章間 セベ
この時期にしては、涼しすぎるくらいの冷気もこの布団は遮断してくれる。村にいたころは、中に動物の毛を入れた少しざらざらした布団を使っていたし、この自警団についてきている間、多くの夜は、野営をすることが多かった。そのため、こうして布団を使うのは久しぶりのことだった。しかし、セベにとっては、冷え切った地べたの方がまだ眠りは深かったかもしれない。王族や貴族で多くの団員が構成されている自警団には、かなり上等な客室が提供されるようで、セベも例外なくかなり上質なベットへと案内された。今までに体験したことがないほど柔らかなベットは、瞬時に眠りに落ちたのだが、すぐに起きてしまった。
「・・・それなのに、妙にすっきりしてるべ・・・。」
時間にして4時間もたっていないのに、普段以上に深い睡眠をとれた気がする。やはり、寝床というものは重要なのだと再確認しつつ、セベは、慣れない客室を後のする。
外は、まだ日の出前の様だが、村の朝は早い。生まれ育った村ならこのくらいの時間ならば、幾人かの知り合いに遭遇するのだが、城の廊下には誰もいない。
城内を歩くには、かなり場違い布一枚を縫い合わせて作った青い簡素な服に、ベージュのズボン。裸足にサンダルに近い靴で城内を歩いていると、ようやく、一人の知人に出会うことが出来た。
「あ、フィルビア様。」
「?。あら、セベ。おはよ。早いのね。」
「村の感覚が残ってるんべ。フィルビア様こそこんな朝早くに、仕事べか?」
「仕事ではないけど、これから、ビュリオちゃんのお世話よ。」
ビュリオと言うのは、フィルビアが連れている天馬―ペガサスの名前で彼女は、これからその世話をするために、馬小屋へ向かうところだったらしい。
「おらもついて行っていいべか?」
「ええ。あの子も喜ぶわ。」
セベは、動物の世話はかなり好きな方だ。村に居たときは、農耕用に勝っている牛や、荷運びのための馬やロバなどの世話を率先して行っていた。元々は、シャノンが行っている手伝いのつもりだったのだが、やってるうちにセベ自身もそういった作業が好きになったようだ。
二人でペガサスを預けているベルディア公国の馬小屋に向かうとそこには、村では考えられない数の馬が居た。しかも、引き締まった筋肉や体調に至るまで村にいたころ馬とは、比べ物にならないくらいに整っている。
さらに、馬小屋の奥に進んでいくと、自警団の馬だけが集められている小屋へと到着する。馬やペガサスは、人間以上に繊細な生き物で、知らない馬を仲間と認識することは、難しいらしい。そのため、こうしてイグニアス王国とベルディア公国の馬たちは、別々の小屋にいるのだ。
主人であるフィルビアの足音に気付いた愛馬のビュリオは、立ち上がると、こちらに歩いて来る。
「おはようだべ。ビュリオちゃん。」
フィルビアの頬に顔をうずめるように挨拶をしていたビュリオは、セベの方を向いてくれる。最近自警団に加わったセベのこともしっかり仲間として認識してくれているようで、鼻を鳴らしてあいさつしてくれる。
その後、二人で時間をかけて他の自警団の馬の手入れもしっかり行う。と言っても、ここにいるのは、ビュリオとセバスさんの馬と一頭の白馬しかいない。さらに、その二頭のは、すでに主人が来ていたようで、セベたちは、餌である干し草や水の清掃を行うだけだった。
「あの白馬は、誰の馬なんだべか?」
「アレは、サイアスの馬よ。きれいな馬でしょ。」
フィルビアの言う通りサイアスの馬は、先程、見たベルディア公国の馬たちと比べても優れているとわかるほどに洗練されていた。毛並みも筋肉も鬣も全てに輝きを持っていると言っても過言じゃないほどの馬。セベも馬の世話には自信があったが、こんな馬を仕上げられる人が、王国最強の騎士なのだと知ると、セベの小ささがよくわかる。
「・・・おら。自警団のお荷物だべな・・・。」
そんなこと十分わかっていた。自警団の面々は、村人では役に立たないほど優れてい人ばかりだ。役に立つことなど一つもない。荷物持ちになるつもりでついてきたのだが、今後、戦闘になったときは、本格的に足手まといになってしまう。それは、先日の魔獣討伐戦でいたいほど分かった。
「フィルビア様。おらに稽古つけてほしいべ!」
「稽古?槍のってこと?」
「んだ。お願いするべ。」
「でも、せべ。ダルケルに剣の稽古してもらってるんでしょ?」
「いろんな武器を使えるようになりたいんだべ。きっと、どんな武器を使っても自警団の皆さんには、敵わないべ。だからせめて、どんな状況でも足手まといにはならないようになりたいんだべ。」
セベは、強いまなざしでフィルビアを見つめる。朝の早い馬小屋の中には誰も来ない。
数秒、フィルビアと目線がぶつかると、セベの真剣さが伝わったようにフィルビアが、はにかむ。
「分かった。それなら一つ条件がある。」
「本当だべか!?ありがとうだべフィルビア様。おら、何でもするべ!」
「そのフィルビア様ってのは禁止よ。その呼び方は今後一切使わない事。いいわね。」
「分かったべ。フィル姉さん。」
「ふふっ。何それ。まあいいわ。じゃあ、修練場に行きましょうか。運が良ければサイアスがいるかもしれないわ。」
「本当だべか!楽しみだべ。」
強くなる。初めは、村のみんなを守れるくらいに、もっとセベの本心をいうのであればシャノンを守れるくらいに。でも、この自警団と短い間ともに行動してその思いは変化しつつあることにセベ自身も気付いている。
この自警団の仲間に成りたい。
足手まといの荷物持ちとして彼らについていくのではなく。戦力にならずとも、せめて、心配をかけないくらいの力を付ける。ともに立ってみたいのだ




