史上稀にみる変態
最近は、自宅のベットで眠っていても召集のことが頭によぎり、ゆっくりやすむことができていなかった。それに加え、今日は、前日に起きた地揺れの被害の収拾に森での焼失の件、そして、どこからか侵入してきた人間達といっぺんに問題が発生した。そのため、部隊長であるターニャが自宅に帰れるわけもなく、今日は、森番の里での宿舎で止まることになった。
また、先ほど挙げた、森への侵入者の件は、どう考えてもターニャの管轄時間であったという方向でお偉いさん方は話がまとまったため、この一件をターニャに任せることが決定した。そのおかげで、朝早い森番の仕事は、他の優秀な人が引き受けることになったのだが、慣れ始めた森番の仕事をしていた方が気分的には幾分か楽だと今になって思う。
「はぁ。確かに侵入されたんなら私の時間だよね。」
ため息混じりに、森番の兵舎の地下へと下る階段をターニャは下る。ここは、問題を起こしたエルフを一時的に監禁しておくときに使用する場所で、件の爆発事件が、この者たちの犯行ではないと証明するまでは、この地下牢(?)で軟禁する方向でまとまった。
お医者様の話では、黒髪の男性以外は、多少の火傷はあるものの気を失っているだけで数時間もすれば目を覚ますとのことだった。しかし、黒髪の男性は、体内の魔力を急激に消耗しており、危険な状態であることが分かった。処置は済ませたが、魔力を失っている点から、あの魔法を起こした調本にではないか?と、いう疑いの目もむけられている。
石畳のこの地下牢は、かなり涼しい。最近では全く使う機会のない地下牢を、使用するのは、初めての経験だ。そのうちの一つ。黒髪の男性だけが収監されている房の前に前でターニャは、歩みを止める。
どうやら、魔力欠乏症の峠は越したみたいで無事目を覚ましているようだった。用意されていた、パンをこちらに背を向け食べている最中にターニャが近づいたことに気付いたようで、頬袋を膨らました状態でこちらを振り返る。
「おはよう。目覚めはどうだ?」
人間は見た目と年齢は比例している。つまるところ、この男性は、今年で25回目の誕生日をむかえようとしているターニャよりも歳が下だと言える。
黒髪の男性。筋肉は普通についているようだが、体の線は細めで一見ひ弱なイメージを与える。身長はターニャとほぼ同じなので、体重もあまり変わらないだろう。最も特徴的なのは、その髪と瞳だ。いや、黒い瞳はそこまで珍しいものではないが、黒い髪は一度もお目にかかったことがない。噂にも聞かないし、人間の村にも言った事のある商人にも話を聞いたが、黒い髪は人間でも見たことがなかったとのことだった。
そして、今は装備していないが、この黒髪の男性が持っていた曲剣は、エルフによって鍛え上げられた逸品であることもこの男性を怪しくさせる。
「・・・。」
無言でターニャの方へ視線を飛ばす。何もしゃべらないのは、理解できない訳ではないであろう。その証拠に、ちょっと待て。という手のひらをこちらに向けたサインをしている。このサインが、万国共通なのかは分からないが、ターニャは、もごもご口を動かす男性のことを待つ。
最後に水を使って口の中のパンを流し込むと黒髪の男性は、こちらに完全に振り返る。立ち上がることなく、座った状態で。そして、
「目覚めはいい。ただ・・・」
そこで一回言葉を切ると、黒髪の男性は、床の方に目線を飛ばしゆっくり顔を上げる。
「服をくれないでしょうか?///」
最近は、ベットで寝る方のが多かった。と言ってもたかが20日に満たない範囲での記憶なのだが、それでも外で寝るのと、ベットを使って寝るのでは、目な目の違いが分かるくらいにはなって来た。だからこそ、
「今日は、外か・・・」
アレクの全身を包む涼しい風に起こされながら、アレクは、惰眠をむさぼる。起きてはいるものの目を開けることなく、そのまま横になりながら。
ふと、地面にしては、異常なまでに床からの反発力が強いことに気付き、地面をなでてみると、今まで初めて寝そべる手触りがしたため、少しだけ瞳を開けてみる。すると、そこには、慣れた土や草の上ではなく石畳が広がっていた。
アレクの寝ている下には、申し訳程度に藁が敷かれてはいるものの、この体を包む全身の寒さが、そんなものの無駄さを教えてくれる。
起き上がることなく周りを見渡してみるとどうやら室内にはいるみたいだ。アレクの最後の記憶が、崖から落ちて魔法を使ったところで途切れているので、どうやら魔法で落下の衝撃を分散させる目論見は上手くいったらしい。
