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究極の選択は夜つくられる

「部屋空いてるって」

 ヒジリがスマホを駆使して部屋が空いているホテルを探してくれた。

「マジか? こっちは周辺のホテル探ったけどどこもいっぱいだったんだが」

 

俺たちは目的地のホテルまでタクシーで移動していた。

「ちょっと街から外れるけど、明日の講演会場までは歩いていけそうな距離だしちょうどよさそうよ」

「ちゃんといろいろ考えて場所探してたんだな」

「夏休みだし、ここ観光地なんでしょ? 街中はなかなか当日なんて空いてないよ」

 ヒジリは意外なところで細やかな気遣いが感じられる時がある。

 やっぱ根は普通に女の子なんだと思った。

「着いた」

 俺は車から降りて本日の宿となる建物を見上げた。


 そして驚愕した。


「ヒジリ、ここは、その、いわゆるラブホ、じゃないのか?」

 派手な看板と少し宇宙チックなネーミングの建物の前で俺はヒジリに尋ねた。

「ラブホってダサいこと言わないでよ。……ファッションホテルって言うのよ」


 いや呼び方変えても……中身と用途は変わってないだろう!


「普通のとこ泊まるより安いのよ。外出できないけど、今夜は外出ることもないしね」

 そう言いながらエントランスのパネルを見ながら部屋を選択していた。

「なんか、お前手慣れてるな」

「家帰るの嫌な時は結構利用していたから」

「そ、そうなのか? それはその、他にもう一名いてってこと……か?」

 ヒジリが振り返って俺を睨んだ。

「なによ、一人で利用して悪い?」

「い、いや」

 なんかホッとしている俺がいるんだが……大丈夫か?

「確かに一人で利用すると嫌がるとこもあんのよね。いいじゃないのよ、一人客だってさ」

 わからん。俺にはこういったとこの事情は全く分からんのだ。

 少し複雑な気分であったが、ヒジリに連れられて扉の上のランプが点滅する部屋に入った時、俺の考えは一変した。

「す、すごい、なんか豪華じゃないか!」

 大きなベッドと小さなソファーしかない部屋。

 しかし天井も高く、大きなテレビとカラオケにゲームまでついている! 

 これに広めのバスまであって、薄暗いながら結構きれいじゃないか!

「いやー、これは確かに一人でも泊りに来たいかもしれんなぁ」

「もっといい部屋もあるんだよ。ま、男一人は泊めてくれないと思うけどね」

「そうなのか? いや、このゲーム、ただでやっていいのか?」

「もちろん。それよりさ」

「なんだよ」

「お風呂入ろうよ……一緒に」


 な、なにを言っているんだこいつは?


「お前バカかよ? ありえんだろう!」

「わたし、一人で入るの嫌なんだよ……一緒に入ってよ、お願い!」

「ねーよ、ぜってーねえから」

「なんで? 恥ずかしいの?」

「恥ずかしいよ! って言うかお前恥ずかしくねーの?」

「ショウマになら、見られてもいいよ!」

 普通に言うな、普通に!

 いや、恥じらいながら言われたらそれはそれでどういう対処をしていいかわからんが……。

「入ってきてくれ。俺ゲームするわ」

「なによもう! 意気地なし!」

 プリプリしながらヒジリはあきらめてバスの方に行ってくれた。

 ほどなくして湯を貯める音がして、シャワーの音がし始めた。

 俺は一息ついて、ベッドに座るとテレビのリモコンを手に取った。

「しかし、泊まってゲームし放題って、お、なんかビデオも見れんのかよ……」

 

 こ、これはっ! 


 ア、アダルトじゃあないか! しかも無料なのか?


 こういったものを鑑賞しながら気分を高めていくってことか?

 いや待て、普段、家にゲーム機が一世代前のものしかない俺にとって、

 この機会を逃したら最新のゲームが堪能できないじゃないか!


 しかし、


 それ以上に母子家庭では見ることが難しいAVがこんな大画面で……どっちだ?

 どっちを優先すべきなんだ? 

 しかもヒジリが風呂に入っている時間だけしか猶予がないんだぞ?


 まて、落ち着くんだ。


 ヒジリがいるとこでゲームはできるかもしれんがAVは見れんだろう?

 となると今はAVか?


 いや待て、これはヒジリの罠だ!


 あいつはこういった場所は熟知している。

 自分が風呂に入っている間に相手が何をするかなんてことは予想済みなんじゃないか? 

 ということは、俺がすっかり気分が盛り上がったところで、あいつが風呂から出てくる。

 ……そこで迫られたら、俺は拒むことができんじゃないかぁ!


 クッ、さすが名軍師と言いたいところだが……

 あえてその罠に嵌ってみるのも悪くないんじゃないか?


 いや、むしろ俺を誘いこむために健気にここまで段取ったとしたら、

 それを無下にすることは、野暮ってもんじゃないのか?


