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決戦、芸術館楽屋口

「起きて! 時間ないよ」

朝は早々にヒジリに起こされた。

見た目からは「低血圧で朝は苦手」とか言いそうな感じだったんだが、きびきびと起きて身支度を進めていた。

「お前、朝強いんだな」

「え? なに言ってるのよ。出遅れたらつまんないじゃないの、こんなことめったにないんだし」


自分の興味のあることには貪欲なだけだった。


俺も大きく伸びをしてベッドから出た。

ああ、結局ゲームもAVも逃したか。それが一番の悔やまれる点だ……

「早く、早く!」

なんだこの元気さ……。


講演会場は真っ白な建物で曲線を配したデザイン性の高い建物だった。

会場に早めに来た俺たちは建物の横にある楽屋口とその前にある屋外駐車場が見渡せて、かつ少し身を隠せるところで朝食を摂っていた。

(朝食といっても近所にあった小さなベーグル屋で購入してきたベーグルとコンビニの挽きたてコーヒーだが)


「しかし、本当に来るかな」

「来るわよ。資料も渡したんだから拳銃なくたって仕事しに来るでしょ」

「ちょっと待て、だったら資料渡さなきゃよかったんじゃないか?」

 ヒジリがベーグルを食いちぎりながら俺を睨んだ。

「そしたらなにもおこらないじゃない! いい? あきらめたらそこで、試合終了ですよ!」

 そう言ってベーグルを咀嚼してコーヒーで流し込んだ。

全くなんて奴なんだこいつは。人の命がかかっているって言うのに……。

もう、怒る気もなくなった俺は、やれやれといった感じでコーヒーを飲んだ。

「大丈夫よ。ちゃんと警告もしたし、多少なりとも警備してくるでしょ?」

「電話口ではあまり深刻さを感じなかったがなぁ」

「暗殺されそうになってる側だって、身に覚えがあるものよ。そんなに吞気じゃいられないはずよ」

そういうものなのか……。

「あれ、見て!」

一台のスリードアハッチバックの車が駐車場に入ってきて、隅の方に停まった。

そして、そこから例のチンピラ二人が降りてきて、続いて後部座席から白髪の紳士、殺し屋も降りてきた。

「マジで来たか」

白髪の男は一人で会場の方へと歩いていき、チンピラ二人は車で待機するようだった。

「仕事はあの殺し屋一人でやるみたいね。あの二人は逃走する時のために車で待機ね」

「俺たちはどうするんだよ?」

「そうね、まずはあの車を頂いちゃおうか」

なに?

「逃げられないようにしておかないと、ね?」

再び駐車場の隅に目を向けるとチンピラ二人は車の外でタバコを吸い始めた。

「行ってくる」

そう言うが早いか彼女は反対側の道を走っていった。

しばらくして駐車場のチンピラたちの後方に回り込んだヒジリは、そっと背後から一人のチンピラの首に腕を回した。

「ぐっ!」

一瞬のことだった。素早く一人を絞め落としていた。

「お、お前は電車にいた……」

もう一人がヒジリの存在に驚いて声を上げたが、そんなことはお構いなく、素早くボディにパンチを打ち込んだ。

「ぐふっ!」

思わず男は腹を抱えて体を曲げた。

するとヒジリは正面から男の首に組み付いて、フロントチョークをかけて一気に落としてしまった。

相手がタップする間もなく一瞬で絞め落とすなぞ、相当やり慣れているというか、コツをつかんでいる感じだった。

改めてヒジリの恐ろしさを目の当たりにしていた俺の方を見て、ヒジリは大きく手招きをした。

「なんかお前、手慣れてるなぁ」

感心しながら俺は駐車場を横切ってヒジリのところまで走った。

「言ったでしょ? 夜の街でストレス発散してたって。こいつら、運ぶから手伝って」

俺と彼女は二人を車の荷室に乗せた。

「あった」

男のポケットから車の鍵を取り出すとヒジリは運転席に乗り込んだ。

「おまえ、運転できんのかよ?」

「わたしがいた国では十五歳から免許取れるのよ」

「いや、この国の免許取れてねえだろう?」

「細かいことうるさいわね。ほら」

そう言って彼女が財布から運転免許証を出して見せた。

「え?」

一瞬、ほんの一瞬だけ見せて素早くしまった。

確かに免許証だった。

いや、免許を持っているのも驚いたが、生年月日が俺よりも二~三歳年上のような数字に見えたんだが……。

「GTIRかぁ」

ヒジリはエンジンをかけて少しアクセルをふかした。

「古い車だけどパワーありそうね」

手慣れた感じで車を操作し、少し大きな道に出るとアクセルを強く踏み込んだ。

「少しこの車の特性に慣れとかないとね」

そう言って広い道で大きく加速したり、タイヤを鳴らしながらカーブを曲がったりしていたのだが、そのたびに俺は座席に押し付けられたり横Gがかかって振り回されたりしていた。

