新たな仲間。新たな場所へ
黒い怪物との戦いが終わり全員の緊張がほぐれる。アレク達、直接戦っていたメンバーはリズベルの浄化術を食らった黒い怪物の近くで力が抜けたように座ったまま動かない面々。リズベル自身も今まで一度も使用したことのない浄化術の過剰な魔力消耗により一瞬、意識を失う。ピリアがそれに気付き倒れる寸前で抱きかかえる。
「ありがと、ピリア。」
「お疲れ様なのー。みんな頑張ったの-。」
戦ったメンバーの中でも一番元気だったフィルビアが、心配そうにリズベルたちに近寄る。
「大丈夫かい?リズ。」
「うん。ちょっとクラってしただけだから。」
魔力欠乏。急激に体内の魔力が失ったときにおこるもので、主症状は、目眩、吐き気、頭痛、失神などが起きる。一過性の物から魔力が回復するまで治らないものもある。
「すごいね。セベ・・・。」
「んだ。さすがべ・・・。」
感心する二人の村人。この村で起きた、事態に現れた英雄たち。この村で生まれ育ち、大きな事件に巻き込まれたことのなかったセベとシャノンにとっては、盗賊たちの襲撃も、魔獣の襲来もかなりの大事件だった。
そして、自警団の面々はまるで、昔話に出てくるような英雄に見える。誰もが憧れるような英雄に。
セベは拳を固く握りしめる。天にシャノンの無事を祈ることしかできなかった自分が、多くの裏人の死体を走り抜けて来た自分が、一人の野盗にも勝てなかった自分を恥じて。強くなりたいと願って
その時、セベの近くに立っていた、矢阿藤の一人がゆらりと動き始める。後悔の念に蝕まれていたセベはその動きに気付けなかった。
「きゃー!」
隣にいるシャノンが異変に気付き悲鳴を上げる。その声に反応して全員の視線がシャノンのいる方へ向かう途中で起こった変化に気付く。リズベルを心配して駆け寄ったフィルビアが倒れる。その後ろには背後から斧を振り下ろしたと思しき野盗の姿がある。その野盗は、すぐそばにいたシャノンの首を抱きかかえて叫ぶ。
「動くんじゃね!ここからオレが逃げるまでこの女は預かる!」
何が起きたのかセベには全く理解が追い付かなかった。全員で人類の敵であった魔獣に勝ったはずなのに、あんなに協力できていたはずなのに。
アレク達の近くにいた野盗は、突然の仲間の行動にどうするべきか分からずにいるようだ。体力は使い切って動かないし。今ここで自警団の面々と敵対する方がリスクは高い。しかし、仲間の起こしてしまった暴走は止まらない。
「いいか?逃げ切るまで追って来るんじゃねぇぞ。」
そう言うと野盗はシャノンを抱えたまま走り出そうとする。
「行かせないべ・・・」
動け、足!出ろ、声!今が一番勇気を出さないといけないところじゃないか。
セベは、地面に転がっているフィルビアの槍を掴むと、野盗に向ける。
ここで引くわけにはいかない。シャノンだけは守ると決めたのだから。
「ガキ。何言ってんだ。どうなってもいいのか!」
「良いわけねぇべ!でも、絶対行かせないべ!」
先程よりも強くセベは叫ぶ。自分が弱虫なのは分かっている。森にいる猛獣が怖くてまともに木こりの仕事が出来ない事もあった。外の世界が怖くて、街に行ったこともない。けれど、シャノンだけは違う。違うのだ。
両手で持つ槍を渾身の力で握りしめて、セベは野盗の前に立ちはだかる。
「シャノンだけは渡せねぇ!シャノンは幸せにならなきゃなんねぇんだ!」
セベの渾身の力での薙払いは、野盗にあっさり躱されてしまう。斧を振り下ろせばすぐに決着がつくのに、野盗はセベの体を蹴る。
「そんな大振り当たるかよ。」
「うるせぇ!」
蹴り飛ばされたセベはすぐに立ち上がる。まだ握り占めている槍を再び振るう。
しかし、今度も簡単に躱される。野盗は、笑いながら何度も立ち上がり、辺りもしない大振りの攻撃しかしてこないセベを痛めつける。
