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模擬戦 3


 周りで見ている人も全く声を出すことなく見守っている。ルシアの肩が上がり始め、体力を消耗していることに天馬騎士団のほぼ全員が驚きを隠せない。努力家のルシアは人の何倍も基礎練習や体力を鍛えている。そんなルシアが、あの少年に体力で負けている。しかもこんなにも短時間に。


 「このままいけばアレクさんの勝ちかな?」

 「そうだろうね。しかし、すごいね。やっぱり、前は一国の英雄だったのかな。」


 リズベルとフィルビアは感心しながらアレクに目線を向ける。

 どう見ても強いようには見えない。体は比較的に細いし、ルシアのような派手な技も使わない。しかし、確実にルシアを追い詰め、事実、盗賊の首領との戦いでは一太刀も貰っていない。


 「この短時間で、ルシアに二つのことを教える余裕もあるようだしな。」


 一つは、型の限界。

 流派に存在する型は洗堀者による理想的な戦い方で、ルシアそのは型を完璧マネできている。しかし、汎用性の薄いのが、実践の少ないイグニアス王国の流派の悪いところである。

 勇壮優美。そんな戦い方を基本としているため、アレクのように姑息でも勝つことを目的とした戦い方に弱い。だからこそ、ルシアは特化した構えから、汎用性の高い構えに変えた。

 そして、持久力のなさ。体力はルシアも優れているのかもしれない。しかし、命の取り合いはマラソンではない。体力は精神面でも消耗し続ける。相手が自分よりも先読みに優れている場合、なおのこと集中する必要がある。それに加え、ルシアの呼吸法は、力を集中させるため息を止めることが多い。必然的に、動いている以上の体力をルシアは使ってしまうのだ。


 「ここからのルシアの成長も楽しみだが、アレク殿の活躍にも期待したいな。」


 いつの間にかアンジュの目にも輝きが生まれている。天才騎士のルシアを圧倒する実力。しかもそれは、実力の半分も出さない上での話である。 

 この国には多くの強者がいる。サイアス、アリシア、セバス、代表的な英雄は非常に人気で、アレクのあったことのないサイアスは、女性からの人気も厚い。しかし、この国の女性が例外なく惹かれているのは、なんといっても古の大英雄。この国を作った王で平和の象徴。その物語は、広く知れ渡り、語り継がれてきた。戦う者はそれを目指し、焦がれている。アンジュだって例外ではない。幼い頃、読み聞かせられた英雄の話に、いつか、そんな人に巡り合うことに憧れた。剣を自在に操り、魔を司るそんな大英雄に。






 ルシアの動きが少しづつだが変化してきたことにアレクも気付いていた。柄を使った技も先程見せた宙返りもアレクの予想を超える動きだった。反応できたのは偶然で、あの一手で決まるとも思っていた。体が勝手にルシアの動きに反応してくれることが、今のアレクの実力に結びついている。多分、今この演習場にいる中でアレク自身が、自分の実力に驚いている自信がある。

 ルシアの攻撃は、一応は見えている。だが、体を動かそうとする思考より早く体がルシアの一撃を躱しているというのが、今までの正しい説明だ。だから、今のように間が開いてしまうと完全に手札がなくなってしまう。先程の突進攻撃も、たまたまうまくいっただけで、もうできる自信はない。


 「(限界だな。多分、次は反射は働かない。オレの実力じゃ、あの子のあの突きは躱せないし、攻撃する手段もない。どうしたものか・・・)」


 ふいに、笑みがこぼれる。多分、はたから見ればアレクが圧倒しているように見えるのだろう。しかし、実際は何も考えず体が反応したいように動いているだけで、アレク自身は何もしていない。その上、ルシアの方もアレクの一挙手一投足に意味があると思い、思考が空回りしている節もある。戦っているときくらいの思考回路で常に行動しているように。



 向かい合うアレクがふいに笑みを浮かべるのが見て取れる。あの笑みは恐らく、ルシアにもう手が残っていない事、ルシア自身が自身の弱点に気付いたこと、そして、勝利を予期してのことだろう。