「お、お前の技術はわかった。それで、積み込んでるこいつらどうすんだよ?」

荷室に積み込んだチンピラたちもカーブのたびに何やらうめき声をあげていたのだ。

「目を覚ます前にどこかに置いてこよう」

 そう言うと大きな杉の木が見える公園の駐車場に車を入れた。

「その辺に寝かせとこう」

 俺と彼女で男たちを運び、手近にあったベンチに座らせた。

「これなら昼寝してるみたいだし、いいじゃない?」

 確かに寝ているが、なんかうなされているようで、呻いていた。

「目が覚めそうだぞ。早く行こう」

 そう言ってヒジリを促して車に戻った。

「殺し屋が仕事始める前にさっきの場所に戻るよ」

 ヒジリはエンジンをかけると、荒っぽい運転で駐車場を飛び出した。

「あのチンピラたちが目を覚まして、殺し屋に連絡されちゃわないか?」

「携帯は奪っておいたから大丈夫よ」

 彼女が後部座席を指さした。座席に電源の切れた携帯が転がっていた。


 俺たちは再び会場の楽屋入り口付近に来て、陰になるところに路駐した。

 間もなく会場に例の議員が乗った車がやってきた。

 我々の警告に反応したのかどうか知らないが、一応警備らしい人が二~三人ついていた。

 その光景を見ていたヒジリがあきれたような表情で首を振った。

「あれくらいなら、わたしでも狙撃できそう」

「そうか?」

「だって日本だったら警察じゃない限り、撃っても撃ち返されないでしょ? あの程度の警備なら近距離でやるなんて簡単よ。逃げるための足だけ用意しておけば」

「それがこの車ってわけか。現時点では逃走用の足は俺たちが抑えちまったな」

「あとは襲われないようにするってだけ」

 俺たちは注意深く見ていたが、白髪の殺し屋の姿はなく、議員たちも問題なく楽屋口から中へと入ってしまった。

「議員、会場入っちゃったな。中でやるのか?」

「多分帰りじゃない?」

「根拠でもあるのか?」

「カンよカン」

「嘘つけよ。何か理由ありそうな口ぶりだったぞ」

 ヒジリは車内から出て大きく伸びをした。

「んー、あたしなら帰りにやるかなって思ったの」

「だからなんでだよ?」

「だって、講演前ってみんなちょっと緊張してるから、警戒心も強くなってそうでしょ? 逆に講演終了後ならみんなの気が緩んでそうだし、それに講演前はバラバラに人が集まるけど、講演後ってみんな一斉に帰るからごちゃごちゃしていて、何かやっても混乱に乗じて逃げやすそうじゃん」

 なるほど、なにも考えてなさそうで意外に考えているんだな、コイツ。


 彼女の予想通り、講演中は中から騒ぎが聞こえてくることはなかった。


 そして講演が終了したと思われる頃に、白髪の殺し屋が楽屋出入り口の横にある喫煙スペースに現れ、さりげなく目立たないようにでタバコを吸い始めた。

「来たわね。予想通りだわ」

「あ、議員さん出てくるみたいだぞ!」

 まずは関係者が先に出てきた。

 そして警備の男たちとともに議員らしい人が出てきた。

 車はもう横付けされていたが、議員は関係者と挨拶をしたり握手をしている。

 白髪の男がゆっくりと煙草を消して、議員の方に近づこうとしていた。

「まずいわね。警備の人たちは全く気づいてないみたい」

 あの白髪の男が徐々に近づいていく。

「どうするんだよ?」

「こうする!」

 ヒジリは車から飛び出すとバッグから銃をとりだした。

 あの白髪の男をここから狙撃するのか? 

 と、思ったら、

 銃を宙に向けて乱射し始めた。

 銃声を聞いた人たちから悲鳴が上がり、議員は警備の男たちに囲まれて、建物の中に避難してしまった。

「ヒジリ! 議員は避難した、もういいぞ。見られる前に逃げよう」

「や、やばいかも」

「なに?」

 ヒジリが見つめる先、誰も居なくなったと思った楽屋玄関口に、一人だけ立っている男がいた。

 そう。仕事を邪魔された白髪の男が一人立ったまま、こっちを睨んでいた。

 そして怒り狂ったように何か叫びながらこっちに向かって走ってきた。

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