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とてつもない真実が世の中にはあっても、たいていは日常の波の中に沈んでいるもんなんだよ!

「もう暗くなってきたな」

 すっかり陽が落ちてきて講堂も薄暗くなってきていた。

「わたしたちの学祭もそろそろ終わりだね」

「ああ」

 するとナツメさんが俺の手を取った。

「じゃあ、最後に踊ろう」

「踊る?」

「学祭の最後はダンスでしょ?」

 学祭のダンスとか参加したことないし、参加する気もなかったけど。

「今日はわたしのために参加してください。サラシナ君」

「わかった。今日は君の要求は受け入れるよ」

「よかった」

 そう言ってほほ笑んだナツメさんの後ろに立って、手を取ると、彼女が何やら曲を口ずさみ始めた。

 そしてそれに合わせて俺たちはゆっくりとフォークダンスを踊り始めた。


 その後会話もなく、彼女が口ずさむ曲に合わせて踊り続けていたのだが、少し緊張して鼓動が早くなってしまう俺は、なにか話そうかと思案した。

「これ、なんとかスタンピートとか言う曲だっけ?」

「オクラホマミキサーでしょ?」

「そうか、そんな曲名だったか。あ、でも……」

「知ってる?」

 俺のしょうもない会話を遮るように彼女が言葉を挟んできた。

「な、なに?」

「ダンスの後で花火が上がるでしょ?」

 ああ、あのしょぼ花火か。

「で、みんなが上を向いている時にキスすると、その二人は永遠に結ばれるんだって」

 パタッと彼女の動きが止まった。そして俺の方を振り返って俺の眼を見つめてきた。

「な、ナツメさん?」

「残念ね」

 は?

「今日は花火も上がらないし、キスしても効力ないんじゃないの?」

「さ、さあな?」

 おいおい、『さあな』じゃねえよ!

 『そうだな』って言えば会話は終わったんだよ。

 なにぼかしてんだ俺!

「た……」

 ナツメさんは小さくそう言って言葉を切った。


『試してみる?』


 きっとそう言おうとしたような気がした。


「ふふ、はははっ!」


 急にナツメさんが小さく笑い出した。

「な、なんだよ?」

「すっごい困った顔してたよ。マジで」

 な、なに?

「もう少しいじめてやろうと思ったけど、かわいそ過ぎたからここで終了にしてあげる」

 からかわれてるのか、俺?


「そろそろうち、車で迎えに来るから、これでバイバイ」

「あ、そうなのか」

「うん。じゃあね」

 意外に最後はあっさりだったなぁ。

「ああ、じゃあな」

 俺がそう言って手を振ろうとした瞬間、急にナツメさんが振り返って俺に飛びついてきた。

「ん……」


 ナツメさんの唇は柔らかく、温かかった。


「サラシナ君。大丈夫だよ」

 唇を離したナツメさんは俺の顔をまっすぐに見つめながら少し微笑んだ。

「な、なにが、大丈夫なんだ?」

「とてつもない真実が世の中にはあっても、たいていは日常の波の中に沈んでいるもんなんだよ」

 とてつもない真実……。

「だから大丈夫。わたしがついてるよ」

 そう言うとパッとナツメさんは俺から離れた。

「じゃあ、また!」

 そう言ってナツメさんは驚いている俺の顔を指さして笑ってから、手を振って去って行った。



 それから。

 何もなかったようにその後の夏休みは過ぎて行った。


 休み明け。いつもと変わらない学校だった。

 あんな夏のことがあったにもかかわらず、ヒジリは学校で俺が挨拶してもシカトし続けていた。

 たまに二人きりで廊下ですれ違ってもヒジリは俺の方を見ようともせず、個人的に話す事もなかった。

 

 あの夏の日は一体何だったのか?


 そう感じていたある日のことだった。

「あ?」

 ヒジリからのメールが届いた。

「今週末の連休の予定に関して……なんだこれ?」


「待った?」

 新宿駅東口の前で、ぼんやりとしていた俺の肩を後ろからヒジリが小突いてきた。

「いて―よ。今さっき着いたとこだよ」

 そう言って俺が振り返るとヒジリが俺のヘッドホンを素早く外した。

「やっぱきてくれたね」

「あ、ああ、まあな」

 そうなのだ。俺はヒジリのメールに『連休の週末に行きたいところがあるから集合』とのメールをもらい、それに従ってきてしまったのだ。

 ま、学校ではガチ無視だし、いろいろと聞きたいことや話したいことがあったので来てしまったんだが。


「じゃあ、行こうか?」

 そう言って彼女は俺の腕を引っ張るようにして歩き出した。

「ちょっと待て、なんで駅の中入らないんだよ?」

「あ、ちょっとその前に寄るとこあるんだ」

「寄るとこ?」

「うん。知りあいがね、向こうにいる友人に持って行ってほしい物があるからついでにお願いしたいって言われたの」

「待て。なんかそれ、やばいようなもんじゃねえだろうな?」

 俺の言葉を完全無視してヒジリは歩き続けた。

「ちょ、ヒジリ、待てよ」


 ヒジリは前を向いたまま言った。


「ショウマにはわたしがいる。わたしにはショウマがいてくれる。だから大丈夫だよ」

「ヒジリ……」

 ヒジリは俺の手を引いて歩き続けた。


 『とてつもない真実が世の中にはあっても、たいていは日常の波の中に沈んでいるもんなんだよ』

 ナツメさんの言葉を思い出した。


 なにがあっても、日常の中で静かにしていてくれれば問題ないのかもしれない。いろいろ考えるのは時間の無駄、かもな。


 俺は無邪気に微笑むヒジリを見つめた。


 二人でいれば大丈夫……か。


 俺はヒジリの言葉をかみしめながら、いつまでもこんな時間が二人の間に流れ続けることを願っていた。

 

 ヒジリがふと足を止めて、俺を見つめながら、俺の袖口を握ってきた。

「二人でいれば大丈夫……人生最後の時が、大好きな人と一緒なら、それ以上に最高なことはないよね?」

「……大丈夫って、そういう意味なのか?」

 笑顔でうなずくヒジリから、

 俺は慌てて手を振りほどこうとしたが、無駄な抵抗だった……。


 こうしてまた俺たちの旅は始まった……。

 了

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

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