 「(さすがですね。では、私も最高の一手でお答えします。)」


 師であるアレクがこの演習の終了が見えている。恐らく、ルシアがどんな一手を出したとしても、それがアレクの元まで届くことは無いだろう。それがたとへ初めて出す技であったとしても。

 だからこそ、もう一度あの突きの構えをルシアは選択する。特化した構え。アレクには一度も通用しなかった構え。しかし、ルシアが今日まで極めて来た構え。

 この短時間の演習で学んだ全てをアレクにぶつける。相手の思考を読み、読まれない意外性と汎用性。そして、体力がないからこその一撃必殺で。

 大きく右足を踏み込みアレクに対して突進を仕掛ける。今度はあえて、思考させるための速度で。そして、自身も思考する時間を創るために。

 両手に槍を持たず痛む右手で槍を後ろで構える。今までのような速度で着くことは出来ないが、その分左手という未知の可能性も、横薙という選択肢を含めた、渾身の突き。アレクに読まれているのは、十分わかっている。それでも新たな可能性が見えた。それだけでルシアは満足だった。


 「ッフ。」


 息を吐き呼吸を止めることで全神経と筋肉を最後の一突きのために連動させる。背骨のばね。腹筋の反発。挙筋軍の連動。下半身のばねすらその一撃に込めて。



 ルシアが今までとは異なった突進を仕掛けてくる。右手のみで槍を持ち、左手は完全に自由な状態の突進。片手の突きは、正確性と力を失う代わりに、最大のリーチが生まれる。さらにルシアは、想像以上に力が強い。理由はアレクには分からないが、この片手の突きも恐らくは、両手での一撃並みの重さは持っている。

 両手で木剣を持ち直す。この一撃は、反射の働かないアレクには躱せない。なら受け流すことでもう一度、チャンスをつかむ。見えはするなら後は合わせればいい。だが、瞬間、ルシアの体で槍が隠れた後、右手から槍が消えていた。

 距離はおよそ、2メートル。

 もう突いて来なければ、せっかくのリーチと速さが失われる。


 「(左手か!)」


 野盗の首領と戦った時以来の思考の速さでアレクの視線は、ルシアの左手に持ち替えられたであろう槍へと向かう。しかし、


 「なっ。」


 ルシアの左手には、槍は握られていなかった。右手から失われたはずの槍は、左手にも存在していなかったのだ。そして、


 「あぶしぃっ。」


 アレクの左頬にルシアの渾身の正拳突きが見事に決まった。

 この結末は、誰も予想などしていなかった。拳を放ったルシアも、拳を受けたアレクも、その全貌を見ていた、見物人も全員が心の底から驚いた。


 その全容は簡単なものだった。渾身の突きを放つため全神経を、筋肉を連動した力が集中したルシアの右手は、先程のバク転のときに痛めていた。ルシアの体は右手を守るために、瞬間的に集まってきた力に反射して、脱力したのだ。その時、握っているはずだった槍は抜け落ち、再び集約された力により、拳が作られた。

 槍が離れた瞬間が、ちょうどアレクからは見えなかったため、左手に移ったと思い込みアレクは、左手に目線が向いてしまい反応することが出来ず、ルシアの渾身の正拳突きを頂戴したのだ。


 アレクの体は宙に舞い、握られていた木剣も右手から離れ飛んでいく。

 目をつぶって突きを放ったつもりだったルシアも、拳に伝わった痛みと感触で異変を悟ることで、目を開ける。そして、飛んでいくアレクのことを視界に納める。

 地面に叩き落されたアレクも、正拳突きの体制のルシアも、目ん玉が飛び出るほど驚く観客の中、一番最初に声をあげたのは、リズベルだった。


 「あははは。アレクさんの負けだね。」


 お腹を抱えて笑うリズベルの反応してアレクも地面に寝そべったまま笑い始める。


 「あははは。いやーそれは予想外だったな。まさか、正拳突きだったかー。一本取られたぜ。」

 「い、いえ。そんなつもりは。」


 冗談のアレクの言葉を素直に受け取ったルシアが、反応しアレクのもとに駆け寄ってくる。


 「こ、これは、その事故で・・・・すみません。」


 寸止めの試合でも初撃決着の模擬戦でも得物以外で相手に一撃を加えることは有効だとしては、認められない。当然、正拳突きも同様で、やるにしても寸止めするべきだった。ルール違反以前に常識的にあり得ない。

