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三英雄戦

 突然のアレクの結婚に、誰もが驚きの表情で固まっている中をターニャは、仄かに赤面した顔で家の円卓にいるオフィアの横の椅子に腰を掛ける。扉の前で土下座をしていたアレクとそこからアレクを放そうとしていたシャノンの二人は、未だに扉の前で口を開いて放心状態のままだった。


 「あ、あの。ターニャさんそれは本気ですか?」

 「・・・。」


 初対面のフィアルビアの問いに対してターニャは、さらに赤面した顔を下に向ける。YESとも取れてしまうその行動にフィルビアは、口を閉じるのも忘れて、視線をオフィアに向ける。

 すると、


 「いやー。驚いたなー。まさか、ターニャもその気だったとは。よかったじゃないかアレク。こんな綺麗な嫁さんがもらえて。」

 

 その言葉を聞いてアレクがこちらを振り向くのと同時に、赤面したターニャが声を上げる。


 「え!オフィアさぁん話が違いますよ!」


 もうオフィア以外何が何だか分からないような表情を浮かべているのを眺め、オフィアは笑う。














 「一応、ターニャは、アレクの求婚を受けてもらう。そのことは間違いではないわ。」


 一通り落ち着き、全員が円卓を囲む席に戻ったところでオフィアが話を切り出す。その当人のターニャは先程からうつむいたまま、一切言葉を発していない。


 「どういうことですか!?オフィアさん!?」


 食い入るようにシャノンが身を乗り出してオフィアに詰め寄る。全員がオフィアの次の言葉に耳を傾ける。

 もう一度ふざけてみたい気持ちを何とか押し殺して、オフィアは話し始める。


 「ターニャは、人間に求婚を受けた。それも出会って数日もたたないうちにだ。これは、もうな変えようがないほどに広まっている。それを逆手に利用するのよ。」

 「どういうことですか?」

 「その噂で多くの中立だったエルフは、人間は信用できないと思ってしまった。けど、その当人のターニャが、人間を信頼していると分かれば、その人たちの考えも変わるわ。」


 詰まる話、ターニャをエルフとイグニアス王国との同盟のために政略結婚させようという話だ。


 「それならお受けできません。」


 アレクは、今までにない強い口調でオフィアに食いかかる。その強い目線にオフィア以外の誰も口を出させない雰囲気が生まれる。


 「安心して欲しい。もちろん。それだけではない。これは、ターニャの意志でもある。」

 「でも、それは・・・」

 「違うんです。」


 と、言いかけたアレクの言葉に重ねるようにターニャがようやく口を開く。


 「あたしも外の世界を見てみたいと思ったんです。みんないるこの国は大好きだけど、きっと外の世界触れればもっと大好きな国になると思うから。」


 その言葉を語るターニャの瞳には、嘘の色は無かった。外界に触れることで自らの国素晴らしさを再確認したい。そして、吸収してより良い国へ・・。

 ターニャは、真っ直ぐにアレクを見つめる。自信の真意を伝えるその視線にアレクは先に折れる形になった。


 「わかりました。ターニャさんが良いのであればその方向で進めてください。」

 「よっしゃ。じゃあ、三英雄戦は三日後からだ。きちんと準備しておきな。必要なものはあたしらが集めるからさ。」


 一通りこの谷に落ちてくる前にアレク達が装備していたものは、帰ってくるように話を進めてくれた司令官―バルドは本当に優秀だとアレク達は心の底から思う。今まで、エルフ族の衣装や、簡易的な一枚布の服で過ごしていたアレク達はいつも通りの服装に着替える。


 アレク。

体よりも少し大きめの黒いローブを白無地のインナーの上に羽織り、ローブよりかは少し淡い黒のズボン。腰には、市街地での戦闘で野盗たちの首領から譲り受けた曲剣を下げる。


 「その剣。どこで手に入れたんだい?」

 「?。こいつは、倒した野盗からもらったものだ。そいつは、買ったって言ってたな。」

 「そうか。そいつは、太古のエルフの技術で仕上げられた逸品だ。ぱっと見ではなんとも言えないが、かなりいいものだと思うぞ。」


 腰に下げた曲剣にオフィアから説明をされてアレクは、その剣に視線を落としてみると今まで気にも留めていなかった繊細な紋様が施されていることに初めて気が付く。刀身には、昔のエルフの文字と思われる文字が刻まれており、鍔の中央には、昔あったと言われている、国の紋章が刻まれていた。その国は、エルフの国ではなく人間の国の紋章で、あることから、エルフ族が人間と交流のあった1000年以上昔に鍛え上げられた逸品であることが分かった。


