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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
六章 死人に口なし
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失言

―自室 夕刻―

 僕は二人を待つ間、窓から城下町の様子を眺めていた。夜になり、ほんのりと明かりが灯っているのが分かる。あの辺は、商店街だろうか。きっと、まだ沢山の人がいるのだろう。

 この場所から眺めるだけでは、当然何が行われているのか、どんな人が何をしているのか……そんなことは当然見えない。この高い場所からでは、景色としか町を認識出来なかった。でも、今日行って、生活の場所としての町を知ることが出来た。

 今日見たあの景色が普段の様子。警備も何もされていない、僕を王として見る人がいない……とても新鮮だった。


(あの感動を与えてくれた彼に感謝したいね……でも、またあの格好をしないといけないのが苦痛だな)


 そんなことを考えていると、トントン、と扉を叩く音がした。僕は、扉の方へと振り返る。


「来たか……入れ」


 僕がそう言うと、ゆっくりと扉が開かれた。


「失礼します」


 最初に入って来たのは、朝比奈大臣。僕を見てお辞儀をする。その次に興津大臣がビクビクしながら部屋へと入る。二人は、少し歩んで立ち止まった。すると、朝比奈大臣が興津大臣に対して、怒りを露に言った。


「ちょっと、ちゃんと失礼します、くらい言わなきゃ駄目でしょ」

「あ……ご、ごめんなさい……し、失礼します!」


 そう指摘され、興津大臣は慌てて僕に頭を下げた。


「……相変わらずだな、それより、今日何で君達が呼ばれたか……分かるかい?」


 僕がそう言うと、二人は顔を見合わせる。二人共分からないと言う表情を浮かべているが、どちらかは演技をしている。


「じゃあ、簡潔にはっきり言った方が良さそうだね」


 僕は、二人が立っている位置へと向かう。僕が近付いていくにつれて、二人の表情が強張っていくのが分かる。


「睦月が僕を庇って死んだって、上野国に伝えたのはどっちかなぁ?」

「はぁ!? それで、私達を疑っているんですか? 何を根拠に!? 知りませんよ、そんなの!」


 朝比奈大臣が声を荒げる。


「根拠? そんなの君達のどちらかが知ってる筈だよ。ねぇ……僕が上野国に行ってる時、君達は何してたのかな? それを教えてよ」

「意味分からないです! 私達に対する押しつけですか!?」


 朝比奈大臣が、僕に対する怒りを露わにする反面、興津大臣は、いつもの通りずっと挙動不審であった。


「質問に答えろ」


 僕は、朝比奈大臣を睨む。すると、彼女は一歩だけ後退りをした。


「私は……ずっと仕事をしていました。城で」

「えっ!? 彩佳ちゃん、お見送りした後すぐにお出かけしてたじゃないですか!」


 ようやく、興津大臣は口を開いた。しかし、その口から出た言葉は彼女にとって失言だったようで、慌てて口を押さえた。でも、もう遅い。


(言った後に押さえてた所で……もう手遅れだろ……)


「へぇ……お出かけかぁ。どうして、それを素直に言わなかったの? あ、何かやましいことがあるからかなぁ? どこにお出かけしてたんだい?」

「それは……その……」


 朝比奈大臣は、俯いたまま何も言わなくなった。それを助けようとしたのか、興津大臣が珍しく声を張り上げる。


「ち、違うんです! あ、彩佳ちゃんは、箒に乗って……その、ちょっとお出かけをしに行っただけですよ!」

「お出かけかぁ……箒だったら、一日も要らないね。上野に行くのに」


 箒は個人的な用事でどこかに出かけるのに最適な乗り物道具だ。馬車何かよりも、ずっと早く目的地に到着出来る。

 しかし、大人数で何かを持って行くのには最適とは言えない。だから、僕達は馬車でわざわざ時間を掛けて行ったのだ。

 

「あ、いや……うぅっ、ごめんなさい……」


 朝比奈大臣を庇おうとしたのだろうが、完全に逆効果となっている。

 一方の朝比奈大臣は、俯き黙ったままだ。


「で……素直に言ってくれないかな? もし今素直に言ってくれるなら……君の首も飛ぶ事は無いんじゃないかな」


 僕がそう言った瞬間だった。

 朝比奈大臣が勢い良く方向転換し、扉を開け、僕の部屋から飛び出したのだ。


「な!?」


 僕が慌てて、後を追おうとすると興津大臣が腕を掴んだ。


「えっと……あは……」


 どうしたらいいか分からず、とりあえず僕の腕を掴んでみたのか、ぎごちなく笑いかけてきた。こうしている間に、追う者も追えなくなる。


(誰か見張りをつけておくんだった……曲がったことが嫌いという印象を見事に破壊してくれたな……まぁ、これだけのことをする奴だったんだから、当然か)


「離してくれない?」

「あ……ごめんなさい」


 あっ、と言う表情を浮かべ、ようやく興津大臣は腕を離す。急いで廊下を覗き込んだが、案の定そこに朝比奈大臣の姿はなかった。



 そして、朝比奈大臣は城から姿を消した。

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