 ルシアは自分がしてしまったことに対して、何度も頭を下げる。一方、寝そべったままリズベルと笑っていたアレクは、ルシアが頭を下げたことで起き上がる。


 「いいよ。オレもはじめやっちゃったし。これでお互い様だ。それに、この試合は、ルシアの勝ちだぞ?」

 「・・・え?」


 頭を下げ続けていたルシアはアレクの言葉で頭を上げる。


 「よく見てみろ。オレの木剣はあんなに遠くまで飛ばされて、ルシアの槍はあそこに落ちてる。不慮の事故で落としたにしても、オレが木剣を取るまでの間にルシアの足なら追い打ちは間に合う。つまりは、ルシア。君の勝ちだ。」


 アレクの木剣は、かなりの距離空を舞い10メートル以上離れてしまっている。それに対してルシアの槍は、3メートルほどしか離れていない。ルシアなら剣を取りに行こうとするアレクの背中を投擲で捉えることもできる。

 地面に座っていたアレクが起き上がり、左の頬をさすりながら続ける。


 「なかなか楽しめたよ。ありがと。」


 そういうと、右手を差し出して握手を求めてくる。ルシアも申し訳なさそうにその握手にこたえる。


 「本当にごめんなさい。そんなつもりはなかったんです。」

 「気にすんなって。それより右手。大丈夫なのか?」


 アレクは掴んでいるルシアの右手を優しく持ち上げる。

 申し訳なさでいっぱいだったルシアもようやく右手の痛みを思い出す。


 「大丈夫です。それよりリズ様に治療を。」

 「こんなもんで魔法は使えないよ。それよりルシアの右手の治療が必要だ。リズ頼めるか?」

 「任せて。」


 いつの間にかルシアとアレクのすぐそばにまで来ていたリズベルが、ルシアの赤くはれてきてしまった右手首に対して治療の魔法をかけてくれる。


 「この者に天の施しを。 ≪幸福あれ(キュア―)≫」


 すぐにルシアの右手首から痛みと張れ、赤身は取れ元通りになる。そうなってくると、ますます自分が作ってしまったアレクの左頬の赤みが気になってしまう。


 「あのリズベル様。アレク殿の頬も治してもらえないでしょうか?」

 「大丈夫だって。あと、殿はいらないぞ、普通に呼んでくれ。」

 「だってさ。私も様いらないから。楽に読んでよ。」


 あたふたするルシアを「かわいい。」と思いつつ二人がニコニコしていると、副団長であるアンジュとフィルビアも歩いてくる。

 周りで見ていた天馬騎士団の団員である女性たちもルシアの意外すぎる攻撃に話がはずんでいる。


 「ありがとう、アレク殿。いい試合だったよ。」

 「だから、殿はいいって。・・・まあ、負けちゃいましたけどね。」

 「でもよかったよ。アレクの実力も分かったしね。」


 今この試合を初めから見ていた人は、アレクが負けたと思う人はいないだろう。途中から見ていた天馬騎士団の殆どの団員にもアレクの実力は十分に伝わっている。さらには、フィルビア達は、このアレクは、本来の実力ではない事も。


