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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
六章 死人に口なし
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嗤い

―大広間前 昼―

 僕が会場である大広間を覗き込むと、やはり想像通り使用人達が忙しなく動き回っていた。明日に迫った皐月の誕生日の為、超特急で作業が進められている。人手不足の中、この誕生日会という一大行事があるのは大変だろうと思う。

 来客に備えて清掃もいつも以上に行わないといけないし、沢山のご馳走も準備しないといけない……少なくとも、これが四回は残っている。例年より一回は減ることになったが、どっちにしても彼らの苦労は変わりない。


「あら、巽様、ご機嫌よう」


 背後から声を掛けられた。振り返ると、そこには見るだけで暑くなるドレスを着た女性が三人いた。


「……ご機嫌よう」


 僕は、正直言って彼女らが苦手だ。彼女らは、先祖がこの国の発展や存続の為に貢献した者の家系の一族。先代の王達により、名誉と地位を得た者達だ。名称は、時代によって変わってきたが、今は貴族と呼ばれている。

 しかし、今の貴族達にその頃の栄光は微塵も感じない。かつての栄光にすがり続ける者達に成り下がってしまった。それでも切り捨てることが出来ないのは、貴族からの税金もまた、この国の大切な資金源だからだ。


「皐月様のお誕生日、私達とても楽しみにしておりますの! ねぇ?」


 中心にいる桃色のドレスを着た女性が、両脇にいる二人に賛同を促す。


「えぇ!」

「楽しみです!」


 僕から見て右にいる黄色のドレスを着た女性と、左にいる青色のドレスを着た女性が大きく首を上下に動かす。


「そうかい……僕は、皐月にとって良い日になることを願ってるよ。だから、あまり祝い事だからと言ってハメを外し過ぎないように」

「あら、嫌ですわぁ……私達はハメを外したことなど一度もありませんわよ? ねぇ?」

「えぇ!」

「ありません!」


(両脇は子分か……そういえば、この三人の名前何だっけ? 別に何でもいいか)


「……そうかい、じゃあ、僕はそろそろ仕事があるから戻るよ」


 僕としては一刻も早く、この三人から逃げたかった。西洋の文化を下手に取り入れた彼女らから。


「そんなこと言わないで、もう少し私達とお喋りしましょうよ。最近体調を崩されていたんでしょう? また仕事仕事では、同じことの繰り返しですわ。だから……私達とじっくり……」


 桃色の女性が僕へと抱き着いて来る。それに合わせるように、子分達が僕へと寄り添う。血の気が引いていく感じだ。


「なっ……!」

「どうせ、婚約者の人とはしばらく会えないんでしょう? しかも、公の場に姿さえ見せないなんて……相当醜いんでしょうね! 巽様が可哀想ですわ……それなら、私達と――」

「――ハハハハッ! 嗤わせるな」


 思わず笑いが零れてしまった。


(琉歌が醜い? そんな訳がないだろう? 容姿も心もこの世界の誰よりも美しい女性だった……それなのに、こいつらは)


「何も知らないくせに……部外者が一々口を出すな。目障り、耳障りだ。本当に醜いのはお前達の方だろう? 周りからの評価を少し聞いてみたらどうだい? 周りからの目を見てみたらどうだい? その都合の良い耳と目でね」


 僕は子分を振り払い、抱き着いて来た桃色の女性を押した。


「きゃぁっ!」

「いゃぁっ!」

「ひゃぁっ!」


 桃色の女性は体勢を崩して、床に座り込む。すると、即座に子分達が反応して、桃色の女性の所へと駆け寄った。


「貴族である私に対してこんな……いくら何でも無礼が過ぎませんこと!?」

「無礼が過ぎますわ!」

「えぇ!」

「君達は貴族貴族貴族って……ほんと、うるさいね。その貴族としての価値を下げているのは自分達だといい加減気付いたらどうだい? まぁ、無理だろうけどね。もし、また今度、彼女や僕の家族を侮辱するようなことを言えば……容赦はしないよ。君達に罰を与えることが他の貴族達のいい薬になるだろうから……さ」


 僕は座り込む女性達に笑みを向けた。それは、心からの嘲笑だ。

 そして、ようやく黙った彼女達を背に自室へと戻ろうと、歩みを進めたその時だった。


(誰か……あの柱に隠れている)


 何となくそう感じ取れた。すぐ近くの柱に、自分の存在を消して隠れることがまだ得意でない者が恐らく怯えて隠れている。

 僕は、ゆっくりと柱へと向かう。


(子供……?)


 そして、柱を覗き込むとそこには――柱の陰で小さく震える皐月がいた。

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