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模擬戦 

 

 王座の間から出た後、アレクはリズベルの案内のもと城内の一角にある、とある施設へと来ていた。ヴォルトの街にあった兵舎と似たようなつくりの建物で三角屋根の木造の長屋。入口はいくつかあり、目の前には大きな運動場のようなものも広がっている。装飾など全くない簡素な建物だ。


 「ここが私たち自警団の兵舎だよ。」

 「意外と地味だな。王族がいるのにこんなもんなのか?」

 「王族がいるとか関係ないよ。必要最低限で十分。」


 先程、今更ながら気を使って敬語でしゃべったときには、初めてリズベルに怒られた。そういった扱いをされることは、他人なら構わないが自警団の仲間にはしてほしくないらしい。なら、セバスはどうなのか?と、聞いてみたのだが、いずれ分かるとのことだった。


 「ただいま。みんなー。」

 

 相も変わらず元気なリズベルが先頭を切って兵舎の中へ入っていく。


 「おかえり、リズ。」


 中でリズベルのことを歓迎したのはたった一人の女性だけだった。と、いうよりも、見える限り兵舎にいるのは一人だけだった。


 「ただいま、フィル姉ぇ。」


 そういうと、中にいた女性にリズベルは勢いよく抱き着く。

 アリシアよりも少し薄い青色の髪。この女性の顔もかなりの美人で穏やかな印象を与える顔立ちをしている。身長は168センチくらいでアリシアよりも大きい。色々と。年齢は、アリシアと同じ17歳。片胸と腰に青を基調にした金属製の軽装備を着ている。

 また、王族かよ!と、突っ込んでいるアレクをよそにリズベルとフィルと呼ばれた女性の会話は続く。


 「無事で何よりだよ。アリシアは?」

 「姉さまに呼ばれて多分会議中かな。」

 「なるほど。忙しいのね。」

 

 笑い合い、再会を喜んでいる二人と、蚊帳の外のアレク。心の底から叫びたい。早く、俺のことを紹介してくれリズ。と。


 「で、リズ。こっちの殿方は?」

 「そうそう。この人はアレクさん。新しい仲間だよ。」


 紹介終わりかよ!と、心の中で叫びアレクはリズベルからの紹介があることをあきらめる。何事も自分でやった方が効率がいいものである。


 「は、初めまして。アレクと言います。この度は自警団の仲間として招き入れてもらいました。今後ともよろしくお願いします。」


 王族と話すのだ。これくらいかしこまるのが普通であるはずだ。そう勝手にとらえたアレクは、頭を下げる。しかし、


 「なぁ、リズ。私こんな硬い人とは、仲良くなれる自信ないぞ。」


 と、わざと聞こえるようにリズベルの耳元でフィルと呼ばれた女性は話す。

 リズベルもリズベルで笑い始める。なにか間違っていたのか。出来れば挽回の機会が欲しい。しかし、下げた頭を上げられないアレクはどうすることもできない。


 「頭を上げてくれ。先に言っておくが私は王族ではないぞ。」

 「え?さっきフィル姉ぇって・・・。」

 「ふふ。そうだな、確かにリズは妹のように懐いているが私は王族ではなく貴族の家だ。」

 

 困惑するアレクにリズベルがようやく説明をしてくれる。


 「フィル姉ぇは、アリシアお姉ちゃんの乳姉妹だよ。」


 乳姉妹。つまり、血縁関係はないものの同じ乳母さんによって育てられたため姉妹のように仲が良い存在。アリシアの乳姉妹なら、実の姉妹のリズベルとも仲が良いのも納得がいく。


 「そういうことだ。だから、かしこまることなく接してほしい。フィルビア・ファリス・クレビアだ。どこで切っても構わないが、みんなからはフィルと呼ばれている。よろしく頼むアレク殿。」

 「殿はいいよ。こちらこそよろしく頼む。」


 アレクとフィルビアは互いに握手を交わす。アレクとしても気兼ねなく接してくれた方が何かとありがたい。

 その後、リズベルが中心にアレクが補足で説明を加えつつ、アレクが自警団に入ったいきさつや戦闘のことについてフィルビアに話した。


 「なるほど、記憶がないのか。それは、大変だったな。大丈夫なのか?」

 「まあ、今のところは、不自由はないかな。不便なこともあるけど、そのおかげで自警団にも入ることが出来たしな。」

 「そうか。それにしても魔剣士とは実に興味深いな。どうだ?今度、手合わせをしないか?」

 「フィル姉ぇは、槍の達人なんだよ。騎馬戦も得意なんだから。」

 「機会があればよろしく頼むよ。それにしても、自警団はこれだけなのか?」

 「ああ、今はちょっと出払っていてね。この王都に残っているのは、私とスフィア、ダンケル、フェルヴィオとピリアの五人だけだ。もうじき帰ってくると思うけど・・・そうだ。」


