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ペンション

 駅の構内で発砲されたのでやむなく飛び出してきたはいいが、ここからどうしたらいいのか?


 小さな駅舎でバス停らしきものはあったがバスはいず、タクシーも見えなかった。

 ついでに駅の出口にちょっと意気がった田舎の男子高校生三人がたむろっており、こちらを睨むように見ていた。

 俺たちの明らかな余所者感が気に入らないのだろうか?

 とりあえず目を合わさないようにして背を向けた。


「ここどこなの?」

「さあ……?」

「さあじゃないでしょ。調べる、早く!」

 俺はスマホのマップを開いてヒジリに見せた。

「なんにもないド田舎じゃない!」

 声がでけえよ! 

 ますます俺の後ろで睨んでいる地元学生からの視線が痛い。

 しかも小さく「田舎で悪かったな」って声も聞こえてきたんだが……。


「マップだと線路とほぼ並行して道が走っているみたいだし、とりあえず歩いて次の駅まで行こうよ」

 ヒジリが安易な提案をしてきた。

 田舎の駅と駅の間は結構距離があるものだと思うんだが。

「いや、地図では近そうにみえるが……」

「歩こうよ。こう見えてもわたし足腰強いんだよ。あ、その前に」

 そう言って俺の意見は一切挟ませなかったヒジリは、俺の背中越しにこちらを睨んでいる学生たちの方を見た。


 五分後……。


 彼女はスニーカーに履き替えていた。

「予想通り、足のサイズはわたしと一緒だ」

 先ほどたむろしていた三人組みの高校生がこちらを見ていた。

 三人とも泣きそうな表情で鼻から血を流しており、そのうち一人は裸足で立っていた。

「最初に見た時からあの真ん中の子、わたしと足のサイズ近いなって思ってたの」

 

 お前は狩猟民族か! 

 

 最初から獲物をロックオンしていたとは……。

 彼らもこんなところで靴をカツアゲされるとは思ってみなかっただろう。

「ちょっとかわいそうじゃないか?」

「なんで? 譲ってくれないかって交渉してもらったんだよ? なにがいけないの?」


 いや、その交渉に入る前に一発ずつ殴っていたような気がするんだが。


「このサンダル、ショウマのバックに入れておいて。お気に入りだからなくさないでよ」

「せめて土払ってくれよ」

「いいじゃないの男が細かいこと」

 おまえ大雑把すぎだろ!


 さらに五分後。


「もうやだ! 足が疲れちゃった! もう歩けない」

「そんなこと言われても」

 お前が歩くって言ったんじゃねえのかよ?

「坂道ばっかじゃない! しかも全然つかないじゃん!」

「だから、地図では近そうでも田舎道なんだから、結構遠いんだって」

 彼女は不機嫌そうな顔をしてその場にしゃがみこんだ。

「おんぶして」

「は?」

「は? じゃないわよ。わたしに同じこと二度言わせないでよ」

 

 なんでこうなる……。


 大体お前が発砲さえしなければさっきの駅で列車に乗り換えて、今頃もっと先に進んでいたんだぞ!

「なにブツブツ心の声を呟いているの?」

 ヒジリが俺の背中におぶわれながら話しかけてきた。


 俺は緩い上りになっている田舎道を歩いていた。

 日差しは熱く、アスファルトからの照り返す熱気に加え、俺のリュックを背負ったヒジリが背中にいて、右手にヒジリのキャリングバックを引き、左手にチンピラから盗んでしまったバッグを持っていた。


「お、おい! さすがに限界だろう!」

「しょうがないな。あそこにバス停あるから休もうよ」

 道の左側に木とトタンでできた古ぼけたバス停があった。

 日陰に入れるだけで御の字だった。

 俺はヒジリを下ろして椅子に座ると大きく息を吐いた。

「フゥー、ヤバい、喉渇きまくりだ」

 俺は自分のリュックから持参してきたミネラルウオーターを取り出した。

 その瞬間横からヒジリが奪い取り、ゴクゴクと飲み始めた。

「フゥー、半分どうぞ」

 いや、なに自分のものみたいに勧めてんだよ! 

 大体半分以上飲んじまってるじゃねえか!

「心の声呟かなくていいから飲みなよ」

 俺は残った水を飲み乾し、額の汗を拭いた。


「どうすんだよ、こんなところで」

 ヒジリは澄ました表情で道の向こう、日差しが照りつける緑の葉が風に揺れるさまを見つめていた。

 周囲には田んぼが広がり、その先は深い緑に包まれた山が見えるだけの光景だった。

「こんな場所じゃもはやあれしかないわ」

 そう言って彼女は親指を立てた。

「もしかして、ヒッチ……」

「そう、カージャック!」

「ヒッチハイクはカージャックじゃねえ!」

「そうだっけ? とりあえずショウマ車来ないか見ててよ」

「おまえは?」

「あんたが手を上げたって止まんないでしょ? 車来たら可憐な少女であるわたしが止めるから」

 ま、中身がわからなきゃ可憐な少女で通るかもな……。

「可憐な少女であるお前が手を上げても止まらなかったら?」

「飛びついてでも止める」

 

 やるな、絶対やるわ。


 走行中の車に飛びつくとかコイツならやる。

 なんか助かりたい反面、車が来たらヒジリによる被害者がまた増えそうで怖いんだが。


 そして、


 俺の予想はその後的中してしまい、

 二名の被害者を出しながら俺たちは車に乗せてもらい、

 次の駅まで進むことができたのだ。(始まりは夏の日、はじまりは夏の日その2参照)


 電車に揺られながら俺はこの先の駅で降りた後のことを考えていた。

「どうするよ、ヒジリ」

「どうって?」

「次の駅で降りて、この資料の人に暗殺の危険があることを教えるんだろう?」

「そうね、順当にいけばそんなとこね」

「でもあのチンピラ、もしかして殺し屋も待ち構えているかもしれないぞ? 俺たちが乗っていた特急は松本が終点だ。それにもしかして俺たちが松本まできっぷ買っていたことを知っているかもしれない」

「なんで?」

「指定取ってたろう? 車掌さん締めあげれば俺たちがどこまで乗る予定だったかわかっちゃうだろ」

「そっか。そうなれば出口で待ち構えているわね。どうする?」

「顔なんてそんなによく覚えていないかもしれない……バラバラに出たらわからないだろ」

「じゃあ、そうする?」

「もう一つ、大きな目印としてこのバッグが決め手になっちまう。こんなバック持ってる奴いないと思うし……隠すか、捨てるかした方がいいんじゃないか?」

「だったら、こうしよう!」

 彼女はバッグを持って立ち上がると前の席に座っている青年に話しかけた。

「すみません、松本で降りますか?」

 青年に話しかけているヒジリのトーンは、

 普段俺には見せない『かわいさ』と『困ってるんですぅ』といったオーラをあやしいくらいに醸し出していた……。

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