 「そんなすごい剣だったのか。これまで以上に大事にしないとな。それと、オフィア。魔導書は用意できるか?本気で勝ちに行くなら用意してもらいたい。」

 「アレクは、魔法も使うのか・・。了解だ。何とかしよう。」



 フィルビア。

 灰色のインナーの上に右胸を隠すように加工された金属製の軽装備。焦げ茶色の膝の部分だけが金属のついているズボンをはくと、金属製の腰当てを装備する。そして、こちらも金属でできたブーツを履く。戦闘時に着用する金属製の甲手は、動きが制限されるので現在は装備しない。


 「ターニャさん。三英雄戦は、騎乗できるの?」

 「いえ。三英雄戦は、基本的、騎馬やウルフに騎乗しません。フィルビアさんは、騎乗戦が得意なんですか?」

 「ええ。でも、ルールなら仕方ないわね。それより、エルフは、ウルフに騎乗するの?」

 「はい。森にいる『グランドウルフ』という種類の狼で、索敵能力も戦闘力も機動性も馬に負けません。足として使うには持久力で劣りますが、頼りになる相棒ですよ。」


 英雄サイアスを除けば、イグニアス王国でも随一の騎乗戦の天才であるフィルビアにとっては、その『グランドウルフ』なる、獣に興味が引かれる。

 フィルビア自身、動物の世話も動物全般も大好きで、同じく動物に好かれやすいピリアとイグニアス王国内で動物を飼育している場所に訪れることは、休日の日課でもあるくらいだ。


 「わたしは、欲しいものは特にないわね。ただ、グランドウルフ・・・一度見てみたいわ。」

 「それなら、このいざこざが終わったときにでも森に行きませんか?あたしもまだパートナーとなるウルフには出会えていないんです。」


 エルフ族の全てがグランドウルフに騎乗する訳では無い。それは、グランドウルフの騎乗には、いくつかの条件が起因するからで、その一番最重要の条件は、ウルフ側が決めることなのだ。故に、ウルフ側に見初められた者のみがグランドウルフに騎乗するようになる。


 「そうね。一緒に行きましょうか、ターニャさん。」

 「あの。ターニャで大丈夫です。年齢的には私の方が上ですが、私は、エルフの中ではまだ子供の方なので。」

 「そう?。ならわたしもさんは、いらないわ。ターニャ。」



 ルシア。

 黒い伸縮性に優れたインナーの上から胸部全体を覆い隠す金属製の防具を付け、赤いスカートをはく。その下には、上半身と同様に伸縮性の高い、下着を履く。腰当ては金属製の物だが、基本的な可動域に制限をつくらない形状。金属で出来たブーツをはくと、中指の部分だけで止まっている手袋をはめる。白銀の長い髪を後ろで束ねると、一緒の部屋にいたフィルと話していたターニャと目が合う。


 「あ、わたしもこの槍だけで大丈夫です。」

 「ルシアも天馬騎士なのよ。地上での槍術ならもう彼女の方が上だけどね。」

 「そ、そんなことは無いです。わたしなんてまだ・・・。」

 「ルシアさんも一緒にグランドウルフを見に行きませんか?もしかしたら良い子会えるかもしれないですよ。」

 「いえ。わたしはまだ、天馬の扱いもままならないので。」


 そういうと、アレク達が着替え終わっているであろう広間の方に行ってしまう。



 シャノン。

 深緑色を基調としたノースリーブの服に肘上まである手袋。同色のハーフパンツに、腰から膝下までの長さのある布の腰当て、動物の皮で出来たブーツを履いて、シャノンは、アレクの着替えを見ないようにオフィアの隣に座る。


