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突然の真実

 エルフの里は、とても自然が豊かな場所だった。多くの家はツリーハウスのように木の上や中腹に建てられており、その木と木をつなぐように吊橋が架かっている。しかし、身体能力の高いエルフ族は、基本的には木から木へと飛ぶように移動しているため、吊橋が揺れることは少ない。

 アレクがいたのは、そんなツリーハウスの大樹の根元にある、地面を掘って作った家の地下で、森の入り口を守護する森番の詰所となっている場所だった。今アレクを先導しているオフィアもアレクの全裸を見て逃走したターニャもその森番で、アレク達が落ちてきた日の責任者だったらしい。

 現在は、その服をくれたオフィアに連れられて司令官のいる、ツリーハウスに向かっている。


 「全く、君たちはどうやって侵入したんだか・・・。」

 「・・・。」


 そして、今回問題になっているのは、アレク達がその森番の警戒ラインを越えて里に近い位置で気を失っていたことにある。それに加え、大きくは広がらなかったものの森が炎上することは、エルフ族にとってはあまりよろしい災害ではない。里の周囲は森に囲まれているし、家を含め生活域はすべて可燃性のもので形成されているエルフ族は、火の扱いには、厳しい規制がされている。

 アレク達は、知らないでこの国の国内に落ちてきたわけだが、郷に入っては郷に従え。と、いう言葉の言う通り、知らなかったでは済まない。森への引火は重罪なのだ。



 「けど、今のこの国にイグニアス王国と戦争するだけの余力はないから、命を落とすようなことは無いと思うわよ。」

 「?。どうしてイグニアス王国の人間だってわかったんですか?」

 「聞いたのよ。前に起きた、ルシアちゃんやフィルビアちゃん。それにシャノンちゃんから。」


 やはり、アレクの予想通り、アレク以外の三人は先に目覚めあらかたの事情を話してくれているらしい。しかし、落ちてくるときすでにスフィアとシャノンは気を失っていたわけで、現状を上手に説明できるのは、ルシアただ一人であろう。


 「そうですか。よかったです。」


 アレクの命は無事という事よりも、アリシア達イグニアス王国に悪影響は与えないことにアレクは安堵する。これは、アレクが記憶を失っていることにより自身の価値を見出していないのか、本心からイグニアス王国の方が大切に思っているのかはアレク自身にしか分からない。


 「・・・あの、余裕がないってのは、聞いてもいいですか?」

 「ああ。実は、うちの国は一応戦争中なんだ。と言っても表立った戦闘は起きてはいない戦争なんだが、一触即発状態な事には変わりがないんだ。」


 曰く、隣接する地図上では、ボトムス王国内に存在する鬼族(オーガ)が、ボトムス王国からの独立のためにこのエルフの国を吸収しようとしているらしいのだ。エルフ族も初めは、友好的に鬼族(オーガ)の独立を助けようとしていたのだが、どうやら、鬼族(オーガ)は、豊かなエルフの国を取り込むことを含めた独立が目的だったらしく、エルフの国も交戦せざるを得なくなってしまったのだ。


 「勝手な話ですね。」

 「しかし、強くも言えないのが実情だ。」


 鬼族(オーガ)は、長い間忌み嫌われてきた。力が強いから労働用の奴隷となり、人間に近い見た目だからこそ迫害され、理由もあいまいに淘汰されて現在の場所に国を築いた。しかし、繁栄はすぐに止まることになる。理由は簡単だ。前方に大国ボトムス大国後方にエルフの国を含むイグニアス王国がいる以上国土の繁栄も種族としての繁栄も見込めない。言ってしまえば、絶滅に向かっている種族でもある。その状況は、エルフ族にも言えることで、鬼族(オーガ)のような迫害の過去は無いものの、圧倒的な美貌を持つエルフ族は人間に多くの仲間を連れ去られてしまったという過去を持つ。そう言った人間への恨みは、鬼族(オーガ)にも劣らないであろう。


