き飛ばす。その後、負けてしまえばいい。これほどまでの戦士であるならば、鬼族(オーガ)との戦争でも十分な活躍をしてくれる。

 バルドは、ルシアの意識の外の直剣で槍をめがけて振り払う。


 しかし、


 「なに。」


 直剣の軌道が曲がる。確実に槍に当てたはずだった。その一撃は、体重の軽いルシアを吹き飛ばす。あの身体能力であれば、奇麗に着地し再び構え、バルドが負ける。それが、バルド自身で描いたシナリオだった。

 そのシナリオにルシアの方も不服は無いだろう。ここで、バルドが勝ってしまった場合、残り二戦確実に勝つ必要がある。そんな状況より、確実に勝たせてもらえる一戦を貰う方が。


 「・・・そうか。」


 やはり、バルドの戦士の血は眠っていた。騒いでいると感じていたのは、司令官として、この後、起きるであろう戦争での彼らの活躍を期待したものだった。

 戦士として当然の思考。それは、長い間の絶対強者の椅子が、バルドから徐々に奪い取って行ってしまったのだと再確認する。


 もらう勝利の虚しさ。





 盾の一撃を受けるために全身でルシアの意志をバルドに知らせ、バルドの手をルシア自身が制限させる。これは、アレクと戦い、自身で感じた常に感じる隙。今考えれば、ルシアにとっての最善の一撃は、アレクが欲しい一撃だったのだと思える。

 直剣の一撃は、想像とは少しずれていたものの、ルシアは、自らの槍を器用に利用し、バルドの直剣の軌道を少しずつ変えていく。アレクとの戦いでもやられたこの流し。アレクと違い、小さな力でとはいかないが、全力でバルドの方向を捻じ曲げる。

 

 「ッはっ。」


 直剣を弾き。左上方からバルドの体をめがけ槍を振り下ろす。

 全身全霊。

 先程までのペース配分を気にしたものではなく、自身の持つすべての技術を結集した、振り下ろし。これで決まらなければ負けても構わない。


 ガッキン!!


 今までにないような音が会場内に広がる。

 金属同士が当たった時と同様の音と共にもう一つの鈍い音が、全ての人の視線を集める。そこには、四散する金属片と倒れる一つの人影があった。

 こんなにも広い空を見上げるのはいつぶりだろうか。


 最近は本当に多忙な日々が続いた。

今になって思い出してみれば、事の発端になったのはあの未知の生命体が出現した、ほんの二十日前くらいのことだろう。その日を境に同じ森にすむ鬼族(オーガ)達の動きが変わってしまった。恐らく、その生命体が魔道実験によって生み出されたとしか思えない存在だったからだろう。ボトムス王国からの進行とも分からない状況で早計な判断だと思うが、それも仕方のないことだ。なぜなら、彼らの種族の長は、その生命体に殺されてしまったのだ。優れた指導者失った国の末路は悲惨なものだ。しかし、彼らには、それ以上の力を持っていた。単純な戦闘の能力に関して言えば鬼族(オーガ)は人間を、エルフすらも超越する身体能力を持っている。

 それからというもの、森に住む原生生物は凶暴化するし、鬼族(オーガ)の侵攻はやまないし、大きな地揺れは起こるし、人間は空から降って来るし、森は燃えてしまうし、族長の息子の癇癪(かんしゃく)で、今は人間の女性に打ちのめされて空を見上げている。

 けれどこれで一つ肩の荷が下りるというものだ。イグニアス王国は大国だ。そんな国が形だけでも後ろ盾になってくれれば、鬼族(オーガ)も延いては、ボトムス王国の侵攻は沈静化することだろう。

 さらに言えば、英雄などという重い肩書も失われるだろう。人間のそれもあんなにも細身で可憐な女性に敗北したのだ。これで再び戦士に、強さを求めるものになれる。





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