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トラブルは舞い降り続ける

 チンピラたちの持っていたバッグからヒジリが取り出したのは拳銃だった。

 ヒジリは嘗め回すようにそれを見つめていた。

「そうね、モデルガンじゃなさそうね」

「なんで分かる?」

「銃口にちゃんと溝がついてるよ。なんか火薬の匂いもする」

「お、おい、危ないぞ!」

 銃口を覗き込んだり鼻を近づける彼女を見て俺は思わず声をあげてしまい、あわてて周囲を見まわした。

 うろたえる俺をよそに彼女は遊底を引っ張った。

「装填されてないじゃない」

 引いた遊底がストッパーがかかって止まったのを見て、

 彼女は再びバックの中を探って、弾倉と弾をとりだした。

 手慣れた感じに弾を詰めて、弾倉を銃にセットすると、自然に止まっていた遊底が動いて弾が装填された。

「わたしにはちょっと大きめだけど、使えなくはないわね」

 彼女は普通に握ったり構えたりしており、まるで銃に慣れているように見えた。

「お、おい、ちょっと聞くが、お前、銃を撃ったことがあるのか?」

「うった? 撃ったこともあるし、売ったことも買ったこともあるけど」

 どこでそんな体験するんだよ!

「海外にいたことあるのよ。親の仕事の都合で。日本では銃なんて手にすることめったにないでしょ?」

 

 めったにないじゃなくて、全くない、だと思うんだが。

 そして、今まさにその機会に遭遇したってことなのか、これ。


「でも大事なバッグ取ってきちゃったね。たぶん、取り返しに来るよ、これ」

「冗談じゃないぜ! 早く捨てようぜ、もしくは警察に」

 うろたえる俺に対して彼女があきれるようにため息をついた。

「あのね、もし取り返しに来た時に返すべきバッグがなかったら、相手はどう思うかな?」

「そ、それは」

「すいませんじゃ、すまないんじゃないかな?」

「じゃあ、どうするんだ?」

「万一を考えて、わたしたちで保管しましょ」

 まじか? まじなのか?

「どっかで試し撃ちしたいなぁ。どっかない?」

 いーかげんにしろよ!

 この女は一体どういう性格しているんだ?


「それと、なんか資料一緒に入っていたんだけど」

 彼女が取り出したファイルを開いて見た。

「なんだ、人物ファイルみたいだな。この人有名な人なのかな?」

 俺と彼女は資料を読みこんだ。

「どうやら現職の議員さんで、次期選挙に出馬して再選を狙っているみたいだな」

「それにしても事細かにこの人のことが書いてあるわね」

 

 いやいや、これは事細かでは済まないんじゃないか?

 資料には氏名、年齢、身長、体重、顔写真、住所、ここ一ヶ月の行動記録、そして今後控えている講演の予定、会場の場所、時間が記されていた。


 ここまで読んで俺の頭の中にはある考えが浮かび始めていた。

「このバッグ、もしかしてこの人を殺すためのセットなんじゃないか?」

「つまり、中に拳銃、ターゲットの詳細な資料……間違いないかもね」

 ヒジリも同じことを考えていたようだ。

「この人のためにも、これ処分しちゃったほうがいいんじゃないか?」

「ううん。もしこれが見つからなくても計画は実行される可能性は高いかも」

「なんでだ?」

「暗殺計画の依頼を殺し屋はもう受けている。その証拠がこのバッグよ」

「ど、どういうことだ?」

「依頼を受けたから詳細な情報と道具をもらう手筈まできていたのよ。ここまでして今更やりませんは通用しないんじゃない?」

「じゃあ、どうなるってことだ?」

「なんとしてもバッグを取り返そうとする。もしくはターゲットが誰なのかぐらいは知っているだろうから、資料なしでやるんじゃない?」

 ヒジリは資料をバッグに戻し、ファスナーを閉めた。

「あのチンピラどもが殺し屋だったのか?」

「彼らが殺し屋だったら、わたしにあんなあっさりやられるわけないでしょ? きっと殺し屋にこれを渡す使いっぱだったのよ。きっとあの先の駅で乗ってきて、受け取る予定だったのよ」

「じゃあ、あのチンピラ二人は仕事をしくじったわけだな。大丈夫かな?」

「大丈夫じゃないけど、殺されはしないわ」

「なんで?」

「わたしらの顔を見ているんだもん。わたしら探すまでは生かしておいてもらえると思うよ」


 なんか、すっごいヤバいようなことに首を突っ込んでしまったような気がしてきた。


「ターゲットはこの先の街にいるようだし、講演は明日開かれる。なんとかしないとね」

「まさか、そこに行くんじゃないだろうな?」

「当然でしょ? このこと、この人に教えないと殺されちゃうかもしれないでしょ?」

 ま、それは確かにある。他人とはいえ人の命がかかっているんだから当然か。

「それに」

「それに?」

「こんな面白いこと、見に行かなきゃダメでしょ?」

 

 やっぱそいうことか……ヒジリが純粋に他人の命を助けるなんてことで動くわけないか。

 ま、確かにこの人殺されるかもしれないし、何とかしないといけないことは理解していたが、この先の街でバッグを探している殺し屋に会っちゃうかもしれないのに危険すぎないか?

「やっぱ警察に……」

 俺が警察に荷物を渡すことを提案しようとした時だった。


 パァーン!


 近距離で爆発音がした。

 ヒジリの持っていた銃から、白い煙が上がり、カランと音がして薬きょうが落ちた。

「結構使えそうよ、うん」

 そう言って銃を自分のバックにしまい込んだ。

「って、バカ野郎! なに試し撃ちしてるんだよ!」

 周囲を見ると駅のホームにいた人たちがびっくりした顔で俺たちを見ていた。

「と、とりあえずここから逃げた方がよさそうだぞ」

「あ、待って薬莢拾ってくから」

「急げよ! 駅員さん呼ばれたらまずいぞ!」

 俺はヒジリの手を引いて急いで改札をくぐり、冷静を装いながら足早に駅舎の外に出た。

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