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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
六章 死人に口なし
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裏切りの連鎖

―庭 夜―

 静かな夜だった。中はあんなに賑やかだったのに。空を見上げると、沢山の星々と満月が輝いていて綺麗だった。


(そういえば、ゴンザレスが来た日もこんな感じだったな)


 夜の小さな電気の常識が壊れた日。開かずの扉の伝説が本当であった日。その日もまた、こんなに星達が輝いていた。

 まだ、向こうの常識をゴンザレスに聞きたいことが沢山あったのだが、結局あまり聞けなかった。


「静かな夜だね、巽」


 背後から、忌まわしい声がした。僕は見上げるのをやめて、恐る恐る振り返る。


「どうして……そう何度も何度も僕の前に現れるんですか、僕に対しての蔑みですか」

「酷いな。私はただ可愛い君の妹の誕生日を祝いに来ただけだよ。私にだって、祝う権利はある筈だよ。姪なんだから」


 そう言いながらおじさんは、ゆっくりと僕の所へ歩み寄って来た。


「お前に祝う権利などない!」

「ハハハ……その言い方、本当私の兄そっくりだよ。流石、息子って言った所かな」


 僕の頬に、おじさんは手を置く。


「本当に一番巽がそっくりなんだよ。睦月や美月もどちらかと言えば母似だろう? あぁ、そう言う関連でちょっと聞いた話なんだけど、最近また話題になってるよ。皐月と閏……特に、皐月と君達は似ても似つかないってさ。君がしっかりとしていないと、彼女が変に傷付く――」


 おじさんの言葉を遮るように、僕の首ギリギリを小刀が通った。しかし、その小刀におじさんは捕まらなかった。地面を蹴って、少し距離のある城壁の上へと降り立つ。

 もし、少しでも反応が遅ければ小刀は彼の首へと突き刺さっていたのに。


「綴! よくおめおめとこの場に帰って来れたものだな! 巽様に何をしていた!」


 すぐに僕の横に、陸奥大臣が飛んで来た。陸奥大臣が、城壁に向かおうとしたのだが、それをおじさんは手を出して静止した。


「これ以上近付いたら、巽がどうなっても知らないよ。それに、私は何もしてない。ただ他愛のない話をしていただけのことさ」


 城壁の上で、月明かりに照らされた顔が怪しく笑う。


「綴……私は、お前の言葉を信じられない。お前は嘘ばかりだ。一体どこまで嘘をつき続ければ満足する? 一体何を望んでいる? 私欲のためにお前を鍛えた覚えはない。どれだけ失望させるつもりなんだ!」


 嘘、失望。その単語が僕の頭の中で何度も繰り返される。いつこの言葉を、僕に向けられる日が来るのか考えたくもない。


「栄五郎には感謝している。栄五郎のくれたこの技術と、海外や外国に渡り得た技術……これこそ私の望む未来に必要となるもの。失望なんて、勝手に期待した愚かな者達が勝手にする行為だ。いい迷惑だよ」

「やはりお前が……! 一体どれだけのことをしているのか分かっているのか!?」

「何もかも理解している。愉快で愉快で笑いがとまらないよ。滑稽で愚かで、惨めで痛々しくて……最高だ」


 おじさんの目線は、僕に向いていた。滑稽で愚かで惨め、それがおじさんから見た僕の評価ということだろう。


(ふざけるな……おじさんさえいなければ、こんなことには……)


 握った拳に力が入る。


「まぁ、ここで栄五郎と戦うつもりなんてない。あ、そうだ。もう一つ言っておかないといけないことがあったね。ほら、例のあの大臣さんのことだけど」

「彼女の行方……やはり知ってるんだな。あの愚かな裏切り者は! どこで何をしている!?」


 溜まりに溜まった怒りが、そこで思わず噴き出した。隣の陸奥大臣が、少し驚いたような表情でこちらを見ていることに気付いたが、今はどうでも良かった。


「私の隠れ家で、ずっと寝ているよ。嗚呼……彼女のお陰でどれだけ助かったことか。彼女に命じていたんだ、真っ直ぐな人間を演じれば、すぐに人はお前を信じるとね。私の思った通りだったよ。これで彩佳の仕事は終わったんだ。自由になれる」

「協力関係であった事を認めるんだな」


(彼女は、やはり絶対に処分しないといけない)


「嗚呼、そうだよ。私と彩佳は協力関係にあった。ほんの一瞬だったけど。おやおや、そろそろ帰らないと。掃除をしないといけないしね。あ、そうそう巽」


 おじさんは満面の笑みを浮かべ、口を開く。


「綺麗な星だね」


 そう言って、おじさんの姿は消えた。瞬間移動の魔法でも使ったのだろう。

 でも、今の僕には、最後のおじさんの言葉だけが衝撃を与えていた。今までのやり取りも、今何をしているのか、分からなくなってしまうほど。


「悠っ! くそっ……! 巽様、お怪我は!?」

「何で――」

「大丈夫ですか、巽様!」

「何で、星を知って……」

「星? 先ほど、ゆ……綴が言っていた謎の言葉のことですか? 巽様も知っていらっしゃるのですか?」

「まさか、あいつまで……僕を……」


 力が抜けて、地面に引っ張られるように座り込んだ。


「巽様!? お気を確かに! でなければ私も理解出来ません!」


(滑稽で愚かで惨め……)


「あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!」


 地面に思いっきり、拳を殴りつけた。今湧き上がっている全ての感情をぶつけた。それは純粋に怒りという感情だけでは、ないような気がした。すると、陸奥大臣が僕の手を掴んだ。


「何を――」

「ゴンザレスを捕えろ、命令だ。地下の牢屋に連行し、拘束しろ。あいつは、十六夜綴と……関係があるようだ」

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