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星の王女と巻き込まれた俺の夏の日その4

「早速お姫様からのお呼びやぞ」

「ちょっと行ってきます」

「ヒジリちゃん、大丈夫かしら?」

 ミヒィさんも俺と一緒に立ち上がった。

「さっきノンアルコールカクテルと間違えて、アルコール入りの飲んじゃってたから」

「ま、マジっすか?」

 ヒジリのことだ。俺が思うに間違えたふりして飲んでたんじゃないか?

「ちょっと様子見てこいや」

 タマスさんに促されてミヒィさんと俺は家の中に入っていった。


「ヒジリ、どこだ?」

 トイレにうずくまっているかと思ったら、ヒジリの姿がなかった。

「お部屋で寝てるのかしら」

 俺たちは部屋の方に向かうと俺たちの部屋でなく、ミヒィさんの部屋のドアが少し開いていた。

「もしかしてミヒィさんの部屋の方に間違って入って寝てんじゃねえだろうな」

「だったら、起こさなくてもいいわよ」

 ミヒィさんがそう言ってくれても、部屋でゲロでも吐いていたら困るので中を覗いてみた。

「おい、ヒジリ」

 予想に反してヒジリは部屋の中で背を向けて立っていた。

「何してんだお前?」

 ヒジリは振り返ると何か紙を何枚か持っていた。

「ミヒィさん、絵、上手なんですね」

 ヒジリが持っていたのはどうやらミヒィさんが書いた風景画のようだった。

 画用紙に鉛筆だけで書いたものだが、かなりリアルだった。

「そんな、遊びで書いたものだから、あまり見ないで」

 ミヒィさんがヒジリの傍に行って絵を受け取ろうとしたが、ヒジリは振り返ってミヒィさんに別の紙を見せた。

「絵だけでなく、こんな詳細な地図も書くんですね。目で見ただけでかなり精密な測量もできてますよね」

 ヒジリが何を言おうとしているのか、俺はわからずに戸惑っていた。

「ミヒィさん、土木関係の仕事でもされてたんですか? すごい訓練されてますよね。そうじゃなきゃ目で見てこれだけ正確な測量記録は残せない。この辺の地形、交通網、いろいろと記録している。そして日本語も上手だわ。言われなきゃ外国の人だってわからないくらいに」


 そこまでのヒジリの言葉で、俺も妙なことが頭の中に浮かんできていた。


「お、お前、なに言いたいんだよ?」

「ミヒィさん、あなた諜報員なんでしょ?」

 

 んなわけねーだろ!


 と言いたいところだが、俺の中に浮かんでいた妙な考えもまさにそうだった。

 でも、実際のところそんなわけないだろう……と思いたいのに、ミヒィさんは否定もせずにヒジリの顔を見つめていた。

「この辺の地形を調べて、上陸ポイント、上陸後身を隠す場所、移動ルートを調べている。あなたは彼を利用して諜報活動をしているのね」

 黙っていたミヒィさんがヒジリから絵と地図を受け取った。

「仕事、だから。これしかできないから」


 み、認めちゃったよ! ミヒィさん、マジで外国のスパイなのか?


「仲間は?」

「ここに来る前にみんな死んでしまった。わたしはここにきて周辺の調査をする仕事を与えられていた。他の仕事はみんなで分担していたから、それ以外全く一切知らされていないの。言われるがままに仕事をするだけだった。だから、わたし以外の仲間が死んでしまって、どうすればいいのかわからなくて、どこに連絡していいかもわからない。わからないからとりあえず身を隠しながら本来自分に与えられていた仕事をしていたの」

「タマスさんを利用して?」

「そんなつもりはない。わたしを助けてくれて、警察にも言わないでくれていることに感謝している」

「でもあなたが難民だって嘘ついてるからでしょ? 結局いいように利用しているだけじゃない」

「それは……」

 ミヒィさんは下を向いて黙ってしまった。

「どうするつもりなんですか? この先」

「どうしたらいいか……彼に本当のことを言ったら、彼はどうするかわからないし、わたしもどうしたらいいか」

「だったら、嘘をつき続けるべきよ。確かにあの男じゃこんな大きなこと受け入れられるだけの度量はなさそうだしね」

 お、おいおい! なんちゅう失礼なこと言ってんだお前は!

