一節 出会い
広い広い草原の中。草々の擦れ合う音と虫達の羽音だけが心地よく耳を撫でる。
一度、今までとは明らかに異なる大きな風が草原の中に吹く。それでも草原にはいつもの風が吹く。
そんなある日。珍しく王都の方向の街道から旅人らしき一行が来る。3人組の彼らは見事な装備を携え、和気藹々と歩いて来る。行商人くらいしか通ることの無いこの街道に旅人が来るのは幾日ぶりのことだろうか。ふと、一行が何もないはずの草原を指差すと一目散にまだ薙ぎ倒されこともない草を踏み倒して走り出す。その行く先には、明らかに短くなってしまった草が生えた所に少年が一人倒れていた。
「お姉ちゃん。大丈夫かなぁ。」
「さぁ。ダメかもしれないね。」
「えぇ!?そんな~。」
二人の女性の会話が耳に入ったからか、太陽の光が遮られたからか、少年は僅かに顔をしかめる。
少年が目を覚ましたらことに安堵しつつ、二人の女性の内の一人。蒼髪の女性が右手を差し出す。
「大丈夫ですか?立てますか?」
「ありがとう。」
少年もから彼女の手を取り立ち上がることで曖昧だった意識がハッキリする。すると、目の前には超が付くほどの美人が二人いた。まず、少年に手を差し出してくれた女性だが、綺麗な蒼髪を後ろで折り畳むように束ねており、瞳の色も髪色よりも濃い青。顔のパーツも最高のバランスで申し分ない。身長は、170センチくらいで全身に青を基調とした鉄製の装備を身に纏っている。年齢は、定かではないが、おそらく17‚18歳くらいであろう。
そして、もう一方のニコニコと屈託のない笑顔を浮かべている女性。いや、年齢は14‚15くらいなため少女が適切かもしれない。この少女も蒼髪の女性に引きをとらない美人で、癖のある金髪を肩に届くか届かないくらいに伸ばしている。140センチ中盤の小柄な体には少し大きめのサイズの黄色いローブを羽織っていて、下は簡素なズボンをはいている。また、綺麗な装飾の施された杖を持っている。しかし、
(どちらにしても知らない人達だ。と、言うより···)
「ありがとう、助かったよ。」
「いえ、人助けは自警団の務めですから。」
この一団のリーダーなのか同年代の蒼髪の女性が話しかけてくる。最初は気付かなかったかが、後ろの方で馬を引いていてこちらに歩いてくる男性が歩いてくるのが見える。頭以外の全身に淡い水色のフルプレートを装備しているイケメン男性。この一団の中で最年長の男性は馬の先くら今で身長があり180センチ後半くらいの男性がこちらに歩いてくる。
「それよりも、こんなところでお昼寝ですか?」
蒼髪の女性に聞かれることで少年は辺りを見渡してみる。
見晴らしのいい草原で、大きな動物の姿も全くない。多少なりとも草が長いかもしれないがこの辺りの草みたいに踏み倒せばぐっすり眠れそうな草原。しかし、
「いや分らない。」
その明確な答えを少年は提示することはできない。なぜこの草原にいるのか。この草原で何をしていたのかんかさえ分からない。それよりむしろ少年には告げなければならない事実がある。それは、
「自分の名前も何処の誰かなのかも分からないんだ。」
「えぇ!?大丈夫なの?」
「さぁ、わからない。」
黄色いローブを着た少女は驚きを隠すこと無く少年ははにかむ。
少年達との会話が聞こえる距離まで歩いてきた。騎士は少年達の会話に参加することなく蒼髪の女性に近づくと小さな声で耳打ちする。
「アリシア様この男少々怪しいです。」
「分かっています、セバス。」
アリシアと呼ばれた蒼髪の女性はフルプレートを着た騎士-セバスにアリシアは「けれど。」付け加える。
「困っている人は、助けるのが自警団の義務ですから。」
セバスは、ため息混じりに笑みを浮かべる。この会話は何度繰り返してきただろうか。でも決してアリシア様のがアリシア様なのだろう。
「分かりました。ですが、十分お気を付け下さい。」
「分かっています。」
一方、黄色いローブの少女と黒髪の少年は、
「じゃあ、今は名前も覚えていないんだよね。」
「ああ、憶えてないな。」
「大変じゃん!」
少し離れた場所で真剣な話をしているアリシアとセバスに対して、こちらはもう既に打ち解け始めているのか笑いながら会話をしている。
「じゃあ、私がつけてあげるよ。」
「本当か?じゃあ、頼むよ。」
「えへへっ。実は初めに付ける名前はもう決まってるんだよね~。」
「いいのか?自分の子供の名前じゃないのか?」
「違うよ。私はプリーストだから多分一番最初になずけるのは他の人の子供になるだろうしね。」
と、はにかむと黄色いローブの少女は人差し指を立てると、顔を作る。
「じゃあ、いくよ。あなたの名前はアレクだよ。」
「アレク・・・アレクか。いい名前だな。気に入ったよ。」
何度か噛みしめるように少年は何度か呟く。
「じゃあ、改めましてアレクさん。私はリズベル。リズでいいからね。」
「よろしくなリズ。アレクだ。」
少年-アレクとリズベルは互いに笑みを浮かべながら握手を交わす。
「アレクですか。リズらしいですね。」
「どういう意味だ?」
少し離れていた場所で話していた二人もアレクとリズベルの会話に加わる。
「それはリズがアイオ神に仕えるプリーストだからですよ。」
曰く、アイオ神を進行するアイオス教では記憶喪失は邪神セベレクによって連れ去られた人がアイオ神の加護に返ってくることが出来た考えられているらしい。さらに、一番最初の文字を置き換えることはそのものを克服したという意味になることからこの名前を付けてくれたらしい。ちなみに、邪神セベレクは悪い神様などではなく、死と転生をつかさどる神様として信仰されているらしい。
「なるほど。改めてありがとうな、リズ。」
アレクは再びリズベルに頭を下げるとリズベルは照れくさそうに、実にかわいらしく「えへへ。」と笑った。
「では、アレクさん。私の名前はアリシアといいます。このイグニアス王国の自警団の団長を務めてをります。こちらは先程自己紹介が済んだと思いますが、私の妹のリズベルです。」
「よろしくね。アレクさん。」
「私はセバスといいます。以後お見知りおきを、アレクさん。」
「ああ、こちらこそよろしく。アレクだ。」
一通りの挨拶が済んだ後、セバスが「さて、」と切り出す。
「これからどうしますか?アレクさんのこともそうですが、このまま街に向かいますか?」
「そうしましょうか。よろしいですか?」
アリシアはセバスの提案に同意した後、一応アレクの同意も確認してくれる。アレクはニヤッと笑い肩をすくめる。
「こっちからもお願いしたいくらいだよ。何せどっちに行けばいいのかも分からないんだから、連れてってもらえれば幸いかな。」
「では、行きましょうか。」
アリシア、アレク、セバス、リズベルの三人から四人に増えた一行は再び歩き出す。
目指すは南北に広いイグニアス王国の最東端の街。ヴォルトゥへと。
こんにちは片桐ハルマです。かなり短くなってしまったのですが早めに投稿できて良かったです。これからもこのくらいの長さでポンポン投稿して行きたいと思っています。
今回は、ようやく主人公となる人が何人か出てきましたので名前を覚えていたたければ幸いです最近の後書きにも書きましたが進行はかなり遅いと思います。それでもよければ是非とも読んでください。また、今週中にでも展開が産まれるシーンまで投稿できたらします。
それでは、短いお話でしたがご愛読ありがとうございました。次話も読んでいただけると大変嬉しいです。