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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
六章 死人に口なし
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誕生日会の終わりに

―シャーロット 大広間 夜―

「えーこれは、リー先生からの絵の贈り物になります」


 司会を務めている女性が、笑顔で私を見る。私もそれに応える為に笑顔を返す。そして、私の絵を見て周囲も湧き上がる。

 そろそろパーティーもお開きの時間。最初はプレゼントを貰う度に、皐月ちゃんはとても嬉しそうに笑っていたが、この機械的なプレゼントの受け取りに少し疲れてきたのか少し眠たそうである。


(分かる分かる。辛いよね、もう十一時じゃない。一々読み上げとかいいから、さっさとあげればいいのに)


 と思っていても、私の思いは基本的にこの国の人達には伝わらない。なんか白髪の小さな女が騒いでうるさい、となってしまう。今の所、この国に来て話が通じたのが、一応弟子の智と女王だけだ。

 伝わらないことには慣れているが、ここまで伝わらないのには驚いた。まだ海外との交流経験が浅いのだろう。とりあえず文化だけ取り入れてる感はある。


「先生、あの絵、めっちゃ綺麗じゃないですか」


 智は、本当に流暢に英語を話す。私と出会うまで英語を聞いたことがなかったと言うのだから、衝撃に衝撃だ。物真似が得意とか、もうそんなレベルじゃないような気がしないでもない。


「結構自信作よ」


 舞台上に高らかに掲げられた私の絵には、一人の少女が描かれている。勿論、その少女は皐月ちゃんである。

 私の絵を見た皐月ちゃんは、目を輝かせている。


(嬉しいなぁ~……私が絵を描き始めた理由を忘れないようにさせてくれているのは、間違いなくあの表情だわ)


 そして、長々とした私の絵の紹介が終わった。


「えー皆様、沢山の贈り物感謝致します。後ほど、皆様にも我が国からの記念品を贈呈致しますので、お帰りの際、忘れずお持ち帰り下さい。本日お忙しい中、皐月様のご生誕記念式典にご参加頂き誠にありがとうございました。また――」


(長い長い長い長いって……終わるんだったらさっさと終わってよ~。私は、巽君の色んな姿を見て、何枚か絵を描いてみたいのに~)


 もどかしい気持ちを抱えながら、天井を見る。


「先生先生」

「何よ」


 電気の数を数えながら、智に返事をする。


「先生が言ってた、王様の秘密って……結局何なんですか? 直接見てみたけど、分かりませんでした」

「物真似して、私の言葉あの先生に言ってたじゃない」

「物真似してた時のことは、記憶がないんですって。そう何度も言ってるじゃないですか」

「ヤバいわよね」

「そんなこと言われても……で、秘密って何ですか?」

「長々と言っても、智の脳みそじゃ分からないでしょ」

「じゃあ、簡単に言って下さい」

「は~、めんど、仕方ないわね。簡単に言ってあげるから、その滅茶苦茶な脳みそに刻みつけなさい」

「分かりました。先生」

「宜しい。簡単に言うと、私と同じ目をしてる。それだけよ」


 私は電気を数えるのをやめて、目だけ動かし智を見た。智は、首を傾げたまま動かない。


(うん、やっぱり分からないよね。分からなくてもいいことだけどさ)

 

 再び、電気の数を私は数える。しかし、どこまで数えたか忘れてしまったので、また一から数え直しだ。数えてる途中には、この長ったらしい言葉が終わればいいが。


(それにしても、どうして今更こんな遠くの国に、あんな忌まわしき技術が? 誰が何のために? どうして、巽君達に? このまま行ったら、きっとこの国は……いえ、あれだけの力を溜め込んでいるのなら、全てを飲み込んで世界が滅んでしまうかもしれないわね。別に滅んでもいいけど、滅ぶ前には絵を描きたいなぁ)


 私は、この世界が嫌いだ。人間も、何もかも。当たり前のように悲劇を繰り返す。全て滅んでなくなれば、忌まわしき技術と共に、私も――。

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