突然の覚醒
―特別会合室 夜―
困惑広がる特別会合室で、長々と会合は続いていた。
(この状況をどう説明したらいいんだろう? というか、僕自身もよく分かってないんだよなぁ)
父上、母上、睦月、美月、皐月、閏、そして大臣達と使用人の代表数人ともう一人の僕がこの部屋にいる。緊急事態に選抜される顔ぶれだ。この人数で話し合って、今の状況を整理しなくてはならない。
そして、この部屋は結界を張って音が漏れないように、誰も侵入できないようにされている。それくらい、この状況は緊急事態だということだ。
「で、お主は本当に異世界から来た巽だと言うのか?」
父上が怪訝な顔で、もう一人の僕を問い詰める。
可哀想なことに鎖で縛られたもう一人の僕は、面倒臭そうに暴れながら答えた。
「だ~~か~~~ら~~~~! 何度も言ってんじゃん! そうなんだって! マジで! 見てるからね! こいつ見てるからね!」
そう言いながら、僕を指差す。
(下品だし、みっともないし、もう一人の僕はどうしたら大人しくなるんだ?)
「確かに見ました、父上。あの開かずの扉の向こう……いや、塔の中から出てきたって言った方が適切かもしれませんね。伝説を鵜呑みにするのであれば、あの状況、さらに容姿などの点から、彼は異世界から現れた僕ということに」
「だから、何度も言ってんじゃんか~。異世界より参りましたよって。もういい加減解放してくれよぉ~もう疲れたよ~ねみぃ~」
もう一人の僕は、そう言って身を反らす。
「眠いって、緊張感なさ過ぎ」
美月は、通常通り棒読みと真顔でそう言った。呆れてるんだろうが、呆れている感じには見えない。
「こっちの世界の姉貴は、やけに感情がないなぁ。まぁ、俺達も相当性格違うみたいだし、性格は一致しないのかぁ~なるほどなるほど」
「そこ、何勝手に納得してんの」
睦月が、美月の陰に隠れながら言った。
(隠れるほどなのか。相当びっくりしたんだなぁ。まぁ、目の前に同じ顔が二人いたら、そうなるか)
「あ、こっちは似た感じだ。刺身好き?」
「え……好きだけど、それが何?」
「そっか~、好きな食べ物とかは同じなのかな。それとも偶然なのか。まだまだ色々興味深いな~」
うんうんと頷きながら、満面の笑みで言った。
(この縛られた状態を見るのが嫌だ。僕が縛られているみたいで何か心が晴れない。さっさと解放させよう。どうしたものか)
「……おい、巽」
「え!?」
「お主ではない」
「あ、うっす、さーせん」
頭を軽く下げるもう一人の僕。しかし、その表情はどことなく気まずそうにも見えた。
「巽よ、今この国の王はお前だ。この者をどうするか、それは全てお前の判断に委ねる。そして、私達はそれに従う。それにお前が状況を見ている張本人なのだから、何も問題はないだろう」
(そうか。今もう一人の僕がどうなるか、それを決められるのは僕一人なんだ。これが王としての責任。今その責任を背負っているのは父上ではない。この僕なんだ)
僕はゆっくりと息を吐く。この状況をここにいる者以外は知らない。睦月が叫んだのは蛇に驚いたからということにして誤魔化し、もう一人の僕をその混乱に乗じて顔を隠させながらここまで連行した。
結果的に、ここにいる人達以外でもう一人の僕を僕として認識している人物はいないようだった。
(どうすれば? もう一人の僕を無条件に牢獄に入れるのは違うし。でも入れないとなったら、城に住まわせないと僕の監視も行き届かない。いい理由はないものだろうか? そういえば、守る為に来たって言ってたな。それにこんなに顔や声も似ている。影武者としてなら、利害が一致しているように見えないかな?)