 「・・・なるほど。鬼族(オーガ)との戦争を控えているのに後方のイグニアス王国と戦争は出来ないってことですね。」

 「それもあるが、今、イグニアス王国との国交を復活しようという意見も強くなっているんだ。人間との交友は、自国の危険を増やすという意見が現在は優勢だが、今の聖王メリンダは信用に足りる人物だという意見も出てきている。」


 イグニアス王国と友好関係になれば、鬼族(オーガ)との戦争の抑止力になるし最悪、戦力にも考えられる。しかし、イグニアス王国も人間の国。過去にあった、悲劇を繰り返す可能性も十分にあり得るのも実情だ。


 「そういった理由でもあんたはピンチだが、逆にチャンスでもある。」

 「・・信用できるイグニアス王国とのパイプになるってことですか?」

 「!?。そうさ。話が早くていいね。」


 詰まる話、アレクにイグニアス王国とエルフの国との同盟関係をつなぐパイプにあることで、今の罪を帳消しにしようというのが、オフィアの考えだ。

 確かに、自警団員は、イグニアス王国の中でも他国に対しても大きな存在である。その団員の多くは、王族に関係のある人間で構成されており、それでなくとも英雄クラスの強者でもある。そんな人を仲間に入れることが出来れば、不届きな考えを起こす人間も少なくなる。と、いう特典もついて来る。

 しかし、オフィアの考えには、重要な部分が欠如している。それは、アレクの立ち位置だ。アレクは現在自警団に所属しているが、イグニアス王国の国民かどうかは曖昧だ。そんな人物が戦争状態の国との同盟の鍵になることは難しいであろう。アリシアやメリンダだけならば、信用してくれるだろうが、その他、貴族院の人たちや、民衆院、ひいては、国民が納得するとは思えない。


 「さあ、着いたよ。頼むよ、アレク。」

 「・・・はい。」


 そんな、話をしている間にエルフの里の中でも極めて大きな木の前にたどり着く。その木は、親木(おやぎ)と呼ばれる霊樹でその中にエルフの国の重要な機関が集まっている。国王や森番たちを総括する司令官のいる場所などなど。恐らくだが、スフィア達も先んじてここに来ていることだろう。

 ぬぐい切れない不安と共にアレクは、オフィアに先導されるままに司令官と呼ばれるエルフの元へと案内される。


 「失礼します。幽閉していた人間の男が目覚めたので連れてまいりました。」

 「・・オフィアか。入れ。」


 バリトンの利いたいい男性の声が、一枚の扉の向こう側から響く。この声の主が司令官と呼ばれる、エルフ族の軍事における最高責任者らしい。

 オフィアは、両開きのドアを開き、中へと入る。そこは、奇麗な装飾を施されており、床や机の上には一切ものが散らかっていない書斎のような部屋だった。中央には楕円形の机に、赤いソファーがついになって四つ置いてあり、その奥には、木製の机に両肘をつき顔の前で手を組んでいる『司令官』と思われ男性のエルフの姿があった。

 元々は、真っ茶色だったか髪は、現在では白銀に近い、白髪が混じっている髪を後ろで束ねている。顔は三十代のに見えるため、その声とその髪の毛はあまりそぐわないように見えるが、意外と違和感はない。尖っている耳からも彼がエルフ族であることは一目瞭然だ。


 「おはよう、アレク。」


 楕円形の机の前にあるソファーには、手前からスフィア、シャノン、ルシアが座っており、全員、アレクのような簡素な服ではなく、行き交うときに見たエルフの人たちが来ていたような服装をしている。

 全身緑や深緑色を基調とした配色で森との明細効果を高め、機動性を重視し、ハーフパンツ位の長さのズボンに腰から腿までの長さの布を腰に巻いている。上半身も装飾があまりないノースリーブの服に肘上までの手袋(?)を着用し、革製の長いブーツを履いているところを見ると、耳の短いところを除けばエルフと遜色ない。