そこまで思考を巡らせてようやくアレクは体を起こす。まだ、意識は完全には覚醒していないようで、体の寒さは抜けない。周りを見てみることでようやく自身の置かれた現状を認識することが出来る。
「・・・ここは、牢屋か?」
簡易的な鉄格子。切ろうと思えば様々な方法で簡単に切ることの出来そうな細い格子の中。三面の壁は、床と同素材の石造り。藁を敷いた寝床意外には、トイレすらない牢屋。そして、入り口と思われる場所には、袋が一つ置いてある。
その袋の元まで近づこうとした時、アレクはようやく本当の自身の姿に気付くことが出来た。
「!!。なっ!?」
その後の反応は早く、一気に牢屋の角にまで飛び退く。その理由は簡単だ。何せ、
今のアレクは、下着すら来ていな真っ裸だったのだから。
「なんで全裸で捕まってるんだオレは!?」
大きな声を出してみるが、周りには誰もいないようで返事は返ってこない。半地下に埋まっている形状の牢屋の様で上の方から、人間が通れる細さではない縦に長い穴から太陽の光が入ってくる。どうやら、シャノンやフィルビア、ルシアは近くにはいないようだ。そして、他の人も。
ならば。と、覚悟を決めて袋へと四つん這いでにじり寄る。明らかに服が入っているほどの大きさも無い袋に淡い期待を抱いて。
「・・・ですよね。」
そんな袋の中に入っていたとしてもアレクが切れる大きさの訳が無いのだが、袋の中には、水袋とパンが一つ入っていた。
「はぁ。・・・誰かいないのか?」
もう一度声を上げてみるが、返事は一切ない。それどころか物音ひとつしない。ここが牢屋だとすれば、看守の一人もいてもおかしくもないのだが、どうやらその様子もない。
仕方なく、アレクはその場に全裸の状態で座り込むと、パンを食べ思考を巡らす。大きな地震が起き、山崩れに巻き込まれ、谷底に落ちていったことは覚えている。その後、魔法を使って衝撃を和らげようとしたことも。しかし、その後の記憶がない。なぜ、牢屋にいるのか。なぜ、フィルビア達がいないのか。そして、なぜ、全裸なのか。その時、
「おはよう。目覚めはどうだ?」
突然、後ろから少し大人っぽい魅力を感じる声が響く。今まで全く音はしなかった。この石づくりであれば、完全に足音を消すのは困難を極める。さらに、アレク以外に人がいないのであれば、無音に近い。思考と食事に集中していたとしても、声の近さからして真後ろに立たれるまで気付かないとは。
ゆっくりと首だけ捻り、後ろを振り向く。そこには、超絶がつくほどの美人が立っていた。もちろん、自警団員は基本的に皆美人しかいない。スタイルのいいボーイッシュなスフィア。お姉さん的な魅力を持ちつつ、気楽に接することのできるフィルビア。平坦な表情と声は少し怖いが、人形のように完璧な比で構成された顔を持つピリア。アリシアやリズベル、シャノンに至るまで自警団員は。いや、女王メリンダ、天馬騎士団のルシア、エリダ、アンジュも含め、アレクの周りには、美人しかいない。
その中でも目の前にいる女性は、今までに無い魅力を放っている。束ねることなく垂れる薄桃色の髪は、普段の手入れが行き届いているように輝いていて、灰色の瞳は、妖艶な魅力を感じさせる。その顔は、アレク達よりかは少々年上の印象。身長は、アレクとほとんど変わらないだろう。
体の全てが黄金比。たれもが目線を向けるほどの圧倒的な『美』がそこにあった。
「・・・。」
口に入っているパンが無ければ、思ったことをそのまま口にしそうだった。ちょっと待ってくれ。と、いう意思表示をしようと自然と手のひらをその女性に向ける。
口の中でパンをかみながらアレクは思う。もしかしたらこの女性にオレは服をひん剥かれたのか?と。もし、そうであるなら、この状況は、寧ろ、ご・・・・。
「(いや、冷静になれ。全裸で本当に振り向いて大丈夫なのか?この女性は、今日の看守というだけで、オレが裸であることと関係ないのではないのか?もしそうなら・・・)」
そこで、もう一度、その薄桃色の髪をした女性の方を振り向く。女性は、顔色一つ変えることなくアレクのことを見ているようだ。
つまりは、アレクが全裸なことに関係あるかどうかではなく。この女性は、アレクが裸であることには、動じることは無いようだ。
そう理解したアレクは、水袋の水を使い口の中のパンを一気に流しこみ、ためらいなく薄桃色の髪の女性の方を振り向く。
「目覚めはいい、ただ・・・。」
そこで、一瞬、羞恥心を感じたが、もう遅い。
そして、告げる。
「服をくれないでしょうか?///」