「うぜぇんだよ。」
「・・・おらが・・・おらが・・・」
「おらが、守んだべー!」
痛めつけることに飽きた野盗は、セベの攻撃をかわすのではなく片手の斧で器用にはじく。セベの握っていた槍は飛んでいく。振り上げられた斧はセベに迫る。
これがおらの運命。野盗が来て。ようやく、守りたいものが分かって。そして、守り切れないで死んでいく。でも、きっとあの英雄様たちなら、シャノンを救ってくれる。少しの時間稼ぎのための人生。
よく見てみると野盗の腕の中のシャノンが、泣きながら叫んでいる。すぐそばにいる、リズベルも泣きそうだ。
最後に、本当にやりたいことが出来てよかったべ。幸せになるべよ。シャノン。
セベは、死を悟り目を閉じる。最後に見るシャノンの顔が、ボロボロの泣き顔では、悔やまれる。だから想像する。彼女の最高の笑顔を。
セベの瞳から一筋の涙がこぼれていく。シャノンの最高の笑顔を想像したセベが死ぬ間際に思ったことは、
まだ一緒にいたい。
もっといろんな場所で笑うシャノンを見たい。同じ時を生きていた。だが、振り下ろされる野盗の斧は無情にも止まらない。
「守りたいなら、最後まで守り通しなさい。」
刹那、セベに振り下ろされた斧が止まる。セベが目を開けてみるとそこには、先程までセベが握り、今しがたふっ飛ばされた槍があった。その槍をたどっていくと、さらに驚いたことに、野盗に殺されたはずのフィルビアが立っていた。
フィルビアは、野盗の斧を受け止めると、すぐに攻撃に転じる。抱えたシャノンをかすめた正確な突きは、野盗ののみを捉える。
「ごはぁッ。」
右胸部を突かれた野盗は、抱えていたシャノンを離し、後ろに倒れ、気を失う。
離されたシャノンをセベはなんとか抱き止める。
「どうしてだべ。」
「ん?ああ。あんなんじゃ私は死なないよ。」
フィルビアは、言葉と共にセベにウィンクをする。
野盗の暴走が終わり、本当にこの村での事件は終止符を迎える。
アレク達もいつまでも座っているわけにもいかず、問い合えず暴走した野盗を縛り。協力してくれた野盗は武器を取り、全員集合していた。
「この怪物は死んだのか?」
スフィアが警戒しながらも黒い怪物に近づいていく。黒い怪物は、アレクが初めて森であった時のように、手足を失い、黒い塊と化していた。よく見るとその時と同じように呼吸するように動いているのが分かる。
「まだ一応生きていると思うぞ。」
アレクがそういうとスフィアは、急いで遠のく。すると、リズベルが浄化術をかけていないにも拘らず、黒い怪物の表面の沸騰が強くなり、徐々に小さくなっていく。
これでようやく絶命。さて、なにが出てくるか・・・
騎士の死体が出て来た所を直接見ているアレクとリズベルは、縮んでいく黒い怪物に集中する。すると、今度も騎士と思える人影が出てくる。
セバスのような頑丈なフルプレートの鎧は、無数の爪痕でボロボロになっており、砕けた兜が転がり、その顔があらわになる。
「女の人なのー。」
怪物の蒸発にも動じることなく一番近くまで近づいていたピリアが振り向きこちらに告げる。アレク達も近づき怪物から出てきたものを見る。モスグリーンのフルプレートはどこか、ダンケルのイメージを持った女性の騎士。前回のようにイグニアス王国の紋章はどこにも見当たらないが、代わりにあった変化にスフィアが気付く。
「これは!」
スフィアの目線の先。騎士の女性の腕には、彼女には少し大きい腕輪がはめてあった。スフィアはその腕輪を取ると、
「私の家の家紋だ。」
有力な貴族の家にはそれぞれの家紋を持っているものだ。アレクは後に知ることになるのだが、かなりワイルドなかっこをしているスフィアは、イグニアス王国の中でも指折りの名家らしい。