 そう、これは言い訳じゃないからな、これは!


 などと思っていたら、急にヒジリのスマホがブーブーと鳴り出したので俺は我に返った。

 気がついたら三十分くらい何もしないで葛藤していたようだ。

 なんという貴重な時間の無駄遣い……。


 ブーブーうるさいヒジリのスマホの画面を覗き込むと着信表示に俺の名前が出ていた。

「俺の番号、電話帳に登録しておいてくれたのか……というか」


 なんで俺のスマホからこいつに着信が?

 って言うか俺のスマホどこ?


 俺はいつも入れている上着を探ったが、ポケットの中に俺のスマホが見当たらなかった。

 俺は恐る恐るヒジリのスマホに出てみた……。

「もしもし?」

「あ、出た出た。こちらお風呂のヒジリでーす。早く来ないとこのスマホ湯船に落としちゃうかも?」

「はぁ? なに考えてんだおまえ!」

「さっさと一緒に入って。あと二十数える間にね。知ってると思うけど……」

「なんだ?」

「わたし、やるって言ったら、やるから」

 電話は切れた。

 ってマジかよ! なんなんだあの女は? 逆セクハラだろう、これ!


「お、おい、入るぞ?」

 俺は服を脱いで風呂場の扉を少し開けて声をかけた。

「あ、今頭洗ってるから湯船に入って温まってて」

 俺は背中を向けて髪を洗っているヒジリの後ろを通って、バスタブから湯を汲んで体にかけてから素早く湯の中に身を沈めた。


 そっと横目でヒジリを見ると洗い終わった髪をゴムで縛って立ち上がった。

 あらためて言うのもなんだが、素っ裸であり、濡れた白い肌はいつもより少し赤味がかっていた。

 そして何の躊躇もなく俺の入っているバスタブに足から入ってきて、俺と差し向かいで湯に身を沈めてきた。

「ふぅー」

 白い肌、ぷっくりとして柔らかそうな頬、程よい大きさ(俺基準)の胸のふくらみ。

 すべてが俺の視界に入ってしまっているんだが……。

「お、おまえ、その」

「なに?」

「平気なのかよ、俺と裸で、その湯に入って」

「ショウマだから平気だよ」

 笑顔で平然と答えるお前の思考が理解できん! 

 というか、その濡れた笑顔が可愛すぎてやばいんだが……。

「恥ずかしくないのか?」

「あのね」

「なんだ?」

「ここでわたしが、本当は恥ずかしいって言ったら……どうする?」

 上目使いでそんなことを言われて、俺はどうしていいかわからなくなっていた。

「あ、いや、その」

「本当の気持ちなんて、今はいいでしょ? ゆったりしようよ、ショウマ」

 

 いや、全然ゆったりできないんだが! 


 もちろん俺はゆったりというか平静を装っているが、その、体の一部が融通きかなくなりそうなんだが!

「わたしね、こうやって人とお風呂に入るの、好きなの」

「なら、銭湯いけばいいんじゃないのか?」

「他人と入ってもしょうがないじゃない」

「俺、他人じゃないのかよ?」

「ショウマはわたしが選んだ人。特別だよ」

 なんだそれ?

 いつ選ばれたんだ?

 コンビニで会ったのも偶然じゃないか……。


「ショウマ」

 ヒジリが少し体を寄せてきて、脚と脚が触れ合った。

「な、なんだよ?」

「わたしのこと見て、我慢できなくなってきた?」

「は、はぁ?」

 んなわけねーだろう! 

 って言いたいが本当に我慢できなくなってきているような!

 もしそうなった時、ヒジリは俺のことを受け入れてくれるってことか?

 これはもう反則だろう? 

 しかし、こういったところで男の俺が躊躇しすぎるって言うのも相手に恥をかかせることになりはしないか?

 いや、それより俺はヒジリとそう言った関係になっちゃっていいのか?


「じゃあ、お先、ゆっくりね」

 風呂場の扉がパタンと閉まった。

「えっ?」


 おーい! 

 いつの間にか風呂から出てんじゃねえよ!


 どうしてくれるんだ、この気持ち!

 って言うか、なんか一気に疲れた気がした……。

 

 俺はゆっくりと湯の中に身を沈めて、平静を取り戻すことに努めた。


 風呂から出てくると、ヒジリは広いベッドのど真ん中で寝ていやがった。

「まったく、なに考えてんだよ」

 俺はそっとベッドの上に腰かけてヒジリの寝顔を見つめた。

 こうやっていればただの幼い少女にしか見えない。昼間の過激な小悪魔チックなヒジリとは印象が違った。

 俺はベッドの隅で横になった。

 今日はとりあえず疲れた、いろいろあった。そして明日も大変な一日の気がする。

 ここはゆっくり休もう。

 

 いつしか俺は深い睡魔に包まれ眠りに入っていた。

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