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変化する日常

 「これは、我が国の紋章ですね。」

 「しかし、この国に軍はありません。自警団のメンバーにこのような人はいませんよ。」


 アレクとリズベルが居なくなっていることに途中で起きて気付いたセバスが、アリシアと探しに行こうとする寸前で戻って来たアレクは、弱っているリズベルを見てかなり険しい表情で睨むセバスの視線に耐えつつ、何とか状況を理解してもらい森に案内することが出来た。

 そして、セバスはその騎士の着ている鎧を見るなりそう言った。

 この国つまりは、このイグニアス王国の騎士があの黒い塊になっていたということなのか?しかし、先程アリシアも言っていたように、この国にいる騎士は、自警団にしかいないらしい。では、この男は、


 「また正体不明の人ですか。しかも今度は死人。」


 セバスは、アレクとその死体を交互に見る。

 成人男性とみられるその死体は、騎士にふさわしく体はしっかり鍛えてあった。180くらいの身長でセバスより少し小さいくらいだ。灰色の髪の毛は無造作に広がっていて体と鎧には無数の傷が目立っていた。


 「どうしましょうか?アリシア様。」

 「・・・。ここに置いてはいけません。国の教会に運びましょう。」

 「では、すぐに出発しましょう。」


 もうすぐ夜が明けようとしていた。本来ならもう少しあの川辺で寝ている時間だが、いろいろとイレギュラーな事態が起きすぎている。

 記憶も出身も分からない新たな仲間の加入。正体不明のイグニアス大国の騎士の死体。そして、アレクのみが確認した人間規模ではない空の二つの魔法陣と黒い塊。

 野盗討伐をしに来ただけなのに、前代未聞かつ不可解なことが起きすぎている。一刻も早くこのことを王に報告する必要があるのだ。

 アリシア達は、急いで準備を整えると王都への残り半分となった、帰路に就いた。




 太陽がもうすぐてっぺんに達しようとしている。昨日から、というよりか一週間近く歩いたり、戦ったりとしてきたアリシア達はその疲れを感じさせない速さで残りの帰路を消化させた。

 

 「ようやく到着か。にしてもでかいな。」

 「当然です。何せイグニアス王国最大の都市にして王都。バルムントですから。」


 全長50メートル。総延長は半径10キロ都市をぐるりと取り囲む壁はまさに圧巻だった。さらに、その全面を無機質な石ではなく、白亜の鉱石によって作られているのだから、このイグニアス王国の国力と豊かさは言わなくても伝わってくる。

 現在は、この王都の正門ではなく、東門に向かう街道を進んできているのだが、目の前にある門は、先日までいた街。ヴォルトの正門よりも大きい門がそびえたち、警備の兵士の量も当然の如く、圧倒的に多かった。


 「アリシア様。お帰りなさいませ。王城にて国王様がお待ちです。」

 「?。わかりました。元々、参上するつもりです。ご苦労。」

 

 先程、森の中で出現した騎士の死体とは、少し異なる形状の鎧を着ているものの、胸には騎士と同じこの王国の紋章だと言っていた、三本の足を持つ鷹が剣と槍と盾を持ったようなエンブレムが描かれている。白銀の鎧を着た衛兵は、それだけを言うため来たようで、アレクの事には一切触れることなく通常の業務に戻っていく。

 アリシアも国王からの召喚命令の意味が分かっていないようで、頭をかしげたが、元々国王様にいろいろと報告すべきことがあるため、当初の目的は変わらない。


 「そういえばこの国の国王様ってどんな人なんだ?」


 アリシア達の性格やこの国の軍を持たない方針から恐らく、厳しい王様ではないだろうことは予想がつくのだが、これから一国の長に会うというのに全く知らないのでは、いくら何でも無礼だろう。


 「とっても優しい王様だよ。きっとアレクさんのことも笑顔で迎えてくれるよ。」

 「そうか。なら嬉しいな。で、どんな顔なんだ?やっぱりいかついのか?」


 アレクの持っている王様に対する勝手なイメージは、太っていておっとりしているか、いかつい王様だ。元々、戦王とまで呼ばれた人の血を継ぐ家系なら、太っていることはあまり考えられない。ならば、いかつくて優しい王様を期待している。