 と、フィルビアは指を鳴らすと、座っていた円卓から立ち上がる。


 「ちょうど、天馬騎士団の連中に呼ばれていたんだ。アレクも一緒に来るといい。」


 フィルビアの意見には確かに一理ある。自警団と天馬騎士団は団としては違うものの、どちらも国王直属の騎士団である。共同で作戦もあるだろうし、今後、はじめましてでは効率が悪い。


 「そうさせてもらうよ。」

 「じゃあ、行こうか。確かこの先の演習場で訓練しているはずだし。」


 そういうとアレクとリズベルを連れてフィルビアは、自警団の兵舎を後にする。



 演習場。その名にふさわしく、だった広い場所には様々な地形が再現されていた。小さな市街地や砦。草原や森などが広がっている。王都の中であるのだが、さすが、大国。と、思わせる立派な演習場だった。ここを使うのは主に天馬騎士団のみのようで自警団のメンバーは、行くことはあまりないらしい。

 そこには、かなりの数の騎士がいた。普通の騎士ではなく翼のついた馬に跨った女性の騎士。天馬騎士団は、すべてが女性で構成された騎士団でこの国最強の騎士団でもある。そして、王座の間にいた、エリダが長を務める騎士団だ。


 「やあ、頑張ってるじゃん。」

 「フィルビア、遅いぞ。もう正午過ぎになるぞ。」


 槍をふっていた一団の一人が、演習場に入っていったフィルビアを見るなり近寄ってくる。その人は、ここにいる人達の中ではかなり偉い人のようで、六人ぐらいの女性たちの前で槍をふっていた。


 「悪い。アリシアが帰って来たと聞いてね。誰もいなかったら可哀そうかと思って、待ってたんだけど、結局会えなかったわ。」

 「はぁ。まあいい。リズベル様。ご無事で何よりです。」

 「ただいま、アンジュ。」


 アンジュと呼ばれた女性は一度アレクのことを見るが、何も言うことなくフィルビアに目線を戻す。


 「で、こちらの殿方は?」

 「新しい自警団の仲間さ。」

 「アレクです。よろしくお願いします。」

 「天馬騎士団副団長を務めている、アンジュと言います。こちらこそよろしくお願いします。」


 互いに頭を下げ合い挨拶をかわす。アレクは思う。この国の女性は、なぜ、会う人すべてがこんなにも美人しかいないのだろうかと。

 アンジュさんも年齢は26歳くらいで、身長は160センチ後半。栗色の髪を肩に届かないくらいに切りそろえているボブカット。団長様であるエリダさんのように、凛とした美しさが漂ってくる女性で細い目が優しさを漂わせている上にスタイルも整っている。簡素な布製の服の上から革製の胸当てと腰当てを付けているのは、訓練中だからだろう


 「それで今日はどうしたんだい?」

 「実は、彼女の面倒を見てもらいたくてな。」


 アンジュさんはそういうと演習場の隅っこにある建物の下で槍を研いでいる女性を指さす。その女性は、アレク達の年齢に近いようで、平均年齢が二十を超えているように見える天馬騎士団の面々に対して少し歳が離れているように見える少女。


 「分かった。アレク、リズ行こうか。」

 「いつも悪いわね。」


 いいよ、いいよ。と、言いながらフィルビアは、アレクとリズベルを連れてその少女のところへと向かう。


 「フィルビアさん。今日も来てくれたんですね。すぐに用意してきます。」


 こちらが何も言う前に近づいてきていることに気付いた少女は、研いでいた槍を持って後ろの建物の中に入っていく。


 「フィル姉ぇ。今の子は?」


 多分、リズベルよりかは年上だと思うのだが、そこは、つっこまない。


 「天馬騎士団きっての天才騎士、ルシア・セルビアン。14歳にして天馬騎士団の正式団員に入り、槍使いの天才だよ。私なんか足下に及ばないほどのね。」


 現在は、入団から二年経ち、年齢は16歳。ストレートの白銀の髪で、言わずもがな美人の少女。あまりよくは見ていないのだが、基本的細身なイメージをもったスタイル。そんな、一見か弱そうな少女だったのだが、恐ろしく強いのだろう。


