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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
六章 死人に口なし
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誕生日会・参

―大広間 夜―

「はい、お兄ちゃん連れて来た」


 丸い机を囲むように、椅子が並べられていた。その椅子には既に父上と母上、美月が座っていた。父上はちらりと僕を見たが、すぐに舞台側を向いた。閏は、ピョンと跳んで席へと着く。

 僕も席に着こうと、美月の隣の空いていた席の近くへ行った時だ。


「なんで急にいなくなった訳?」


 美月が、足を組んで僕を睨む。


「は? いなくなったのは美月の方じゃないか」

「……喧嘩売ってんの? 巽が皆に頭下げた後に、ちょっと目を逸らしたら、もういなかったじゃない」


 互いに苛々と共に、声がどんどん大きくなっていく。


「いたよ。美月が、たまたま見失っただけなんだろ」

「どうして、あの距離で見失うのよ。私、隣にいたけど」

「美月がいなくなったからじゃないか、隣からいなくなってたよ!」

「は? 頭大丈夫?」

「もういい加減にしなさい! 二人共!」


 母上が呆れた様子で、僕達を見る。母上の声で我に返ると、周囲の人の視線が痛く刺さっていた。大人気なく醜態を人前で晒してしまったことで、急に恥ずかしくなった。


「すみません……」

「訳分かんない」


 そう言った後、美月は大きく舌打ちをし、不満を僕に伝えて舞台側を向く。


「二人共大人なんだから……もう」


(母上の言う通りだ……すぐに冷静さを失ってしまうのは僕の悪い癖だよ、情けない)


 少し自分自身の情けなさを悔いていると、母上に聞きたいことがあったのを思い出した。僕は自信の席から離れて、母上の所へと向かう。


「あの……母上、少しいいですか」

「ん? どうしたの?」


 優しく僕に微笑みかける。先ほどまで呆れていた顔をしていたとは思えないくらい、本当に優しい笑顔だ。


「母上のお知り合いに、ロキという方はおられますか」

「ロキ……? それは本名?」


 聞き覚えがないのか、母上は首を傾げる。


「あ、いや、確か自分の名前が長過ぎて覚えられないから短くしたと……」

「う~ん……容姿はどんな感じだった?」

「えっと、金髪の碧い瞳の男性でした。恐らく、海の向こうの国の人で、母上のお知り合いだと思ったのですが……」

「せめて本名が分かればね~、ロとキが付く知り合いなんていくらでもいるし、皆名前が長いし……数え切れないわよ」

「ですよね……」

「で、その男性がどうかしたの?」

「あ、いえ……少し気になっただけなんです。本当に」


 碧色の空間に連れて行かれて、色々言われたなどと言う勇気はなかったし、言っても信じて貰えるか自信がなかった。

 すると、突然会場が真っ暗になった。そろそろ始まりの合図ということだろう。周囲もザワッと盛り上がる。


(やっと、皐月の準備が終わったか……)


 僕は小走りで、用意された席へと座る。美月が怖かったが、それが悟られないように、席にどっしりと座ってみた。

 しかし、残念ながら僕には向いていない座り方だったみたいで、むず痒くなった。なので、今まで散々厳しく言われてきた通り、背筋を伸ばして座ると、そのむず痒さはなくなった。慣れないことはするものではない。


「えー、皆様大変長らくお待たせ致しました。本日の主役の登場です!」


 わーっと歓声と拍手が起こる。それと同時に大広間の扉が開かれ電気が、ドレスで綺麗に着飾った皐月を照らした。

 皐月は嬉しそうに飛び跳ねて、はしゃいでいる。


(年を重ねることを楽しめるっていいなぁ……)


 幸せそうな笑顔を浮かべる皐月に、羨望を感じた。

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