 「いかつくはないですよ。何せこの国の王は女王ですから。」

 「え?そうなのか?」


 セバスの言葉に驚きを隠せずに街の中、大通りを進みながら大声をあげてしまう。やはり、勝手な想像と予想で何かを決めつけるべきだは無い。と、これからは、そういった重要な情報は素直に先に聞くことにしよう。


 「へ、へえ~。女王様なのか。」


 不安が急にアレクの中で期待へと変わる。基本的、こういった平和な国の女王様は、美人と相場が決まっている。若くなかったとしても、優しく壮麗な姫様がきっといるに違いない。記憶のないアレクにとって何が相場なのかは疑問が残るが、アレクがそう思うのなら、彼にとっての相場そうなのだろう。

 目の前にそびえたつは、王都を覆っていた城壁と同じ白亜の城。街に存在するどの建物よりも大きな城は、美しい色と相まってかなりの存在感を放っていた。


 「すげー。」


 思えば目が覚めてからアレクは、何かを見るたびに驚いていたような気がする。もし、こういったものを記憶を失う前にも見ていないのだとしたら、彼の国はあまり豊かではなかったのだと想像できる。

 城に入ってからもアレクは、落ち着きがなく壁にかかっている絵画や装飾品に目を奪われながらアリシア達の後ろを何とかついて行った。


 「アレク殿。この扉を開けた先には女王様がいらっしゃいます。落ち着いてくださいね。」

 「お、おう。ちょっと緊張してきたくらいだ。」


 セバスが気に掛けるくらい少し気分が浮かれ気味だったアレクも仰々しい扉の前に立つと自然と緊張してくる。外装と同じように内装の壁も白亜の壁にしっかりマッチしているその扉は、それぞれの扉を開けるために二人の使用人が使われていた。


 「では、お願いします。」

 「は!」


 きびきびとした返事と共に、二人の使用人が扉を開く。その先にはレットカーペットが敷かれ、今まで通って来た廊下とは比べものにならないほど、豪華な装飾が施されていた。

 王座の間。その言葉がふさわしい雰囲気を持ったその空間にアレク場言葉を失っていた。

 部屋の一番奥。金縁の王座には一人の女性が鎮座していた。リズベルのようなきれいな金髪を腰よりも下まで伸ばしている女性。距離があるので正確なことは言えないが、年齢は、セバスよりも少し若い28歳くらいだろうか。直球ど真ん中の美人のお姉さん女王様だった。


 「よく戻ってまいりました。待っていましたよ、アリシア。」

 「はい。それで、先に報告からでよろしいでしょうか。」


 女王様が話し出すと同時にアリシア達が跪く。遅れないようにアレクも膝をついてかしこまる。


 「そうですね。お願いします。」

 「はい。情報にあった野盗の集団は元傭兵たちの集団であることが判明。東の街ヴォルトにて、捕縛することに成功しました。なお、我が国としての損害は無いと思われます。」

 「ご苦労様でした。アリシア。もう大丈夫ですよ。」

 「はい。」


 そういうとアリシアは頭を上げ立ち上がる。同様にリズベルも立ち上がるが、セバスは依然としてかしこまっている。アレクもどうするべきかわからず、とりあえずこういったときには、アリシアよりもセバスと同じことをしていれば、失敗はないと膝はついたまま状況を確認する。


 

「(アリシアさんまだ、オレの話とか、森での話とか残ってますよ!)」


 などと言えるわけもなく、アリシアにアレクは目で必死に訴える。すると今まで女王様の隣で立っていた近衛兵であろう女性が、アリシアが近づくと膝を折ってかしこまる。自警団と近衛兵であれば近衛兵の方が位は上だと思うのだが、しかし、


