表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
六章 死人に口なし
90/403

誕生日会・肆

―大広間 夜―

 誕生日会は、何の滞りもなく着々と進んだ。管弦楽団の演奏や、僕でも知ってるくらい有名な歌手、歴史ある劇団の舞台など、実に芸術的だった。

 そして、その演目の途中途中に食事が準備されていったのだが、それが僕には辛かった。臭いと臭いが混じって、そんなに入っていない胃から何かが込み上げて来る感じがして、耐え切れなくなり、今会場の扉の近くの壁で休んでいるという状況だ。


(はぁ……いつまでこの状況なんだ? いつになったらこの苦しみから解放されるんだ……)


 僕は、小さく壁を殴った。ただ、そんなことであてどもないこの怒りが収まる訳もなかった。ただ虚しさだけが新たに湧き上がる。


「おうおう、お怒りかぁ? 壁が壊れるぜ」


 背後から、その怒りをさらに増幅させる声がした。


「うるさい、黙ってろ」


 僕は壁を睨み、壁に手を突き立てたまま言った。


「あのさぁ」


 その突き立てた方の腕を、いつの間にか横に移動していたゴンザレスが掴んだ。僕が横を向くと薄ら笑いで、僕を見ているのか、遠くを見ているのか分からない目でこちらを覗き込んでいた。

 その表情は、本能的に恐怖を感じるもので、ゴンザレスの手を振り払うことも出来ない。さらに気になったのは、身に着けている首飾りの宝石が、また輝いているということだ。


「人が気遣ってるんだから、もう少し優しい返しとか出来ないもんかね? まぁ、いいんだけどさ。それより、お前腹減ってんだろ? いいもんあるぜ」

「え……?」


 ゴンザレスは、僕の腕を掴んでいない方の手に皿を持っていた。その皿には、真っ赤で新鮮そうな肉が乗っけてあった。白い皿が、さらにその赤を引き立たせている。


「お前さ、最近ずっとろくに食ってないんだろ? 哀れだから、お前の為の食い物用意してくれたみたいだぞ。さ、食えよ」

「食えって……この生肉をか?」

「そ、こういう文化にも慣れとかないと駄目だろ? 大丈夫、お前なら美味しく食べられる」


 そう言うと、ゴンザレスは僕の顔の近くにその皿を持って来る。

良い匂いがした。肉も今どんな物よりもご馳走に見える。でも、もしこれを食べてしまったら、もう戻って来れないような、そんな危機感を感じた。


「あ……あぁ……」

「何を迷ってんだか。てか、これよりヤバい肉をもう生で食ったことあるんだろ。ほら、食わせてやるよ」


 ゴンザレスは無理矢理、僕の口の中に真っ赤な肉を突っ込む。


(美味しい……)


 素直に最初に感じたのは、それだけだった。琉歌に何かを食べさせて貰った時とは違う味ではあったが、すぐに口に馴染んで溶けていく。


「な? 美味しく食べられるって言っただろ?」

「なぁ……これは何の肉なんだ?」

「牛。何か、輸入した肉。ハハッ!」


 ゴンザレスは、堪えていた物が堪えきれなくなったように笑う。


「何がおかしい?」

「フフフ……マジかって思っただけ。じゃ、俺も何か食いに行くかな~。あ、はい、皿渡しとくわ。全部残さず食べろよ? ハハハハハ……」


 皿を僕に渡すと、ゴンザレスは笑いながら人混みへと消えて行った。僕は、渡された肉を見る。まだ沢山残っている。ひさしぶりの食事、その肉を鷲掴みして口に放り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