「さっき僕に言ったよね? 『あんたを守りに来た』とか『お前を救うために来てやった』とか。守るとか救うとか簡単に言うけど、それが本当に出来る? 軽い気持ちで言ってるならまだ間に合う、発言を取り下げろ。僕を本当に命懸けで守れるのか?」
(なんて言ってみる。これは挑発とどこまで本気なのかを確認する為……さぁ、どうかな)
「ちっ。大マジでマジの本気だよ! でなきゃ、わざわざリスク背負ってまで来ねーよ! お前の命を、この国も。そして、この世界も守るし救う! 勿論、命懸けでな!」
「そうか、命懸け。フフ……僕の命を守るとか国を守るとか、ましてやこの世界を守るって、どこまで大袈裟なんだろうね? まぁいいさ、そんなに本気なら僕の”影武者”にでもなる? そうすれば間違いなく命懸けで僕を守れるし、あと国までなら守れるよ。世界はどうか分からないけど。さぁ、どうする?」
僕は、にっこりと笑って相手を見る。
「やってやる! 絶対やってやる! 見てろよ! 俺を影武者にして良かったーってくらいやってやる! その顔すげー腹立つし! 覚悟しとけ!」
(なんて簡単な奴なんだ。これが本当にもう一人の僕? ま、いいか、これで色々と便利が良さそうだから)
「と言う訳で、この者は僕の影武者として扱うことにする。ただし、僕の影武者としてやってもらうなら徹底的にやって貰う。だから陸奥大臣、頼むよ」
「はっ!」
彼は、整った敬礼をした。咄嗟にこれだけ美しい敬礼出来るのは、未だに彼以外見たことがない。
「巽~、これを影武者にするって言ったって名前とかどうするの? 区別をつけるものがないとややこしいとか、もうそういうレベルじゃないわよ~」
「分かってる。だから今決めた。僕らの遠い親戚ってことにしたい。色々よく似てるのは、偶然ってことにしていいですよね? 父上」
「構わない。遠い親戚であろうがなかろうが、顔が似るというのはよくあることだ」
父上の言葉には、僕なんかよりもずっと説得力がある。皆納得したような表情を浮かべている。
「じゃあ、次は名前――」
「ゴンザレス!」
その声に場が静まり返る。もう一人の僕でさえ、え? という表情を浮かべている。
その声の主は、あまりにも声を発さない人物だから驚いた。それは、周囲の者達も一緒。
「閏、ゴンザレスって、どうして?」
母上が、心配そうに声をかける。
心配するのも無理はない。生まれて十二回目に発した言葉がゴンザレスは不安になる。五歳になって、まだ一言もしゃべってなかったのに、ゴンザレスという破壊力のある言葉使われるとかなり衝撃的だ。
「絶対ゴンザレス! ゴンザレス!」
(どうしたんだ閏。何故、そんなにゴンザレスを推すんだ? そして、こんなに元気な閏は人生で初めて見た。何かの前兆かもしれない)
「フフ……分かったよ。俺の名前はゴンザレスでいいよ、強そうだし。な? いいよな?」
「いいのか?」
「おう! この無邪気な笑顔を守る為だ!」
「やったー!」
閏は、本当に嬉しそうに無邪気に笑っていた。
(まぁ、お互いがいいのなら……)
「では、次に住む所だけど、どこの空き部屋が良いかな?」
「僕の部屋の隣空いてるよ~? ゴンザレスとお隣がいい!」
(何をそんなに気に入ってるんだ?)
「おお! いいな!」
「じゃ、じゃあ、閏の隣の部屋にゴンザレスを案内してあげてくれ。ある程度必要な物は揃っているはずだから、寝る分には問題はないだろうし他の者には明日説明しよう。では解散」
僕が手を横に切ると結界は解けて、ゴンザレスの縛っていた鎖も解けた。
「あーやっと自由だー!」
「ゴンザレス! 一緒に頑張ろうね!」
「おう!」
(不思議だ。まぁ、いいか)
これで、ある程度は片付いた。
「っ……!」
気が緩んだからだろうか。また”ある現象”が僕に起こる。爪がゆっくりと鋭く伸びていくこの現象。幼い頃から、気を張り詰めてないとすぐにこうだ。
最近はそれが酷くなってきていて、こうなると自分で止めるのは困難だ。
(早いとこ”あの人”のとこ行かないと、おかしくなりそうだ)
「では、僕は少し用がありますので。父上、また今度お願い致します」
「分かった」
奥歯を噛み締め、頭を下げて足早に特別会合室を後にした。