 「お帰りなさいませ、アリシア様。すみません、このようなこと本来は我々天馬騎士団が行うべきこと。アリシア様、リズベル様にお手間をかけました。」

 「気にしないで、エリダ。これも自警団の仕事。それに、天馬騎士団は姉さまの護衛につていたのだから仕方ないわ。」

 「ありがたきお心遣い。痛み入ります。」


 おかしい。絶対に聞こえてくる会話は、何かが完全にアレクの勘違いが入っていなければ説明がつかない。なぜ、国王様の近衛っぽい女性が一方的にアリシアに対して敬称を付けているのか、あまつさえ、リズベルに対しても『様』を付けていた。それと、『姉さまの護衛』という言葉にも気になる。


 「何をしているのですかセバス、そちらの殿方も顔をお上げください。」


 女王様の言葉にアレクは、持てるだけの思考速度で状況を理解しようとするが、全く答えが出てこない。ここにいないアリシアとリズベルの『姉さま』気になるところだが、今この状況をどうするのが正しいのかが分からない。


 「(頼む。セバス。何か行動を起こしてくれ!)」


 アレクの切な願いが届いたのか、セバスは顔を合あげ立ち上がってくれた。これは、好機と、アレクも間髪入れずに立ち上がる。後で知ったのだが、王様の命令は一回目は、従わないのが通例らしい。


 「それで、その時私たちを助けてくれたのが、あそこにいるアレクさん。」

 「まぁ、アリシアがお世話になりました。」

 「い、いえ。こちらこそお世話になったといいますか、素晴らしい名前までいただいて。」

 「名前?」


 女王様の首をかしげるしぐさに、反則だろ。と、心の中で叫んだアレクは、完全に思考停止する。


 「アリシア様。メリンダ様もアレク殿も状況が掴めておりません。初めから説明を。」


 本当に今この場で心から信頼できるのはセバスだけだ。もし、アレクが女だとしたらセバスが輝いて見えることだろう。最上級の感謝を送るぜ。と、アレクは心の中で叫び続ける。


 「そうでした。ではまずアレクさん。こちらにいるのがこのイグニアス王国、第十三代国王・・・。」

 「ちょっと待って、アリシア。自己紹介くらい、自分でやるわ。まったくアリシアは、その説明もしないでここまで連れてきたの?セバスも。」

 「はっはっは。てっきりアリシア様は内緒にしてビックリさせようとしているのだと思いましてね。」


 前言撤回。この騎士様はこの展開まで読んでいた状態でわざとアリシアの事、その他もろもろの説明をしていなかったのだ。この悪魔め。


 「はぁ~。では、アレクさん。私は、メリンダ・イグニアス・フェニシオ。このイグニアス王国の第十三代国王です。そして、アリシアとリズベルの姉です。かしこまらず接してくれるとありがたいです。」

 「・・・え?」


 あまりの驚きに時が止まったように感じた。まったく、アリシアといると毎日のように驚きがあって楽しいな。などとでもいうと思ったか。こっちは、もう驚きすぎて、驚き方のレパートリーがなくなってるわ。

 つまりは、今まで、あんなにフランクに接していたアリシアとリズベルはこの国の女王様の妹ということだ。

 これで、ここに来てからのアレクの中で回っていた疑問の答えが出た。近衛の女性が軽傷を使っていたのも、兵士たちが皆、仰々しく頭を下げていたのも全て、ここに王妹殿下が二人もいるのだ。皆が頭を下げて当然である


 「それで、アリシアこちらの方は?」

 「アレクさんです。剣と魔導の技術に優れ、戦場の掌握もできる、自警団の新しい仲間です。」

 「今回の遠征の途中で出会ったのですが、記憶を失っているようでいしたので、それを探すためにこの自警団に入りたいと。」

 

 アリシアの説明にセバスがすかさず補足する。


 「それでね、名前も覚えていないって言ったから、私があげたの。」

 「それでアレクなのですね。リズらしいですね。」


 アリシアもリズベルもこの国王―いや、姉―メリンダのことが好きなのだろう。今まで落ち着いていたアリシアでさえ少し浮かれているように見える。


 「アリシア様達は。幼いころに両親を亡くしているのですよ。それで歳が少し離れているメリンダ様だけが本当の家族で、親代わりなのです。」


 アレクにだけ聞こえるようにセバスが説明してくれる。

 王族というものは、幼いころから乳母によって育てられる。アリシアとリズベルも例外ではなく乳母に数人の貴族の子供達と一緒に育てられた。しかし、本当の両親ほど大きい存在は無いのも事実で、それをアリシア6才、リズベル2才の時に失ってしまった。火事による事故としているが、実際のところは国王の部屋には何人かの焼死体も出てきている。真相は未だにわかっていない。

