章間 フェルヴィオ
フェルヴィオは悩んでいた。
自分は今回本当にリズベルたちについて行って行かなくていいのかどうかを。魔術の研究が山場を迎えていることは本当の事だ。一分一秒が惜しいのも事実だ。
魔導の申し子。齢15歳にして特異魔法を開発し今ではイグニアス王国の中でも指折りの魔法使いにまで成長した。しかし、魔法を極めたのも、魔導の研究をしているのも全ては・・・。
「あれは・・・。」
ふと、街中を歩く見知った顔を目にする。
彼女が一人で街中を歩くのは非常に珍しいことだとフェルヴィオも思うが、これは、好機とその見知った人の元へ歩みを速めていく。
「おい。ピリア。こんなところで何をしてる?」
「あー。フェルヴィオなのー。今は私、リズとは一緒じゃないのー?」
下唇に人差し指を付けて首をかしげる。ぱっと見はかなりの美少女であるピリア。頭のてっぺんから徐々に色が抜けていく青色で、てっぺんの濃紺と毛先の淡い水色はかなりの差がある。しかし、彼女の決定的な欠点は、その表情、瞳、声に感情を感じないところだ。長年一緒にいれば慣れてくるが、初対面の人は彼女と正対して話すことは難しいだろう。
「リズは関係ないだろ。今はピリアと話してるんだ。」
すると、ピリアは空を見上げて、両手を広げるようなしぐさをする。15歳にしては大きい方の胸元が目立ってフェルヴィオは目線をそらす。
「何をしている?」
「フェルヴィオが、リズ以外の目的で私に話しかけたのー。だからきっと槍が降ってくるのー。」
「ふざけるな。とりあえず、用向きを話すぞ。単刀直入にいうとお前の呪術を貸してもらいたい。オレの研究に役に立つ。」
感情のない濃紺の瞳がフェルヴィオを見つめる。子供の頃は、この目を見るだけで呪いにかかったように夜も眠れなくなったこともあった瞳だが、最近は慣れて来たのか、直接見ても背筋が凍るような寒気は覚えない。
「分かったのー。いいのー。でも、約束してほしいことがあるのー。」
「なんだ?」
「呪術はとっても難しいのー。私がいないところで絶対にやっちゃダメなのー。」
「分かったよ。では、研究室に行こうか。用事が済んだ後でいいが。」
「用事は無いのー。ただ、歩いてただけなのー。」
変わってるな。と思いつつ、自分自身もさっきまでは、特に用事もなく、歩きながら考え事をしていただけのことを忘れている。
実際、ピリアの呪術には以前から興味はあった。それを、研究に取り込むことが出来れば、見たこともない反応を、結果を出せる可能性も感じていた。だから、嘘はついていない。しかし、今回、急にピリアを研究所に呼んだのは他のことが聞きたいからだ。
「で、あのアレクってやつは、どんな奴なんだ?」
「えー。魔導検視なのー。」
「そんなことは知っている。リズベルが妙懐いているのはなぜだと聞いてるんだ。」
「分かんないのー。フェルヴィオが直接聞けばいいのー。」
「そんなことが出来るか。・・・いや、興味もない!」
フェルヴィオとリズベルが出会ったのは、三歳の頃だ。両親を火事で失い、育てる人がいなくなってしまったため、何人かの貴族の子供たちと乳母の元育てられるときに出会った。最初の頃は、王族の子供と死んだ目をしている少女。一緒にいたくなさ過ぎて、家にこもることも多かった。しかし、リズベルがそれを許さなかった。家から出ようとしないフェルヴィオ、人と関わろうとしないピリアのもとに来ては、腕をひぱってでも一緒にいようとしたのだ。そのおかげで、三人はほとんど行動を共にするようになったし、ピリアも特別な能力を制御できるようになった。
二人にとってリズベルは、国王であるメリンダや団長のアリシア以上の旗印だ。多分だが、リズベルの為なら、この国と戦うこともできるだろう。
「フェルヴィオは本当に素直じゃないのー。そんな事だとリズは他の人と一緒になっちゃうのー。」
「なッ・・・別に構わん。」
「はー。分かったのー。ピリアが聞いてくるのー。アレクさんの事。」
「本当か!?頼む。」
「フェルヴィオのことも好きだから、頑張ってみるの-。」
これで心置きなく研究に集中できる。遠征中、ピイアが見ていてくれるのならば、安心とは少し違うが、何もないよりかはましだろう。
本心を言うのならまだ、リズベルが遠征当日にこの研究所にまで迎えに来ることを想像している。何せ、フェルヴィオはこの自警団随一の火力を持っている魔法使いだ。戦闘力では、アリシアやセバス、サイラスと比べ物にすることは出来ないが、瞬間的な火力では、フェルヴィオの特異魔法は群を抜いて強い魔法だ。なぜなら、
「じゃあ、私は帰るのー。フェルヴィオもけんきゅ頑張るのー。」
いつの間にか、研究所の出口に向かっていってしまった、ピリアの声でフェルヴィオは我に返る。
「いや待て。最初の要件が終わってないぞ。研究の手伝いをしろー!」
フェルヴィオの言葉に耳を貸さずドアを閉めてしまった、ピリアに追いついたかどうかはまた別のお話。




