偶然か必然か
―諜報大臣室 夜―
数日経っても、朝比奈大臣が帰ってくることはなかった。
「私のせいで……私の……」
興津大臣は、涙を流しながら自分を責め続けている。
「別に、君のせいではないだろう? 愚かな反逆者を炙り出せたしね……でも、残念だよ。彼女は優秀な人材であったというのに……後任は苦労しそうだね」
「私がああさせてしまったんじゃないかって……、もしかしたら本当に違って、ただ偶然だったんじゃないかって……」
「偶然? そんな訳ないだろ?」
「どうして……そう言い切れるんですか?」
「僕が向こうに着いた日、君も聞いただろう? 龍が現れたと……僕はその龍を再び封印しようとした。あ、これは内密にね。今までの恩を忘れないでね。で、その時に人影が現れたんだ。そして、僕に対して彼に怒られるから、それは駄目と言った。その声は間違いなく、君か朝比奈大臣のものだったんだ。この時点で、どちらかが反逆者だと突き止めていたんだよ。そして、君達を呼び出した日……朝比奈大臣が僕達が出た後、箒に乗ってどこかに出かけたという証言も得た。あの反応を見る限り、それは真実。さらには、それを嘘をついて隠そうとし、挙句の果てには、今逃亡している。言い切らない方がおかしいだろう?」
「……うぅ……」
興津大臣は、ガクッと下に俯いた。
「朝比奈大臣……いや、朝比奈元大臣があんな国に歯向かう行為をするなんてね……正直信じられないよ」
「どうしちゃったんだろう……彩佳ちゃん……何か悩んでたのかな」
「悩む?」
「分からないんですけど、箒持って飛び出した時、顔が真っ青だったんです。切羽詰まった感じで……」
「へぇ、真っ青ね……何でかな」
「あの……」
顔を上げて、興津大臣は言った。
「もし、彩佳ちゃんが戻って来たら……巽様は嫌ですか」
「嫌って……そんな筈はないよ。さっさと戻って来てくれた方が、こっちとしても色々楽なんだ。まぁ……それなりの処分は勿論あるけどね」
「処分……もしかして――」
「そこまで残虐なことはしない」
僕がそう言うと、興津大臣の表情から安堵の色が見えた。
(多分ね……さて、そろそろ準備をしないとな。使用人達も忙しそうだったし)
「じゃあ、僕はこれで失礼するよ」
「あ、はい!」
興津大臣はビクッと反応して、僕に対して深く頭を下げた。
(やれば出来るんだ……)
普通のことだと思っていたが、普通のことをやるのは難しいと教えてくれたのは彼女だ。
僕は扉の前まで歩き、ゆっくりと扉を開く。そして、この部屋に来た時から思っていたことを言った。
「前この部屋に来た時から、机の上にある資料が全く減ってないと思うけど……他の人の心配をするより、君は自分のことを心配した方がいい。朝比奈元大臣より早く処分を受けたくなければね。いつまでも僕は甘くない。先ほどあった特別会合の件も……ちゃんとまとめて公表するようにね、じゃあ」
興津大臣の方へと一度振り返って、笑顔を繕った。そして、また扉の方を向き、ゆっくりと廊下へと出た。
(会場の様子でも見てみるか……)
僕は窓から射しこむ光を踏みながら、目的地へと向かった。