 その後は、齢16歳のメリンダが王位を継ぎ、この国をアリシア達を支えてきたのだ。故に、アリシアとリズベルのメリンダへの感情は並み大抵の物ではない。


 「そういうことでしたらアレクさん。これからもアリシアをリズベルをこの国をお願いしますね。」

 「は、はい。」

 「できればアリシア達に話すように接してくれると嬉しいのですが・・・」


 と、少し悲しそうな顔をメリンダは浮かべる。


 「え、あ、任してくれ。」


 精一杯の口調でアレクは拳を胸に当てて答える。案の定、近衛の女性とセバスに睨まれ、メリンダさんからは、微笑を頂戴した。


 「ふふ。よろしくお願いしますね。」

 「あ、はい。」


 気軽に接してほしいといった割には、メリンダ自身は敬語なのかよ。とは、間違っての突っ込めない。


 「これくらい素直にセバスもエリダも私に接してくれるといいのに。」

 「はっはっは。そんなことは出来ませんよ、メリンダ様。」

 「騎士団の団長として仕えるのが当然です。アリシア様も団長として接しているときは、そうではありませんか。」


 エリダと呼ばれた近衛の女性は、王族直轄の騎士団、天馬騎士団の騎士団長様らしい。直接的な戦闘能力では自警団に劣るものの、統率のとれた戦闘を得意とし、また、天馬による移動能力の高さから、自警団以上の戦績を持っている。

その後は、帰りの道中で見た(アレクのみが)魔法陣の報告、ならびにその魔法陣が召喚させたと思われる黒い塊の生物、そして、そこから出てきたこの国の紋章を持った騎士の存在を事細かに報告を行った。


 「魔法陣や黒い化け物についても気になりますが、我が国の騎士というのも重要な問題ですね。」


 このイグニアス王国にも当然、騎士団は存在する。存在するのだが、形骸化して久しい。国内外の戦闘は王直属の天馬騎士団か自警団が行い、その他の騎士団は、国の政を考えるようになっていった。故に、騎士の鎧を着て何かと戦う騎士というのは、いるはずがないのだ。


 「諸外国でこのようなことがあった場合の対策も早急にしなくてはなりません。」

 「そうですね。まずはそちらの対処を、次に魔法陣の解析といきたいのですが、話で聞いたほど大きな魔法陣を形成できる召喚士はこの国には聞いたこともありません。」


 既に、協議に入り始めようとしているセバスとエリダはさすが、まじめ代表だ。


 「まあ、詳しいことはもう一度議会の人たちとしましょう。アリシア、セバス。この後、予定していた議会の場でそちらの話もよろしくお願いしますね。」

 「そういえば姉さま。門の兵士に王城への召喚命令って何なのですか?」

 「ふふ。それも後のお楽しみ。では、リズ。アレクさんと自警団の兵舎に案内してあげて頂戴。」

 「あ、そうだね。わかった。」


 そう言うと、こっちだよ。と、リズベルがアレクの手を掴んで王座の間から走って出ていく。

リズベルが居なくなると一気に場の雰囲気の温度は低くなる。リズベルがどうのではなく、全員の気分が少し下がるからだろう。


 「彼が古の大英雄のようにこの国を救う者になってくれるといいですね。」


 ぽつりと、メリンダが呟いた言葉にアリシアのみが同意する。

 古の大英雄。

 魔導と剣に長け、このイグニアス王国を作った英雄王のような人であれば、このイグニアス王国に迫っている戦争の危機から救ってくれると信じて。淡い希望であったとしても、もうそんな希望に頼らねばならないほどに状況は、切迫していた。そんな状況を打破してくれる英雄であることを祈って。

 アリシア、エリダ、セバス、メリンダの四人は議会が執り行われる会議場へと向かう。

 




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