 「シャノンは着替えないのか?」


 着替え終わったアレクは、シャノンに合図をして、円卓の向かい側に腰掛ける。


 「わたしの服、アレクさんの魔法での損傷が激しかったみたいでね。直せない事もないみたいなんだけどこの服貰っていいみたいだったから。」

 「ああ。我らの服を気に入ってくれて何よりだ。それにしても人間は、我らより顔立ちは素朴と聞いていたけど、シャノンくらいが平均なのか?」


 そうオフィアは、シャノンを一度見ると、もう一つの部屋にいるであろうルシア、フィルビアの方を見る。


 「そんなことないわ。この自警団には美人が多いのよ。・・・わたしだって村だったら美人だったのに・・・。」


 後半部分は、独り言に近く、ぶつぶつ、と呟いていた為、アレクには聞こえない。しかし、耳のいいエルフ族であり、隣に座っているオフィアには十分に聞こえてしまった。


 「そう悲観しちゃ駄目よ。あなたも十分かわいいわ。」

「ありがとございます。オフィアさん。あの、それとお願いしたいものがあるんですが・・・。」

「・・・。分かったよ。任せな。」

「お願いします。」




 



 そんな、たわいもない顔話をしている間に全員が着替え終わり、一同は再び円卓のある広間に集合し円卓の周りに腰掛ける。

 当然、話の議題は、三日後の行うと決まっている三英雄戦について話すことになる。


 「と、いう訳だが、どうやってその三人を決める?」


 オフィアの質問に対して、最も早く反応したのは隣に座っていたシャノンだった。


 「わたし以外の三人です。わたしは、戦えないので・・・。」

 「そう。分かったわ。次は、順番ね。恐らく、王子は、最後に出てくると思うわ。その他の二人の順番もあらかた予想着くわね。先鋒は、あなたたちも知っている男。あの司令官よ。」

 「え!?バルドさんって敵側になるんですか?」

 「もちろんよ。彼は、エルフ族始まって以来の最強の戦士なんだから。はっきり言って今回の三英雄の内、大将の王子が一番弱いと言っても過言じゃないわ。」


 エルフ族最強の男。『鬼殺しのバルド』。青年時代、エルフの里を抜けだし、人間と交流した。この時代では希少なエルフ族で、エルフ族の伝統的な剣術ではなく、人間よりの剣術を扱う片手剣士。重装に大きな盾を装備し、ここ数年にわたる鬼族(オーガ)の侵攻を食い止めてきた立役者である。

 身体能力の高いエルフ族は、その機動力を生かし軽い攻撃を加える、ヒットアンドアウェイ戦法で戦うものが多い。その戦い方でも十分に強いのだが、バルドは、あえてその機動力を失う重装備で戦うことを選択した。しかし、人間では大きく速度や機動力の制限される重装も身体能力の高いエルフ族の中でもさらに身体能力に優れたバルドは、重装備を着てもなお、軽装備の人間同等以上の機動力を有している。そのため、基本的に一撃の軽いエルフ族でバルドに勝てる者はおらず、その硬度は攻撃力には自信がある鬼族(オーガ)でも、苦戦するほどであった。故に、バルドは現在確認できるエルフ族の英雄の中でも最強と言われているのだ。


 「それってまずいんじゃ・・・。」

 「ええ。本気で戦われたら勝ち目がないかもしれないわね。でも、司令は、こちら側の考えの人。彼の期待に見合う強さで戦えれば、きっと片してくれると思うわ。」

 「そうなると、わたし以外が良さそうね。」


 オフィアの話を聞き、真っ先に先鋒を辞退したのは、フィルビアであった。

 ペガサスに騎乗した上空戦や騎馬の上での騎乗戦では、天馬騎士団の団長でも、楽な試合が出来ないほど強者であるフィルビアであるが、地上での単騎での槍術に関しては、自警団の中でも最弱であると自負している。実際、フィルビアが思っている以上の差は無いのだが、彼女は、ペガサスなしでの戦闘では、自警団の中では最弱な事には変わりはない。