「待てよ! そんなことってあるかよ? タマスさんを裏切り続けるのか?」

「その方が彼を傷つけずに済むわ」

「そ、そうかもしれんが……いいのか、それで? そんなこと、続けられるのかよ?」

「わたしならできる。ミヒィさんは、どうなんですか?」

「わたしは……できない」

 そう答えてうつむくミヒィさんの手をヒジリが握った。

「だったら、賭けてみてくださいよ」

 ヒジリはミヒィさんの目をまっすぐに見つめた。

「賭ける?」

「あの男、タマスさんの度量に!」


「お前、わざとミヒィさんのこと煽ったろう?」

 タマスさんとミヒィさんは、庭の方で話をすることになったので、俺とヒジリは車が停めてある家の裏、そこにある木製ベンチに腰かけていた。

 家の裏は細い道があって、その向こうは空き地で草木が好きなように伸びていて、風に揺られてざわざわと音がしていた。

「お見通しだった? 男と女は、お互いになにか秘密を持ち続けていた方がいい関係が続くもんだけど、あの二人にはそんなものは必要ないと思ったの」

「俺とお前の関係でも、秘密があるってことか?」

「わたしは必要ないって思ってる。ショウマはどう?」

「俺は、多少の秘密はありかと思うがな」

「やっぱな」

「な、なんだよ?」

「ショウマ、馬鹿正直だ。わたしの思った通りの人だったよ」

 にっこりと笑うヒジリに、すべてが見透かされているようで、俺は悔しくて目を逸らした。


 しばらくして庭の方からタマスさんが勢いよく歩いてきて、俺たちの横に荒々しく座って煙草に火をつけ始めた。

 俺はなんと声をかけたらいいのかわからずにいた。

 しかし、こんな時でもヒジリは全く気にしないのか平然と問いかけ始めた。

「どうだったんです?」

「どうもこうもあるかい!」

 ヒジリの言葉にタマスさんが声をあげてキッとヒジリを睨みつけた。

 しかしヒジリは目を逸らさずにタマスさんを見つめ返した。

 しばらくの睨み合いの後、タマスさんが目を逸らして息を吐いた。

「どうしたらいいんや? そんな難しいこと言われたってわからんぞい」

タマスさんはイラついたようにまだ長い煙草を消すと力なく頭を抱えてしまった。

 ヒジリが立ち上がった。

「あんた男でしょ? 彼女のこと助けたんだから、最後まで面倒みる必要あるんじゃないの?」

「女のお前に何がわかるんや!」

「じゃあ、あんた何か言ってやりなさいよ!」

 急にヒジリが俺の方に向かって叫んだ。って、急に俺かよ……!

「でもさ、タマスさんの気持ちもわかるよ。彼女を助けたのは親切心かもしれないけど、今はきっと愛情があるんだ。だから、失うことが怖いってことも」

「だったら失わないようにしっかり抱きしめていればいいじゃない!」

 黙っていたタマスさんが顔を上げた。

「女にはわからんやろが、しっかり抱きしめとっても、すり抜けていくことがあるやろ? それが女やろが!」

「男だって、そうじゃない! 男なんて口ばっかよ。口ばっかで、好き勝手なことばっかしてんじゃない!」


 一番勝手なお前が言うのかよ!


