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章間 スフィア


 同盟の締結が終わるまで、正確には引きこもってしまっている、ベルディア公国の公王候補の最後の一人の意見を聞くために最悪あと三日はこのベルディア公国内にいる必要がある。先にイグニアス王国に帰ることも可能なのだが、折角めったに来ることができな他国にくることが出来たのだから、堪能せずに帰ろうとする自警団員はいなかった。


 「さすがにまずいって。スフィア!」

 「仕方がないだろ。『武王』だぞ。『武王』!!」


 王座の間に通じる廊下にて。


 王座の間の方に向かって走り出そうとしているスフィアをダンケルが後ろから酌みかかる形でなんとか止まっていた。

 スフィアが、王座の間に向かおうとしている理由。それは、武王との模擬戦。もしくは、戦闘指南を受けるためだ。


 「相手は一国の王様なんだよ。なにかあったらどうするんだよ。それに、僕たちじゃ、取り合ってもらえないって!」

 「行ってみないと分からないだろ!」


 もちろん、スフィアだって初めからこんな事をするつもりはなかった。けれど、当初予定していたアレクとの模擬戦は、アレクがベルディア公国街に行ってしまったため、誘う前に断念。同様にフィルビア、アリシアもどっかに行ってしまったし、セバスさんは忙しそうだ。こんなにもメンバーがいるのに、代わり映えのないダンケルと模擬戦をしていてはつまらない。

 で、あるならば最後に残った武王のもとに行くほかあるまい。


 ダンケルの必死の抵抗もむなしく、スフィアはダンケルの腕を離れ王座の間を兵士に開けさせてしまった。










 「全く。情けないです。スフィアさん無礼にもほどがありますよ。」

 「いやだって・・・・。」

 「言い訳はいいです。」 

 「まあ、その辺にしてやれ。同盟の件がなければ相手をしてやってもよかったぞ。」


 結果から言うと王座の間でスフィアは無事武王に模擬戦の話をすることは出来た。しかし、そのことによりスフィアに帰って来たのは、セバスからのお説教だった。

 アリシアよりもこういった交渉ごとに長けているセバスが、細かい同盟内容の確認をしているときであったため、怒られる結果になってしまった。


 「ありがとうございます。ジダレイニス公王。」

 「だが今は・・・待て、シャシュナンあいつの相手をさせるのはどうだ?」

 「いいけど。私がここを離れている間。あんた、話を進められるのかい?」

 「ちょうどいい時だし、休憩と行こう。」


 そういうと誰よりも早くジダレイニスは立ち上がり、奥の部屋に行ってしまった。


 「・・・全くうちの王ときたら・・・。付いてきな。いい対戦相手を紹介するよ。」


 立ち去ってしまった自国の王にため息をつきながら、同席していたシャシュナンが、スフィアたちの先頭に立ち案内をしてくれる。

 セバスの「絶対に迷惑をかけるなよ」と、言わんばかりの笑みが背中に刺さる中、スフィアと後から入って来たダンケルが王座の間を後にする。


 シャシュナンについてゆくとイグニアス王国の闘技場とは比べ物にならない規模の闘技場が広がっていた。円状に広がる広間を囲むように観客席が三階席まで取り囲み、多くの国民を招くことが出来るようになっている。


 「広いなー。」

 「さすがは、 武王のいる国の闘技場だね・・・。」


 その闘技場には、シャシュナン達よりも先に一人の先客がいた。自らの身長の倍はあろうかというくらいの大きな鉄の塊を上下に、左右に、自由自在に振り回す。

 サイアス・フェル・ルイーズ。

 イグニアス王国。いや、人類最高峰の騎士であろうその男は、今日もアリシアのための刃を研ぎ澄ませていた。


 「?。やぁ。スフィア。修練かい?よければ相手をしようか?」

 「いや、今日は遠慮しておくよ・・・。」


 スフィアは強者と戦うことが好きだ。自分の目指す強さとはかけ離れた強さを目指す人、今の力ではかなわない存在。そう言った人たちと切磋琢磨しさらなる高みを目指す。それが、武人としてのスフィアが目指す未来だ。しかし、それにも限度がある。例えば、古の英雄王。例えば、古の神々。例えば、目の前に立つサイアスは、人外すぎる。