その後の展開はアレクには想像もしていなかったものだった。アレクの問いかけに対して薄桃色の女性は、完全な沈黙で答えたのでアレクが近づこうとしたその時、女性はせおってた弓と矢を取り出すと、弦を目いっぱいに引き絞り、放ってきた。幸いにも女性が目をつぶっていたため、アレクに放たれた矢は、右頬を掠め石造りの壁に突き刺さる。その後、一目散にアレクの房の前から走り去ると、帰ってくることは無かった。
「・・・。まずったかもしれない。」
いや。それはもう確実だ。彼女の悲鳴の上げ方からして、どう考えてもアレクが裸であることは知らなかったのだろう。それなのにアレクは、羞恥心の欠片も無い対応をしてしまった。いや、羞恥心はあった。しかし、それを隠すように対応したと言った方が正しい。けれど、そんなことはあの美しい女性には伝わるわけもなく、彼女の中でのアレクの印象は、全裸でも話しかけてくる変態。と、なったことだろう。
「クッソ!許すまじ。」
オレの服をひん剥き、あまつさえそのまま放置した奴が分かった曙には、一発入れないと気が済まない。
そんな感じで、アレクは先ほどの薄桃色の髪の毛の女性の帰りを待っていたのだが、一向に彼女は帰ってこない。そして、最終的にアレクに簡易的な服を持ってきてくれたのは、これまた、妖艶な魅力を持ったお姉さんだった。
「悪かったね。服を脱がすのは分けなかったんだが、着させるのは難しかったんだよ。」
「い、いえ。」
奇麗な女性には強く出れない。これは男の性だ。
先程の薄桃色の髪の女性とあまり年も変わらないと思われる、少し癖のある長い髪を垂らした栗色の髪の女性。身長は薄桃色の髪の女性よりかは大きく見える。本当にこのバルダーム大陸には、奇麗な女性が多い。そう思うアレクの国には、そこまで美人がいなかったのかもしれない。しかし、ここに来てから出会う女性とアリシア達には決定的な違いが存在する。それは、耳の形だ。アリシア達は、アレクと同様の形なのだが、彼女たちは尖った耳を持っていた。
アレクは、その女性―オフィアからもらった簡易的な服。ボタンも何もない白地のシャツに、少し丈の短いモスグリーンのズボンをはく(もちろん、下着も貰って)。
「あの、オレはなんで捕まったんでしょうか?」
「厳密には、起きるまでの軟禁状態だったんだが、お前さんが素っ裸でターニャに近づくから、上はもうカンカンだよ。」
最悪だ。最悪としか思えない。もしかしたらあの女性は、この国のかなりの地位についているもしくは、そう言った人の娘、あるいは、許嫁ポジション!?なんて想像を膨らます。
「それでなくともあんたは、魔法を使えそうな人だし、状況はかなり最悪と言っていいね。」
「・・・。」
もう、いいわけも見つからない。全裸で近づいたのは、アレクの軽率な行動がゆえんだし、魔法が使えそうという事は、魔法が使えたらもっと不利な状況に陥るという事が推測できる。これからは、状況が悪化する未来しか予想できない。
「あ、あの。他に近くにいた人はいませんでしたか?三人ぐら居たと思うのですが・・。」
「やっぱり仲間なんだね。・・・それなら何とかなるかもね。」
後半部分は呟くように口の前に手を当てていたのでアレクには届かない。すると、オフィアは、ニカッ。と、笑うとアレクの房の鍵を開ける。すぐに出るのは、やはり気が引けるのでアレクは、オフィアの指示を座った状態で待った。
「出ておいで、私からも一応、説明してあげるわ。」
「いいんですか?」
「ああ。最初から起きたらここから出る予定だったしね。その為に武装も服も引ん剝いたんだから。」
「はは。そうでしたね。」
乾いた笑顔を見せながらアレクは立ち上がる。そのせいで余計に不利な状況になったんじゃないかというのは、タブーであることも理解できている。
石と簡易的な鉄格子で出来た房を出るとそこは、自警団の兵舎にも似た雰囲気を持つ広間に出た。
何人かの男女が談笑していたが、アレクが階段を上ってくると女性たちが男性の後ろへと身を隠す気配が伝わってくる。そして、男性からは、隠そうとしない敵意を持った視線がアレクの全身を刺す。
「・・泣きたい。」
「後にしな。これから司令官に会いに行くんだ。そこにお前さんの仲間もいるからね。」
「あの。・・・」
そこまで、落とされた後ふと、アレクは疑問に思うことがある。それは、アレクが目を覚ましてすぐに誰もいなかったという事は、アレクよりも前にフィルビアを含む三人は意識を取り戻したことになる。今でこそ、その三人比べアレクに対する敵意の目は多くなったものの、意識を失った時点では、ほとんど同じ対応がなされたのではないだろうか。と。
「あいつらも、全裸にされたんですか?」
「?。ふふ。自分で聞いてみたらどうかしら?」
よし、気分が上がって来たぞ。




