誕生日会・質
―大広間 夜―
「恥ずかしい……」
『何を恥ずかしがる必要があるの? もうめっちゃ楽しみだわ! 描く日いつぐらいだったらいいのかな?』
「それは色々と相談してみないと分からないです……はい」
何かと理由をつけて断れるのであれば、今からでも断りたい。口約束なんて見えないもの、破ってもいいんじゃないかと思ってしまう。
でも、この人の場合は母上と仲がいいみたいだし、そんなことは絶対に許されないだろう。
『あー楽しみ! 圧力沢山かけて待ってるわねぇ! 以上!』
パン、とシャーロットさんが手を叩く。
「はい。えっと……よし、私ですよね。私」
先ほど自分が何者であるか分からなくなる、そう言っていた。その言葉通り、自信なさそうに首を傾げ僕に問いかけてきている。これが演技でないのなら、控えめに言って異常事態なのではないだろうか。
「智さんですよ。えっと、シャーロットさんからのお話は以上ですよね?」
「じゃあ、私? いや、僕? ん? あぁ? えっと、ん? あれ?」
「★◎♡▲◇×!」
シャーロットさんは、何を言ったのか僕には当然理解出来なかったが、その言葉は智さんを落ち着かせる言葉だったようだ。
「あ! そうでした、私は先生の弟子です!」
彼は、万歳と高らかに両手を上げた。
「◇▲◎……」
シャーロットさんは、小さくため息を着くと近くにあった席へと座り、お酒を飲み始めた。この光景を見ると、未成年がお酒を飲んでいるようにしか見えないが、彼女は中年の女性である。
ただ、未成年であっても中年であっても違和感を感じるのは、その白髪だろう。しかし、よく見れば眉毛などは金色であるから染めているのでは、と感じた。
(でも、一体何で白に染めているんだろう?)
僕が彼女の髪を眺めていると、突然頭に響くようなキーンと音がした。
「たぁぁあああつぅぅぅみぃぃぃ! どこにいるのよぉぉぉぉ!」
その音の後すぐに、聞き慣れた声がした。例によって無感情である為、マイクを通して言われると大根役者みたいだ。
周囲の人々はクスクスと笑ったり、困惑の表情を浮かべ舞台上を見ている。
舞台上に誰がいるかなんて、とっくに予想出来ていたが一応舞台の方を確認した。すると、そこには顔を真っ赤にしながら、暴れ回っている美月がいた。男性の使用人達が必死に抑え込んでいるが、中々厳しそうである。
(完全に酔ってるな……ああなると手がつけられなくなる。使用人達に余計な仕事をさせたくないし、僕が美月のとこに行けば解決するかな)
「すみません、姉があの様子なので少と止めてきます」
隣で楽しそうに笑う智さんにそう言った。
「ハハハ、愉快なご家族ですね! また今度! 先生も!」
お酒を飲みながら、美月に釘付けになっていたシャーロットさんに智さんは話し掛ける。一瞬、明らかに嫌そうな表情を浮かべたがすぐに気付いたらしく、彼女はお酒を飲むのを一時中断した。
「サヨナラ~」
拙い日本語で、彼女は僕に笑顔を送り手を振った。それが少し僕には可愛らしく見えて、思わず笑ってしまった。
そして、彼女に手を振り返して、美月が暴れ待つ舞台へと向かった。




