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金は世を廻る

 明朝、俺たちは宿の朝食を食べてから早々にチェックアウトして、温泉街の隅の空き地に隠した車に乗り込んで国道を走った。


 因みに昨夜は夕飯食ってふっくらの布団で横になった途端、ヒジリは爆睡してしまった。

 俺は少しの間、隣のヒジリの寝息を聞きながらいろいろと起こったことを整理しようかと思っている間に眠ってしまった。

 何事もなく夜は過ぎていったのだ。


「新幹線?」

 俺たちは上田という街にたどり着いていた。

 そしてこの街の駅には新幹線が通っていて、北陸までストレートに行けることが分かった。

「じゃあ、ここから駅に行って新幹線に乗るわけね?」

 俺たちは車を上田のお城の下にある広い駐車場に停めて、城址公園の中を散策してから町中の方へと歩いてきていた。

「これで一気に目的地に行けそうだな」

「でも、大きな問題があるわ」

 そう言いながらヒジリは磯部団子をぐいっと串から口で抜き取った。

 俺たちは昔の街道の風情が残る通りにあった一軒のお団子屋で団子を買って、ベンチに座って食していた。

「なんだよ?」

「ないのよ」

「なにが?」

 ヒジリはペットボトルのお茶をグイグイと飲み乾し、一息ついてから衝撃的な発言をした。

「お金、もうないの」

「え? 嘘だろう?」

「全部使っちゃってほとんどないのよ」

「お前、ほとんどないのに……さっきその先のそば屋で高級天ぷらそば食ってたろう!」

「天ぷら別盛でもってきてくれるのはいいよね。自分好みでつけて食べられるから」

「じゃあ天ざるでいいんじゃないか?」

「やだ、あったかいの食べたかったんだもん」

 そういえば夏なのになぜ、ざるでなく熱いそばを頼んだんだこいつ!


 いや、そんなことはどうでもいい!


 それよりも、

 金勘定は彼女にすべてを任せていた、というより金は最初に取られていたので信頼するしかなかったんだが、全然だめだったみたいだ。


「おまえなぁ、どうすんだよ? 金なかったらここから二進も三進もいかないじゃんかよ」

「大丈夫よ。とりあえず手っ取り早くどこからか頂いちゃおう」

 頂いちゃうって、どうやって? まさか……。

 そう言えばこいつ拳銃持ってたんだった。

「おまえ、強盗はいかんぞ!」

「違う違う。わたしが昔よくやっていた方法があるのよ」

 強盗じゃなかったらしいが、すごく嫌な予感はするぞ。


 団子を食った俺たちは駅前に続く緩やかな下り道を歩いていった。

「で、どうやってお金を稼ぐんだよ?」

 俺の問いかけにヒジリが余裕の笑みを浮かべながら説明を始めた。

「まずね、その辺にある自転車一台あればできるのよ」

 ヒジリはそう言うが早いか歩道隅にチェーン錠している自転車に近づいていき、腰を落としてチェーンをつかんだ。

「誰か来ないか見ていて」

 そう言うと彼女はチェーンを軽く二~三回引っ張っていたが、急に一気に強く引っ張った。

 ガッという音がしてチェーンが切れた。

「う、うそ」

 なんちゅう力だ……。

「そんで乗るでしょ」

「ふむ」

 いや、俺も「ふむ」とか言ってる場合じゃないぞ、これ自転車泥じゃんかよ!

「お金持ってそうな高級車が走ってくるのを待つ」

 その金持ちに自転車売りつけるのか?

「そんで?」

「物陰から飛び出す!」

「え?」

「ぶつかって、示談に持ちこむ。治療費だけじゃなく、自転車の修理費も貰えるのよ」

 

 当たり屋じゃねえか!

 確かに不死身の体だからいいかもしれんが。(いやよくないだろう!)


「じゃあ、一回やってみようか?」

「だめ、だめ! 自転車も戻しとけよ!」

「なんで? じゃあ、どうするのよ? なんかいい案でもあんの?」

「うーん」

 俺は考えた。

 確かにまっとうな方法ですぐに大金が手に入るなんてことは不可能だ。

 少しグレーゾーンでもやむをえないだろうが、強盗や当たり屋はなぁ……。

「あーん、わたしが体で稼ぐって言ってるのに~」

 ちょっと艶めかしい声でみだらなポーズをとるヒジリだが、お前の『体で稼ぐ』はエロくないからこそ問題なんだよ!

「いや、ちょっと待って、うーん、あそこにかけてみるか」

「あそこ?」

「助けた議員のとこだよ」

 

 俺は駅前で公衆電話を探した。

 携帯電話が主流の今の時代は、公衆電話を探すのも一苦労で、結局近くにいた駅の人に尋ねてしまった。

 俺は相変わらず慣れない手つきで公衆電話を使って電話をし、議員さんと交渉してみた。


「で、なんて交渉したの?」

 電話ボックスから出てきた俺に彼女が疑わしそうな眼差しで問いかけてきた。

「今回のように命がかかった情報を今後も必要であるのなら、少しだけお金を融通していただけませんか、って」

「フーン、なるほどね。で、お金はどこかに振り込まれるわけ?」

「使いの者が届けてくれるって」

「大丈夫なの?」

「信じるしかないさ」

「じゃあとりあえず受け取り場所に行こう」

「待て。俺一人で行く。万一のこと考えて」

「だったらわたし一人の方がいいわ。だって、あんたじゃ頼りないし、人質に取られちゃいそうじゃん」

 事実なだけに否定できず、彼女の申し出に従った。

 俺は受け渡し場所に関しては人通りの多い駅前、それも交番前を受け取り場所に指定していた。

 万一、相手が素直にお金を渡さず、危害を加えられる可能性もなくはないからだ。

 逆に警察に通報されていたら面倒なことになってしまうが、これは祈るしかない。

 議員側が警察に言わずにこちらの要求を飲んでくれればいいのだが……。


 俺は少し離れた歩道橋の上から見ていた。

 受け渡しの時間になってすぐに、一台の黒い車が彼女の待つ駅前の駐車場に入ってきた。

 そこから出てきたスーツを着た男が彼女の前に歩いてきて封筒を渡すと少し話をしてから去っていった。

 彼女は誰かに見張られていないか警戒しつつ、俺が待機していた歩道橋の上まで歩いてきた。

「余裕も余裕。だいぶ感謝しているらしくてたくさん持ってきてくれたわよ」

 彼女から封筒を受け取って中を確認した。

 新幹線の切符、旅館の宿泊費、帰りの運賃も含め、余裕があり余るほどの額が入っていた。

「とりあえず、この金は俺が管理するよ」

「なに言ってるのショウマ。あんたじゃすぐ泥棒に持ってかれちゃうわよ」

 いや、ヒジリに託すと泥棒にあったと同じくらいに金がなくなってしまうんだが。

「いいから、もう大丈夫だからわたしに任せなさいって。悪いようにはしないから」

 そう言って金はふんだくられた。

 いや、絶対厳重にチェックしないと帰れなくなること間違いなしだろう。

「とりあえず基本ヒジリに任せるけど、金は半々で保管しよう」

「信用してないの?」

「できるか! それにはぐれた時のことも考えろよ。金なかったら俺困るよ」

「わかったわ。ほら」

 ヒジリは封筒の中から紙幣三枚だけ抜いて渡してきた。

「全然半分じゃねえぞ!」

「細かいこと言わないでよ! わたし算数苦手なんだから」

 うそつけ! いくらなんでも半分はわかるだろう!

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