 「では、先鋒はアレクさんが・・・。」

 「いや、先鋒はルシアにお願いしようと思う。」


 事前にルシアとの模擬戦でアレクが圧倒したという情報をルシア本人から聞いていたシャノンが、意見をいおうとしたのに対してアレクは、先鋒にルシアを起用する采配を下す。

 もちろん、ルシアは、自身よりもアレクの方が強者であると思っているため、黙っているわけがない。


 「待ってください。わたしでは、そのような人には勝てません。ここは、アレクさんに出てもらうのが・・・。」

 「いや、今の話を聞く限りじゃオレでも勝てないよ。でも、バルドさんの戦いだけは、勝つ必要がない。自警団の、オレらの実力を見せるだけでいい。」

 「であるならなおのことアレクさんが戦うべきではありませんか?」

 「だからこそルシアなんだ。」


 アレク曰く、

 ルシアの身体能力の高さ。槍術の練度。呼吸法を利用した見た目にそぐわない力が、バルド戦では重要である。と、いう事だった。


 「なんだか分からないが、この中で最強なのがオレってことになってる。その考えを逆手に取るんだ。」


 もし、アレクと司令官が戦い、司令官の御眼鏡に適ったとしても、他の二人は、この男より弱いと思うのが自然な思考だ。それが、司令官の求める水準でなかった場合、アレクを勝たしてくれる可能性が低下することもあり得る。しかし、オフィアの話ではアレクは、ルシアを圧倒できるほどの強者であるとなっているなら、ルシアの強さが司令官に認められた場合、アレク達を認めてくれる可能性は、ぐっと高くなる。


「・・・と、いう訳だ。それでいいか?ルシア?」

「考えが及ばずすみませんでした。自信はありませんが、やるだけやってみます。」

 「ルシアならできるさ。大丈夫だ。」


 それに、アレクには別の考えも存在する。ルシアの戦い方では、他のエルフ族には勝てない可能性があるからだ。元々、身体能力の高いルシアは、それに奢らず努力も重ねている。だからこそ大半の人間には、圧倒的なまでの差をつけることが出来ると言える。しかし、今度の相手は、人間よりも身体能力の高いエルフ族。つまり、今までルシアにあったアドバンテージは失われるという訳だ。三英雄の強さの基準は分からないが、アレクは自警団クラスの練度を想定している。さらに言うのであれば、ルシアには実戦の経験が全くないとアレクは、聞いている。ここ数年の平和。自警団が中心の野盗たちの討伐。そして、ルシア以上の強者との遭遇の回数。それらが圧倒的に欠如しているルシアでは、同等クラスとの戦闘の際に上手に立ち回れるかどうかが不安要素になってしまう。故に、ルシアの戦い方、呼吸法と身体能力を生かした戦い方では、限界があると思考しているのだ。


 「ならアレク。あんたは、大将。王子と戦ってみたらどうだ?お前の女を奪う人間は、こんなにも強いんだ。って言えるじゃないか。」


 オフィアの言葉に対してアレクは、自身のない乾いた笑いで返す。

 アレクの強さは、オフィアの中でも纏まっていない。アレクが起きる前にフィルビアやルシア、シャノンから聞いた話では、この中で一番の強さを誇る剣士であることは想像できる。それに加え、森で見たあの爆発と惨状。直径200メートルにわたる広大な範囲の森をたった一撃で吹き飛ばすほどの魔法使いは、エルフの中でも存在しない。そのクラスの魔法使いが、剣で純正の剣士を圧倒すると聞けば、いやおうなしに期待が膨らむ。


 「まあ、理由はさて置き、初めからそのつもりです。まずは、ルシアで一勝。フィルかオレで残りの一勝を勝ち取れればいいなと思ってます。一番弱いのがその王子ならオレが戦った方が、勝算がありそうですしね。」

 「一応、次鋒は両手剣を使う戦士だ。バルドが帰ってくるまで最強だったが、バルドの硬さを破る攻撃力がなかったから今では二番手に成っているが、相当の強者だよ。」

 「ありがとうございます。オフィアさん。」

 「いいさ。でも、これ以上は、話さないよ。私も戦士。あんたらの実力を見てみたしね。じゃあ、頼まれてたものを買ってくるから、ターニャとここにいてくれ。」


 そういうと、アレクに頼まれた魔導書とシャノンにお願いされた品々を買いそろえるためにアレク達が借りている家を出る。

 自分たちのものだからお金を出そうとするアレクに対し、オフィアは、

 

「『司令官から先払いの援助に対する報酬だと言われてるからね。必ず勝ってくれよ。』」


 と、かなりのプレッシャーをかけられた。


 「では、三日後までよろしくお願いします。武装を渡すことになるので、あたしとオフィアさんがこの家で一緒にいることになりますので。」

 「ターニャ。アレクに気を付けなよ。」

 「な!フィル。変なこと言うなよ!」

 「ふふっ。はい、気を付けます。」






 そして三日後の三英雄戦を迎えることになる。


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