 「まあ、ちょっと直球すぎる欠点もあるけどね。」


 フィルビアとそんな話をしていると、目の建物からその少女が出てくる。両手には、模擬戦で使うような、木剣や槍を抱えている。髪の色に近い白銀の鎧を胸元を覆い、ところどころにある装飾は赤色で描かれていた。


 「今日も槍の稽古ですか?それとも剣でしょうか?」


 輝いた表情でフィルビアのことを見つめている。今まで槍を研いでいたのは、来るはずのフィルビアを待っている間、何もすることがなく、仕方なく槍の手入れをしていたのだろう。


 「今日は、私じゃなくてここにいるアレクが相手してくれるよ。」

 「そうですか。初めましてアレクさん。私、ルシア・セルビアンといいます。今日はよろしくお願いしますね。」


 驚くべき速度で状況を飲み込んだルシアは、先程の表情を今度はアレクに対して向けてくる。

  

 「いや、ちょっと待て。聞いてないぞ。」


 元々、この演習場に来た理由だって、他の自警団員を待つまでの間、フィルビアの用事を済ませよう、と、いうことできたはずで、アレクとリズベルは完全に見学をするだけだと思っていた。


 「だから、ちょうどいいじゃん。私はアレクの実力が知りたい。ルシアは、実践的な演習が出来る。あんたも天才騎士の実力が分かる。いいことばっかじゃん。」


 確かに、効率的にはいいのかもしれない。しかし、アレクは物申したい。それは、フィルビア一人に対してだろう。と。


 「大丈夫なのか?ルシアは強いぞ。並み大抵の剣士じゃ・・・」


 心配になってついてきたのか、先程の副団長さんがフィルビアに話しかける。しかし、アレクがその言葉に肯定するよりも早く。


 「大丈夫さ。何せアリシアと同格の剣士らしいし。な、リズ。」

 「うん。とっても強いよ。」


 などと、二人の間で勝手に話を進め始める。さらには、


 「アリシアとセバスが苦戦していた敵を一発で吹き飛ばしたり。手練れの傭兵の攻撃を一太刀も受けなかったほどだ、大丈夫さ。」


 などと、話に尾びれを付けて副団長様の背中を押して、アレクの前から離れようとする始末だ。


 「あの、武器の方は剣でよろしいですか?」


 ルシアの方もアリシア達とのの話が出てから、目の色が変わったようにアレクに食いついてくる。もう既に四面楚歌。アレクに逃げる場所など残っていない。渋々、ルシアに差し出された木剣を握り、演習場の中にある決闘場のようになっているところに向かう。









 「アレクさん大丈夫かな?」

 「どういうことですか?リズベル様?」

 「アレクさん。魔剣士だから、剣だけだと実力の半分も出せないかも・・・」

 「魔剣士ですって!?」


 決闘場の端に並んだアンジュ、フィルビア、リズベルの三人は、目の前で向き合っているアレクとルシアに聞こえない声量で話す。しかし、リズベルの発言でアンジュは声が裏返ってしまう。当然のことで、今まで全員が同様に驚いてきた道だ。

 魔剣士というのはこの国に限った話ではなく珍しい剣士だ。

 魔術と剣術―体術は相いれないものだ。魔法を極めるためにはそれ相応の時間が必要になるし、剣術にも同じことが言える。そのため、両立は難しく、ほとんどの魔剣士を目指したものは、どちらも二流以下の存在になってしまうのがおちだった。しかし、リズベルの話を聞く限りでは、アレクはこの国一番の剣士アリシア様にも匹敵する実力を持ち、十分な火力を魔法でも持っていると聞く。もし本当なら、古の大英雄の再来になりかねない。

 そういった意味でも、フィルビアには注目の一戦だった。


 「ですが、魔法の加減は難しいのでは?」


 魔法は発動するのに最低限度の魔力を必要とする。そのため、必然的に最低限の威力も決まってきてしまう。故に、魔法使いと模擬戦を行うことは非常に難しい。



 「そうだよね。まあ、剣だけでも十分強いと思うし大丈夫かな。」


 この模擬戦はすでにルシアの相手をするだけのものではなくなっていた。新たな大英雄候補の実力を見定めるためにフィルビアとアンジュは目を凝らす。






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