 彼らと対等に戦うには、まだ自分が力不足であることは分かっている。敵であれば戦うことに躊躇はないが、味方でしかも他にける存在を知らない現状では、急いでサイアスと戦う必要もない。

 

 「・・・そうか。で、シャシュナン様もどういった経緯で?」

 「実は、うちに来た流れの剣士がすごく強くてな。どうせなら、名高い自警団とどっちが強いのか知りたくなったんだ。」


 ちょっと待ってな。と、シャシュナンは言うと、闘技場を後にし、すぐに、一人の仮面をつけた剣士を連れて戻ってくる。

 その剣士は世にも珍しい黒髪の剣士。藍色のロングコートの下に灰色のインナー。黒いズボンにコートと同色のブーツ。腰から下げている剣の形状は、コートに隠れて分からないが、かなり細身の剣士。身長はスフィアよりも小さくピリアとさほど変わらない。


 「彼は、まあ偽名だと思うけどアレン。流れの剣士で今は、分け合って私が預かってるんだ。」


 アレンと紹介された仮面をつけた剣士は、一礼する。

 アレン。それは、かつていた古の大英雄の盟友の名前だ。彼らの名前を自身の子供に付けるバルダーム大陸の民はほとんどいない。もちろん、仮面の剣士が、アレクと同様の黒髪から察するに、この大陸外の民なら全くない事も無いのだが、否定しなかったことからも、偽名であるのだろう。


 「まあ、腕の立つ剣士なら大歓迎さ。さぁ、やろうぜ。」


 スフィアは、自前の修練用の斧を取り出す。刃のない鉄製の斧。筋肉のトレーニングを同時に期待した特別製の斧で、当たれば痛いでは済まない重量だが、磁性のできる範囲で振るように心がけているため、相手に大きなけがをさせたことは一度もない。

 一方、仮面の剣士は、腰に下げた剣を抜刀する。その剣も演習用なのか、鋭い刃があるような光沢は存在していない。形状はどことなく見たことがあるような形の細身の剣。光沢のない刀身は、死んでいるように黒くなっている。


 「・・・。」


 仮面の剣士は何も言うことなくスフィアの横を通り過ぎ、10メートルくらいの距離を取る。

 ダンケル達が離れて行く。スフィアも相手を見据えて構えを取る。半身で相手を捉え、両手でしっかりと斧を持つ。重心は出来るだけ低く保ちつつ、相手に全神経を集中させる。

 仮面の剣士も構えをつくる。剣を持った右手を後ろに、反対側の手を伸ばし、簡易的に相手との間合いを図る。重心は落とすような体制ではないが、アレクの戦い方から知ったように、そんな体勢からでもスフィアは警戒を怠らない。


 お互いが構えたことにより模擬戦の準備は完了する。それが通例であり、どこの国でも祭典以外での模擬戦では、審判もいないし、始まりの合図も存在しない。


 先手を切ったのは、スフィア。元々、直情型のスフィアには、小賢しいカウンターを使うことは無い。と、言うよりも、ダンケルとの連携を通常の先頭でも重要視しているため、一人の戦闘力はそこまで大きくはない。しかし、スフィアは、自警団の中では誰よりも武人だ。血のにじむような努力を重ねて来た。誰よりも強くなりたいと望み。誰よりもおのれの弱さが分かっている。

 だからこそ挑むのだ。目の前の壁を越え続け、遥か先に見える、頂点のない壁を超えるために。そして、置いて行かれない為に。


 「うぉらぁぁ。」


 突進からの右から左への大薙ぎ。初撃でこれを使うのはスフィアのポリシーだ。相手の実力や戦い方を見るうえで模擬戦の一発目に同じ技を出し続けるのは、最も簡単な指標になる。しかし、仮面の剣士はそのスフィアの大薙ぎを細身の剣で受ける。


 ギャギィン!