「だからわたしは、男に振り回されない女になるのよ!」


 いや、もうなってるよ。十分すぎるくらいな。


「はっきりしなさいよ! 意気地なし!」

「ヒジリ、いい加減にしろ!」

 俺は思わず立ち上がってヒジリの腕を掴んだ。

「お前が言うことじゃない! それに、最初からタマスさんの気持ちは決まってるんだよ!」

「なんであんたにそんなことが分かるのよ?」

「決まっているんだよ。ただ、はっきりと言うことに責任を感じていれば、軽はずみに口にできないってこともあるんだ!」

「ばっかじゃないの? そんなの全然わかんない!」

 するとタマスさんが立ち上がって、俺とヒジリの間に入った。

「もうええよ、少年。すまんな、お前にそんなこと言わせてしまって」

 タマスさんは、俺とヒジリの肩に手を置いた。

「少年の言う通りや。俺は最初からはっきりしとるわ。彼女を助けた時から、俺の心は決まっとったんや。ただ……」

「ただ、なによ?」

「ちょっと、忘れそうになっただけやわい」

 そう言ってタマスさんはヒジリに笑いかけた。

「ならもう、問題ないね」

 ヒジリも小さく微笑んだ。


 俺たちは庭の方に戻ってきた。

 するとミヒィさんが炭火で何かを燃やしていた。

「あ、それ」

 燃やしていたのは今まで書いてきた絵や地図だった。

「もうこんなものいらない。わたしはこんなことする必要ないってわかったから」

 タマスさんがミヒィさんの横に立った。

「ええんか? もう」

「うん。わたしたちには必要ないよね」

 二人は手を握りあっていた。


「あのさぁ」

 ヒジリが二人に声をかけた。

「あの岬、この近くでしょ? もうすぐ陽が沈んじゃう。夕日が見たいから、わたしたちだけで行ってもいい?」

「ああ、送ってこうか?」

「いい。車貸して。運転できるから」

 タマスさんが車のカギを投げてよこした。ヒジリは鍵を受け取ると俺の手を握った。

「いこう! 時間がないよ」

「あ、ああ」

 俺がヒジリに促されて歩き出してから、ふと振り返ると、タマスさんとミヒィさんは抱き合っていた。

 俺はなんだかうれしくなってヒジリの顔を見ると、ヒジリも俺の顔を見てうれしそうに笑っていた。


「よかったな、あの二人」

 俺はヒジリの横に座って窓の外から西日が水面に反射して白く輝く海を見つめていた。

「そうね……ま、今だけでも幸せなら、それでいいよね」

 車を運転するヒジリは前だけを見ていた。

「今だけって、なんか含んだ言い方するな、お前」

 ヒジリは前を向いたままだった。

 そしてポツリと口を開いた。

「彼の家は監視されている」

「なに?」

「彼女、泳がされているのよ。警察なのか公安なのか知らないけど、連絡員が接触してくることを待っているみたい」


 全然気がつかなかったんだが……。


「でも、もし誰も接触してこなければ、そのままか?」

「頃合いみて密入国者としてしょっ引く。いろいろ調べて何も出てこなきゃ国外退去」

「そんな」

「もしかしたら時間の問題かもね」

「ミヒィさんに教えた方がいいんじゃないか?」

「彼女は知っている。だから、燃やしたの」

「あの絵や地図のことか? まさか、証拠隠滅ってことも含んでるのか?」

「そう」

「いや、ちょっと待てよ。あの絵を燃やしたのは、タマスさんと純粋に生活していくため、過去を清算するため、そのために燃やしたんじゃないのかよ?」

「そんな単純なもんじゃないのよ、女の気持ちは」

なんだよそれ……。

「好きだから一緒にいたい、でも、一緒にいたって不安は消えないのよ。愛なんて不安定なものにいったい何の保証があるの? だから自分のことを大事にしようって考えも浮かんでくるし、そのために少しは計算高いことも考える。それが女よ」

 

 それが本当ならちょっとがっかりしたんだが……

 いや、あくまでもこれはヒジリ個人の見解じゃないか!


「俺はミヒィさんがおまえと一緒だとは思わないけどな」

「自分でもそんなとこが嫌だって思うけど、女はみんなそういうもの抱えて生きてんの。あんたたち単純ロマンチストバカな男たちみたいにはなれないのよ」

 単純ロマンチストバカ……なんか悔しいが否定できない気がする……。

「おまえもそうなのか?」

「そうよ……でも、今のわたしは保身もしないし保証もいらない。ショウマにすべてを賭けている」

「お前、なんでそんなに俺に肩入れしてるんだ?」

「わたしが選んだ人、わたしにとって最後の人だから」

 

 どういうことなのかわからないが、それは俺が鈍感なのか?

 どう考えてもただの恋愛感情だけの言葉とは思えない何かが隠されている気がした。


「あ、そう言えばお前ノンアルと間違えた振りしてアルコール飲んだだろう!」

「それこそ飲んだ振りしただけよ」

「そうなのか?」

「酔った振りすればトイレが長くても心配されないし、その間にミヒィさんの部屋も調べられるでしょ?」

 こいつ自分の好奇心を満たすためだったらどこまも計算して行動しやがるなぁ。

 ホント、もう少しそう言う細やかさを対人関係(特に俺)に使えってゆうの。

 少し暗くなってきた海沿いの道を、車はどんどん進んでいった。

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