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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
六章 死人に口なし
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誕生日会・捌

―大広間 夜―

 舞台袖に来ると、使用人達が慌てていた。あの美月が暴れているのだ。どうすれば、舞台から降ろすことが出来るのか、勇気のない者達は陰で騒いでいるだけだ。そんな所に僕が現れると、彼らは待っていたと言わんばかりに僕を見た。


「巽様! お願いします! 早く美月様をとめないと、またお城が壊れてしまいます!」

「分かってる。だから来た。それに、あの抑えている使用人達もそろそろ限界が来るだろうしね」

「あのままじゃ、皆病院送りになります!」

「それはまずいね、じゃあ行くよ」

「ご武運を!」


 僕は、ゆっくりと美月がなんとか抑えられている舞台へと向かう。すると、すぐに美月は僕に気付いた。


「もぉぉぉ! どこにいたのぉ!?」


 ついに、それと同時に力尽きた使用人達が、美月から振り払われる。


「普通にずっとここにいたよ」

「巽ぃ……」


 千鳥足で美月は近付いて来る。何をされるのか分からないと、僕は一応身構えた。

 殴られるか、蹴とばされるか、はたまた理不尽な魔法攻撃か、隙を突いた攻撃をしてくる美月に対して、僕が一番気を付けないといけないのは、美月の行動。


「え?」


 しかし、今この状況は予想外だった。美月は、僕に対して特に何も攻撃をすることなく、ただ抱き着いて顔を僕の胸に埋めている。

 周囲のどよめきが大きくなる。今気付いたのだが、ちょうど電気に照らされ、劇の一幕みたいなっている。


「み、美月? どうしたの?」


 僕がそう問うと、美月はすっと顔を上げた。


(酒臭い……何でこんなに飲んだんだ?)


 美月は、過去に一度酒を飲んだことがある。それは確か美月が成人を迎えた日。沢山のお酒を飲んだ美月は、今回みたいに暴れ回った。そして、制御する力を失った美月は城の一部を半壊してしまった。それをきっかけに、新しい城が作られることになったのだが。

 それ以降、美月がお酒を飲むことはなかった。反省したのか、自制するように言われたのか、どっちにしても美月は飲んでいなかった。それなのに――。


(何で急に飲んだんだ? しかも、皐月の誕生日を祝うこの会で、多くの要人達が集まる日に……)


 もう大丈夫だと思っていたのだろうか。でも、今結果として暴れ回っている。またこれ以上進めば、あの時のようになってしまうかもしれない。


(一体何を考えて……)


 美月の顔を見ながら考えていると、表情の異変に気付いた。


「な……!? え!?」


 美月の瞳には、キラキラと輝くものがあった。やがてそれは、美月の頬を滴り落ちていった。一度だけでなく、何度も何度も。

 そして、美月は言った。


「お願い……いなくならないで、巽までいなくなったら私……嫌だよぉ」


 その声は先ほどまでとは違い、震えていた。起伏を感じて、思いを汲み取れた。

 

「泣いてるの……? 美月」


 絶え間なく美月の瞳から零れ落ちるそれは、間違いなく涙だ。僕は美月の涙を生まれて初めて見た。美月の感情を初めて感じた。掴めそうで掴めなかったその感情を、はっきりと自信を持って理解出来た。

 

「寂しいのは嫌……」


 美月はそう言うと、突然気を失った。僕は美月が倒れないように、慌てて力強く抱き締める。

 周囲は、静まり返っている。まるで、一つの演目を見ているかのように集中して、こちらを見ている。


「早く! 美月を!」


 僕がそう叫ぶと、ようやく使用人達が現れて美月を担架に乗せた。周囲も騒がしさを取り戻す。


「兄様」


 その声に振り返るとそこには皐月がいた。心配そうな顔で美月を見ている。


「美月姉様は大丈夫なの?」

「大丈夫、ちょっと疲れただけさ。だから、皐月は安心してここを楽しんでいて欲しい。頼むよ」


 僕は皐月の頭を優しく撫でて、運ばれていく美月へと付き添った。

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