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星の王女と巻き込まれた俺の夏の日

 俺たちは目的地までの切符を購入し新幹線に乗り込んだ。

 今度はちゃんと切符購入時に俺が付き添って、一般自由席にさせた。

(ヒジリはグランクラスの切符を購入しようとしたが全力で止めた)


「もう喧嘩しないでくれよ」

「ふざけたやつがいない限り、わたしからふっかけるわけないじゃない」

 本当かよ?

 とりあえず自由席でも普通に座れて、旅は順調だった。

「見て! 海よ、海!」

 日本海が見えてきたところで彼女は窓に食い入るようにして海を見つめていた。

「なんか日本海って、荒波寒々しい印象だったけど、意外に穏やかなのね」

「それは冬の時の印象だろう。こっち側は冬の間毎日天気悪いらしいし」

「そうなんだ。わたしは毎日天気悪くても平気だよ」

「そうなのか?」

「ショウマがいてくれれば天気悪くても全然平気」

「俺?」

「わたしとこっちにずっと暮らすことになったら、どうする?」

 妙な質問をしてくるヒジリは悪戯好きな子供のような目で見つめてきた。

「お前と暮らすことになったら……心労でまいっちゃいそうだな」

「なんでよ? 絶対楽しいよ!」

 かなり怖い表情になって訴えてきやがった。

 マジで怒んなよ。しょうがねえなぁ。

「楽しいのはわかってるよ。刺激が絶えないってことではな」

「刺激? ああ、エッチなこと考えてたんだぁ……」

「ちげえよ!」

「ま、ショウマが望むならわたし結構どんなことでも応えちゃうから」

 アホかコイツ……。


 しかし、

 どんなことでも応えちゃうってことは、

 例えば、あんなことや、

 まさか、ここまでするか?

 マジか? いいのか? ヒジリ!


「あのさ、顔がいやらしいんですけど」

 い、いかん! 表情に出ていたのか、俺?

「嘘よ、なに動揺してんのよ。でも、いいね、なんかいいよね」

「な、なにがいいんだよ?」

「想像するだけなら、楽しいよね。二人だけの生活」

 そう言って、また彼女は窓の外を見つめた。

 

 なんか無邪気なんだか、マジなんだかわからない彼女の言葉は、俺を複雑な気持ちにしていた。

 でも、彼女が相当真剣だったことを知るのはもう少し先のことだった。


「きれいな駅じゃん。わ、見て、ただの噴水かと思ったら時刻出てるよ!」

 駅から出たところに水で時刻を表示する噴水があった。

 駅のエントランスは大きなオブジェのような捻じれた柱と高い天井のような構造物があるものすごいモダンな建物だった。

「最近新幹線が開通したから駅もきれいにしたんだろうなぁ」

「そうなんだ」

「でも城下町、古都って感じじゃないんだなぁ。松本駅も上田駅もそうだったけど」

「いーじゃん、かっこいいんだから。さて、海はどっちにあるの? どうやって行ったらいいの?」

「俺が調査したところでは……」

 新幹線の駅から海までは結構距離があった。


「で、なんでこんな場末のローカル線乗らなきゃいけないのよ!」

 俺たちは2両編成で単線の列車に乗っていた。

 家と家の間をすり抜けるように走る様は、まるで浅草の遊園地にある、レトロなジェットコースターを彷彿とさせた。


「これに乗っていけば海の近くまで行けるんだよ」

「ちょ、ちょっと!」

 彼女が平行して見える土手の上を指さした。

「車に抜かれてんじゃないの!」

「ま、たまにはこういうのもいいんじゃないか?」

 彼女は我慢してくれた。(というか俺がなだめ続けた)

 座席の揺れに合わせて一列に並んだつり革がブランコのように揺れているのを眺めながら、いつしか電車は終点に着いた。


「なにもないじゃないのよ!」

 小さな終着駅に降り立ったが、駅前には本当に何もなかった。

「駅の目の前が海だとは言ってないだろう? 地図だとこの先だ」

「ここから歩くの? こっちへ行けばいいのね?」

 俺と彼女は少し勾配がある道を歩いた。


 五分後


「歩けない! もういや!」

「はいはい、おぶればいいんだろう?」

「子ども扱いしないでよ! 赤ちゃんじゃあるまいし」

 

 どうしろって言うんだ……。

 そして彼女は文句を言いながら歩いた。


「見えた!」

 緩やかな上りの道を越えると、下り道の先に広大な砂浜と白く輝く海が見えた。

「なんか広い砂浜なのね……」

「ここら辺一帯はもともと砂丘らしいからな。ビーチも広く長いんだな」

「早く行きましょう!」

 彼女はウキウキ顔で坂を下っていった。


 三分後


「暑いよ、もうやだぁ!」

「夏で海なら暑いに決まってんだろ」

「どっかで休ませて」

「海の家あるじゃん、そこまで頑張れよ」

 ビーチには夏の風物詩、海の家が並んでいた。

 俺たちは手近な海の家に入って腰を下ろした。


「はぁー、ラムネが激うま! あとかき氷ちょうだい、シロップイチゴ味ね」

 日陰と水分補給とで彼女の機嫌は回復した。

 しかし、日陰とはいえ湿度の高い風はやっぱり暑かった。

「あんたら、海に入らんのかい」

 店の主人が俺たちに声をかけてきた。

「そうよ! 海行こう、海入ろうよ!」

 ヒジリは子供のように立ち上がって叫んだ。

「俺はもともと海でのんびり一人旅を考えていたから海パンは持ってきたが、お前水着持ってきたのかよ?」

「ったりまえでしょ。ほら」

 彼女はキャリーバッグから紺色の水着を取り出した。

「そ、それは……」

 それはもしかして、かなり一般的なスクール水着じゃないか!