 と、言う金属同士の音と衝撃に構えたスフィアの期待は、簡単に砕かれる。

 当たると思っていた互いの得物は、仮面の剣士が上手に力の方向を誘導し、スフィアの斧は空を切る。


 「ッチ。」


 自警団の中では、随一の怪力を持つスフィア。渾身の大薙ぎを切れに流されたにもかかわらず、その斧を次の動きに移行させる。

 手首を返し、頭上に上げ、振り下ろす。


 「どぉらぁ!」


 女性に似つかわしくない太い声と気合を放ちながらスフィアの脳天割が仮面の剣士を襲う。だが、この攻撃も、仮面の剣士は、華麗に身を翻し、再び剣を使うことで斧の党利道をゆがめる。


 ズンッ。


 近くにいた者に感じられる規模の地響きと共に、スフィアの斧は地面に突き刺さる。

 二度も躱された。しかも、斧の軌道が完全に読まれる形で。スフィアは、すぐに斧を地面から抜くと大きく一歩後退する。

 そのすきを見逃さなかった仮面の剣士が、反撃に出る。スフィアを追撃するように突進を仕掛けると、大きく飛びのいたスフィアの着地のタイミングに合わせ、体全体のばねを利用した突きを繰り出す。

 まるで、ルシア。はたまたアリシアを彷彿させるような勇壮麓美な突き。速度もほとんど差がないと思えるほどの一撃。

 だが、スフィアの方もその二人とは、数え切れないほど戦ってきた。一撃必殺と思えるその突きも、スフィアは何度も止めきた。


 スフィアは、斧を持ち帰ると盾のように体の前に構える。この突き攻撃は、来るとわかっていれば対処ができる。速度と正確性が高い反面、この突き攻撃は、軌道の再修正と攻撃可能範囲の狭さが目立つ。反応できていなければ、その欠点も気付く前に命を落とすのだが、スフィアは、近くで死ぬほど見て来た。


 カギンッ。


 今度こそ金独同士がぶつかる乾いた音が、闘技場に広がる。仮面の剣士もこの状況に多少なりとも動揺したことだろう。スフィアは、突きの衝撃を利用し、斧を後ろに引くと、今度は片手で右から左へ斧をふるう。今度こそ捉えた。仮面の剣士ご自慢の受け流せる位置に剣は無い。さらに、この距離では、反応しきれない。そう判断したスフィアは、当たったとしても怪我をしないよう力を抜こうとしたその時、


 異常なまでの反応速度で仮面の剣士は、スフィアの斧をかわして見せた。


 「んっなろ。」


 だが、スフィアはまだ攻撃の手は残っている。空を切った片手で握った斧をもう片方の多が止める。そのまま押し返すと、反対側から、仮面の剣士を捉える。今度は、躊躇は無い。けがをしてしまったらその時に考えればいい。けれど、この一撃も仮面の剣士には届かない。二、三回バク転をしながらスフィアから大きく距離を取る。

 その時、仮面の剣士が何かを言っていたように口が動いたが、スフィアには届かない。


 すると、仮面の剣士の構えが変わる。先程と剣の位置が前後逆転し、体の前にくる。右足を少し出した半身に構え、左手はこちらを掌が向いた状態で垂らしている。やはり、重心は落とさないようで、かかとがそろった状態でこちらを見据える。

 スフィアもしっかりと構え直す。今度も重心をしっかり落とし、斧の刃の近くを右手が、柄の端っこを右手が持ち、両手の間をかなり開けて斧を持つ。

 瞬間、今度は仮面の剣士がスフィアに対して突進を仕掛ける。再びの突き。しかし、今度の突きは、紛れもなく何度も見て来たアリシアの突きと構えが全く同じものだった。そして、速度すらも。


 「っしま。」


 その一瞬の思考のタイムラグがアリシアの突きには命取りになる。矢よりも早い一撃は、打たれてからでは、対処しすることは出来ない。


 スフィアの思考が回復したのは、仮面の剣士の切っ先が、スフィアの胸の前で止まっているときだった。


 「そこまで!」


 シャシュナンがそう叫ぶと、仮面の剣士は、剣を一回づつ左右に振ってから腰から下げている鞘に納める。


 「いやー。いい勝負だったよありがとな。」


 シャシュナンが仮面の剣士に礼を言うと、仮面の剣士はスフィアとシャシュナンに一礼し、その場を後にする。誰も仮面の騎士に声をかける暇もなく彼の姿は闘技場から消えてゆく。


 「お疲れスフィア。強かったね。」

 「・・・ああ。つよ・かった。」


 全員の胸の中に違う理由の同じ疑問が生まれる。ある者は期待からの。ある者は、疑念からの。ある者は、憧れからの。ある者は、ある意味殺意をこもった。


 「「あの剣士は何者なのだろうか?」」


 と。


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