さらに、今回の腕輪は代々、その家のエンゲージリングとしての役割を持っていて、その時が来るまで、家長となる女性がもっているはずの物なのだ。現に、スフィアの腕についているのを見せてくれる。
「じゃあ、やっぱり偽装か?」
「でも、スフィアは有名だよ?それにこれだけ強い魔物しちゃったら、偽装しようにもほとんど倒せもしないんじゃない?」
それにも一理あるとアレクは思う。自警団員六人がかりで倒せる魔獣だ。他国でもイグニアス王国のでも倒せる人はごく限られた人だけだろう。その魔獣を作るのに人間の死体が必要なら、わざわざ偽装しなくてもいいだろう。何せ、その魔獣を倒すのは殆どが自警団員になるのだから。
アレク達が悩んでいると、シャノンとセベが呼んできた村長が話しかけてくる。
「ご無事で何よりです皆様。是非ともお礼をさせてください。」
「いいや。礼はもらえない。これが当然のことなので。」
一応、この一団の中のリーダーはリズルなのだが、疲れが出てしまったのかうたた寝しているため、フィルビアが村長と話を進める。
「ですが・・・。」
「それにいいものを見せてもらったしね。」
と、笑いながらフィルビアはセベに再びウィンクをする。
忘れたのと、フィルビアほどの美人のウィンクにセベは赤面してしまう。
「浮気者。」
「ち、違うべー。」
セベとシャノンの和やかな雰囲気が全体に伝わっていく。
「それじゃあ、村長さん少しお願があるんですがいいですか?」
「ええ、喜んで。」
「この騎士の死体とあそこにいる野盗の死体。きちんと供養して埋葬してもらってもいいでしょうか? 彼は、一時とは言え一緒に戦ったので。」
「野盗をですか!?・・・分かりました。」
「いや。あいつは、俺に供養させてくれ。」
と、もう一人の一緒に戦った野盗が申し出る。彼が縛られていない事に不安に思い、少し不快な顔をした村長ではあるが、セベや自警団の面々の説明で村長は納得してくれる。
この村を襲った野盗達も私刑にかけるのではなく、領主のもとに連れて行き裁くことも約束してくれた。
一夜に渡って起きた戦闘が終わってみると、辺りはもう完全に日が昇っていた。
村人たちは強いもので、無くなってしまった家族の死体を丁重に埋葬すると、黒い怪物によって壊されてしまった建物の瓦礫を片付け始めている。
その間リズベルは、シスター見習いとして、供養を行い。自警団の団員も瓦礫の撤去を手伝い、気付けば夕暮れ時が迫っていた。
さすがに疲れ切っていたアレク達は、村長とセベ、シャノンの家に数人ずつ泊り英気を養った。
起きたときにはもう日は陰り、この村に向かおうとした時間に近かった。
「今から行けば、アリシアに追いつくと思うか?」
「追いつかないにしてもまだ帰ってないだろうから、行かないとね。」
フィルビアと相談し、今からアリシアに追いつくために出発することが決定する。魔力欠乏でふらふらになっていたリズベルも、ピリアから少し魔力を貰うことでなんとか自力で歩けるまで回復していた。
「アレクさんは、魔力大丈夫なの?」
「そういえば、少し目がかすむのは魔力切れなのか?」
「そうだと思うよ。だって、一回もポーション飲んでないでしょ?」
リズベルの話を聞くことで再び記憶のフィードバックが起こりアレクの頭に痛みが走る。
魔力。この世界に不思議な現象を起こすときに必要な力。基本的には自然回復はせず、使用するたびに減少する。回復の方法は、回復魔法、回復効果のある薬草の摂取。
ポーションは、薬草をさらに抽出することで効力を高めたものだ。
市街地の戦い以来、いや下手したらその前から一度もそういったものを摂取していないアレクの魔力はもうガス欠状態だ。
「最初にあったときすぐに疲れちゃったのは、そのせいかもね。」