「まだ新し目でしょ? 学校では体育見学ばっかだから使う時なかったのよ」

 ま、確かにこいつが体育に出たら、なんかすごい記録生まれそうだからやめた方がいいかもな。

「じゃあ、着替えるか」

 俺たちは更衣室へと移動した。


 なぜか少しウキウキした気持ちが心の奥に芽生えていることに、俺は違和感を覚えながら、着替え終わって出てくると、俺より先にヒジリがもう着替えて外に立っていた。

「遅いじゃん」

「あ、ああ……」

 

 い、いかん。ヒジリの水着姿がかわいい……。

 

 確かに彼女の裸は見ているが、水着に包まれたことでの、また違った色っぽさと言うか、未成熟感の良さと言うか……これがスク水マジックなのかぁ!

「でね」

 あ、いかん、ちょっとぼおっとしてしまった!

「なんだ、なにかあるのか?」

「泳げないのよ、わたし」

 弱点あったわ。無敵不死身少女も水には弱かったか。

「でも泳ぎを練習するには海は向かないぞ。波がないプールの方がいいと思うが」

「練習なんてしないよ。浮き輪が欲しい、浮き輪が」

「それは持ってきてないんだが」

 すると店の主人が顔を出してきた。

「浮き輪ならうちでレンタルあるよ」

 確かにたくさんの浮き輪が吊るされていた。

「これ売りもんじゃないんですか?」

「そっちは売りもんや。このタイヤチューブはレンタルや。サービスでただで使こうてええわ。それと、 タオル置いたりすんのに敷もんも必要やろ。これ持ってきや」

「ありがとうございます!」

 俺は礼をしてレンタル浮き輪を一個と敷物をお借りした。


「シャチシャチ! シャチ乗りたい! シャチの買おうよ!」

 ヒジリが店で売られているシャチの形の浮袋をねだったが、俺が却下した。

「まずは普通の浮き輪にしておけよ」

「えー!」

 文句は言わせねえ。細かい無駄遣いが後々響いてくるんだからな。

 俺はヒジリを諭しながら波打ち際まで歩いていった。


「水冷たい!」

 ヒジリは少し足に水がかかっただけで飛び出してきた。

「慣れれば大丈夫だから、ホラ!」

 俺はヒジリの手を取って、海の中へと進ませた。

「この辺でいいな。少しずつ体を沈めて行って、じっとしているんだ」

「ぎゃぁぁぁ! 冷たいじゃん!」

「だから動くなよ……な? 慣れてきたろ?」

 しばらく震えていたヒジリであったが、少しずつ表情が和らいでいった。

「ホントだ。平気かも」

 波は穏やかで、しかも遠浅だったので、ヒジリは怖がることなく浮き輪に入ってはしゃいでいた。

 俺も水を散々かけられたりしたが、そういえば海に入るのは、かなり久しぶりだということを思いだした。

 

 そうだ。海水浴なんて何年ぶりだろうか?


 そういえば小学生以来来てないような。

 ま、この歳になると母親と二人で海水浴とか、どう考えてもありえないしな……。

「ねえ! きいてるの?」

「な、なんだよ?」

「わたしも泳ぎたい」

「泳げねえだろお前」

「基本的なこと教えてくれればいいから」

 まじか? そんな簡単に泳げるもんじゃねえぞ。

「じゃあまずは、体伸ばして力抜いて」

 俺はダメもとでレクチャーしてみた。


「こんなんでいいの?」

 ほんの一時間くらいで、コイツある程度泳げるようになってしまった。


 ありえん。

 

 ホント地球外生命体なんじゃないか? もしくは海からの使者か?

 一番のポイントは全く水を怖がっていないところだ。

 絶対、『怖い』『苦しい』『しょっぱい』と文句を言って投げ出すと思っていたんだが。

 最初から躊躇なく水に顔をつけるし、水に対しての恐怖感がない。

「これで浮き輪いらないよね」

「そ、そうだな……しかし、お前すごいな。こんなに急速に泳げるようになったやつ見たことないぞ」

 俺がそう言うと、ヒジリは急に俺の背中に飛び乗ってきた。

「な、なんだよ? 疲れたからおんぶか?」

「浮き輪が邪魔だったんだよ」

「は?」

「浮き輪が邪魔で、ショウマにくっつけなかったの。でもこれでくっつけるよ、ショウマ!」

 

 本気なんだか、からかわれているのかわからんが……。


 ただ、焼けつく夏の日差しと冷たい海水、そしてヒジリのやわらかな体から伝わる体温とが混ざり合った中に自分がいることの心地よさは感じていた。

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