 やはり、アレクとスフィア達との扱いには、差が生まれてしまっている。その理由は、やはりあの女性エルフ―ターニャに全裸で接近したのが問題だったのだろう。


 「早速だが、あの森を焼いたのは、お前さんか?それとも第三者か?」


 その問いにどう答えるのが最善なのだろうか?アレクが≪ファイヤ≫の魔法を落下時の緩衝材としてはなったのは事実だ。しかし、現状のアレクは言ってしまえばすでに崖っぷちだ。その状況で、森を焼いたとなれば、挽回は厳しいだろう。しかし、嘘を言ったとしてその事実がばれる方がもっと悪い状況に落ちる可能性が高い。


 「自分です。」


 しかし、アレクは、正直に答える。オフィアが示してくれた可能性を消すことになったとしても、嘘をついて今後、イグニアス王国にひいては、アリシアに迷惑をかけるくらいならと。


 「・・・どうやって森番の監視を突破した?」

 「地揺れにより起きた地崩れに巻き込まれ落ちてきました。」

 「900メートル以上あるがけだぞ?無事なわけがあるまい。」

 「その衝撃の緩衝材として魔法を使用しました。」


 司令官にその傍にいる二人が話しかける。信じられるわけがない。実際にその状況を見ていたルシア以外、スフィア達もそんなような表情を浮かべている。

もし、アレクの言う通りの規模の魔法を放ったなら、炎が燃え広がらないわけがないというのが、大半の理由だろう。それは、アレクが放った≪ファイヤ≫の魔法は通常の使用法ではない、アレクのみが使っている使用法をしたからだ。

通常、≪ファイヤ≫の魔法は火球を形成し着弾点を燃やす単純な魔法。しかし、アレクは、その形成途中で魔法を放ち、爆散させる≪ファイヤ≫の魔法を使用した。このような使用法は基本的には失敗の範囲で、炎が燃え上がることは無い。しかし、アレクは、その特性を利用し爆発の衝撃の無を残した≪ファイヤ≫を落下の衝撃とは逆方向に放つことで衝撃を相殺したのだ。

 当然、このような使用法は一般的ではないため、説明しようにも理解が追い付かないはずなのだが、


 「そうか。」


 司令官の男性は、そのことについて言及してこない。

 側にいる二人とオフィアは驚きの表情を隠せない。


 「なぜ嘘をつかない?自分の状況のあらかたは、オフィアから聞いているだろう?」

 「イグニアス王国は記憶のないオレに居場所をくれた国です。オレの身勝手で迷惑は掛けれません。」

 「・・・ふっ。国のためか・・・。」


 書斎の中から音が消える。誰もが司令官の次の言葉を待っている。


 「良いだろう。お前さんお言葉を信じたうえで、ワシが王に報告する。それまで、ここで待っていろ。」


 そういうと司令官の男性は、席を立ちあがり部屋から出ていく。どうやら人間の国のように裁判などは行わないのがこの国の形式なのだろう。司法も王が決める。国民を含め基本的善人であるエルフだからこそ成しえる国の形式なのだろう。


 「・・アレク。アリシアはそんなことで・・。」

 「分ってるよ、スフィア。でも、嘘をつきたくなかったんだ。」


 心配そうにスフィア達がアレクに話しかける。

 司令官と共に側にいた二人もついて行ってしまったため、ここには、オフィアとアレク達しかいない。部外者の方が数的有利を持っているのにオフィア一人が残されたところを見ると、スフィア達が信用されているのか、オフィアは、四人がかりでも倒せない強者なのだろう。

 そんな、オフィアは、微笑を浮かべてスフィアに話す。


 「大丈夫だ、スフィア。司令官は、私と同じ考えを持っているお方だからね。森の件では、おとがめは無いだろうよ。」


 オフィアの話を聞くとスフィアは、安堵したように大きなため息をつく。このオフィアというエルフの女性は、スフィア達からの信頼もある様で、シャノンもルシアもオフィアの言葉に疑いを見せない。


 「むしろ問題なのはアレクが、王子様のフィアンセに求婚しちゃったことかな?」


 「は?」 

 「え?」


 誰もが驚きの表情を隠すことが出来なかった。





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