あの時は、リズベルに下級の治癒魔法をかけてもらい、魔力も多少回復していたが、今回はそのリズベルの魔力も残り少ないためそれも望めない。
「これ以上何も起きない事を祈るばかりだな・・・。」
「だね。」
そんな会話をしている間に出発の時間になる。村の出口には見送りをするためにほぼ全ての村人が見送りに来ている。
「ありがとね。シャノンおかげで間に合ったよ。」
「ううん。こっちこそありがとリズ。助かったわ。」
いつの間にか仲良くなっていたリズベルとシャノンは、涙の別れを惜しんでいる。村長や村人もしきりに頭を下げお礼を言う。そして、ついにアレク達が村の門を抜け歩き出す
「待ってほしいだ!」
そんな声がアレク達の歩みを止める。振り返ってみると、村人たちの人だまりから一歩出たセベが立っていた。
「おらを連れてってほしいべ!」
「セベ何言ってるの?」
「そうじゃ、セベ。農民のお前が行ってなんになる。」
「そんなの分かってるべ。・・・けど。」
村長とシャノンの制止の声もセベには届かない。
「この村から離れたらシャノンを守ることはどうするんだい?」
あの一件以来セベのことが気に入ったのかフィルビアがセベに問いかける。
「ここにいてもおらじゃ、守れないべ。」
自分の無力さを知った戦士の炎をセベの瞳の中にフィルビアは見る。
男が一人変わろうとしている。守りたいもののために。弱い自分自身に終止符を打つために。そんな男の決意の瞳をフィルビアは知っている。以前にも一度見たことがある。だから、
「アレク。つれてってもいいか?戦い方は私が教える。責任も持つだ・・・」
「そこまでしなくていいさ、フィル。オレも剣の使い方なら教える。アリシアにもオレも頭を下げるよ・・・セバスにか。」
アレクとフィルビア。自警団の面々は確かにと頭をふる。新しい仲間を増やして一番渋い顔をするのは、当然、お目付け役であるセバスだけだ。
「歓迎するよ、セベ。でもいいのか?家族もいるだろ?」
そういうとセベは村の方へ振り返る。そこには、一際心配そうにセベを見つめる恰幅のいい女性がいるのが見て取れる。セベの家に泊めてもらったダンケルには分かる。彼女が、女手一つでセベを育てた母親だ。
「行ってきなさい、セベ。母ちゃんの頑張っぺ。だから、セベも頑張んよ。」
涙を浮かべながら女性は、セベに笑いかける。泣かないと決めているようで、ひくひくと鼻を動かし懸命に涙をこぼさないようにする。
「んだ!おら行ってくんべ!」
セベも大きな声で揺れる声をごまかす。今生の別れになることを互いに覚悟して。
「アレクさん。フィルビアさん。よろしくお願いすんべ!」
村に背を向けてセベはアレク達に頭を下げる。こうしてまた、自警団に新たな仲間がくわわtt・・・・
「待って!!」
「私も行くわ。私も世界を見てみたい。荷物運びでも何でもする。戦えないけど私も行きたい!!」
そこには、震えるこぶしを握り締めたシャノンが立っていた。セベが言わなくてもついていくことを決意していたようで、大きな荷物も用意してある。村長の孫であるはずだが、そちらも、すでに説得済みのようで止めることもない。
「セベのせいで私の旅立ちが薄くなったじゃない。」
と、セベがシャノンに言い続けられるようになるのは、これよりもう少し後のお話。
こうして、アレク達の一行は自警団に新たな仲間を二人加え、アリシアとセバスそして、イグニアス王国一の騎士が待つ北端の砦へと向かう。
「そのアレクという少年は、本当に強いのですか?アリシア様?」
「様はいいって言ってるでしょ、サイラス。ええ、何せ大英雄と同じ魔剣士だものあなたを超えるのでは?」
「それは楽しみです。」
アリシアと一人の男性が話す。窓から見える風景は一面の雪化粧が施されている。