 「いったい何の騒ぎ?アンジュ?」


 後ろからかけられた声に全員が振り向く。その中のアンジュとルシアは特に背筋を伸ばし、素早く振り返る。

 そこにいたのは、王座の間でメリンダの隣にいた、天馬騎士団、団長。エリダさんが腰に手を当てて少々ご立腹状態で立っていた。

 先程は、顔は見えるものの殆どが鎧を着ていて印象に残らなかったが、今は、アンジュと同じように簡素な布製の服の上から革製の胸当て、腰当てを付けている。この状態だと体の線もよくわかり、出るところはてて引っ込むところは引っ込んでいる、非常に素晴らしい、スタイルであることが分かる。アンジュよりかは、少し身長は小さいが、スタイルは負けていない。ルシアよりも少し暗めのウェーブのかかった髪を後ろで、お団子を作る髪型をしている。少しきつめの印象を与えるつり目も含めて魅力的な女性だ。


 「実は、フィルビアにルシアの模擬戦相手を頼みまして。・・・」

 「それは分かっている。私が言っているのは、なんでこんなにも人が集まっているのかということだ。」


 模擬戦を見ることで必死になっていたアンジュも気付かなかったが、いつの間にか、演習場にいる天馬騎士団の全員が、この決闘場に集まっていたのだ。

 本来、ここにいた天馬騎士団は、団長であるエリダが会議から戻ってくるのを待っていたのだ。そして、その現場責任者はアンジュである。もちろん、自由に待っていても構わないのだが、遊んでいるわけにはいかないため、各々、訓練をしていたのだ。



 「それは・・・アレク殿とルシアの試合があまりにも面白く・・・。」

 「・・・そうか。よくわかった。アンジュ、ルシア。アレク殿の実力、後で私にも聞かせてくれ。」

 「「はい。」」


 アンジュとルシアは同時に返事をする。エリダ自身もあまり怒ってはいないようで、最後は笑顔を見せてくれた。


 「アレク殿。フィル。模擬戦の相手をしてくれて感謝する。アリシア様ももう兵舎に戻ると思うが、私たちの訓練についてくるか?」

 「いえいえ。私たちもアリシアを待っていたので、これで失礼します。」


 フィルビアがエリダとアレクの前に割って入ると、満面の笑みでエリダの誘いを断る。


 「そうか。ではまた模擬戦でもしよう。楽しみにしているぞ。行くぞ、アンジュ、ルシア。」


 そういうと、三人は他の天馬騎士団員が集まる場所へと向かう。残されたアレク達は、三人の後姿を見送りつつ、演習場を後にする。天馬騎士団はこの後に正式な訓練をするらしい。ルシアの腕を治しておいてよかったとアレクは安堵する。


 「この後どうするんだ?アリシアと合流するのか?」

 「そうだね。その前に呼びに行かなきゃならない人が出来ちゃったけど。」


 国王であるメリンダ、天馬騎士団団長のエリダ、自警団団長のアリシア、元老院、貴族院との会議が終わりエリダはここに来たはずだ。であればアリシアもその内容を伝えるために自警団の兵舎に戻ってきてもおかしくない。そうなると、この城にいる自警団員を招集する必要が出てくる。


 「多分、ダンケル達はもう戻ってると思うけど、ピリアは呼びに行かないと。」

 「いつものとこ?」

 「そうだと思うよ。」

 「じゃあ、行こ。」


 そういってリズベルとフィルビアは走り始めてしまう。

 置いて行かれないようにアレクも何処にいるのかも誰なのかもわからに人の元へ走り出す。

 

 「どこに行くんだよ?」

 「庭園だよ。多分、ピリアはお花のところにいると思う。」


 城のすぐ外に広がる庭園。バルダーム大陸にある様々な花を、奇麗に整えられている庭園へとリズベルの案内の元三人は走る。




どうも片桐ハルマです。本当なら前回の投稿でここまでやっておきたかったのですが、学校との都合で投稿が遅れてしまいました。

 今回で、イグアス王国の天才騎士ルシアさんの登場はしばしお休みになります。自分の中でもかなり好きな方の女性キャラなので早くちゃんと登場させられればと思っています。

 そして、舞台は最強の騎士との話に移ります。マジでチートキャラになっていますので、そういうのが好きな方は、サイアス・フェル・ルイーズの確約にご期待ください。

 最後まで読んでくださった方々に心よりの感謝を。またお会いできることを心よりお待ちしております。

 では。


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