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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
六章 死人に口なし
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世話焼き

―城下町 昼―

「凄いな……城下町はこんなに賑わってるのか」


 思わず心の声が漏れる。と同時に、美月が僕を睨む。


「普段はこ、こんなに賑わってるんだねぇ~! アハハ~」

「すぐボロを出す……全体で特売日だからって言うのもあるし、それに……」

「それに?」

「ほら、あそこ見て」


 美月が指差したのは、一人の美しい着物を着た女性がいる舞台だった。その舞台の周りには、大勢の人が居る。

 そして、僕はその女性を見て、そこで何が行われているのか理解することが出来た。


「太夫披露……ね」


 太夫披露。それは、遊郭のいつからか出来た行事であった。この行事を簡単に説明すると、太夫になった遊女を最初で最後に一般公開するというものだ。

 太夫は、容姿や教養を兼ね備えた麗しい遊女にしか与えられない称号だ。だから、そう簡単にこの行事は開かれない。確か、この行事が開かれたのは最近では、四年前だった筈だ。そんな珍しい行事を、見たいと人がこんなに集まるのは当然だろう。


「見てみる?」

「いや――」


 別にいいと言う前に、美月はその舞台へと向かって行ってしまった。この人混みの中、はぐれてしまうのは危険だ。僕は美月について行こうと、慌てて足を踏み出した瞬間だった。


「ひゃぁっ!?」


 見事に足を捻り、無様にこけた。


「いったぁ……あっ!」


 僕は、慌てて頭を確認した。


(良かった……かつらはズレてない。ってそれより、美月は!?)


 残念ながら、そこに美月の足はもうなかった。


(とりあえず……あの舞台の付近に行けば……)


 僕は右手で頭を押さえ、左手を支柱にゆっくりと立ち上がる。だが、この状況で再び、同じ光景を見て絶望せざるを得なくなった。


(あの群衆の中から美月を探せって言うのか……? 無茶だ、そんなの)


 あの舞台の周りだけでも、ざっと百人以上はいるだろう。そして、舞台までの道のりで一体何人いるのか、それを考えるだけで血の気が引いた。僕は、只々立ち尽くすしかなかった。


「どうしちゃったの~? 綺麗なおねーさん」


 背後から軽い感じで声を掛けられた。恐る恐る振り返ると、そこには見るからに怪しい男性五人組がいた。


「え……あ……えっと……」


(どうしようどうしようどうしよう!? 一番絶対声掛けられちゃいけない人に声掛けられた……)


「あれ~? お姉さんケガしてなぁい? 大変じゃ~ん、俺達が治療してあげるよ」

「いいね~ぇ!」

「け、結構です。あ……あの、私急いでるので!」


 と、言ってなんとか逃げ出そうとしたのだが、男性達はそれを阻んだ。僕を取り囲み、威圧をかけてきた。


「いやいやいやいやいや~、そっちの怪我治さないとさぁ? 変な病気になっちゃうかもよぉ? 例えば、突然化け物になっちゃうアレとかさぁ!」


 化け物……その単語が僕に突き刺さる。


「最近アレ収まってるけど、感染症だって噂だよ。そういう傷口から入ってくるんじゃないのかなぁ? だからさ、俺達がちゃ~んと面倒見て治してあげるから」

「そうそ、な~んも怖くねぇぜ? 大人しくついて来た方が身の為なんじゃない?」


 一人の男性が僕の腕を掴む。途轍もなく強い力で。こんなことを平気でやってのける、こいつらは糞だ。僕以下の屑。


(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう――)


 混乱と恐怖で頭が回らなくなって、今何が起こっているのかさえ理解が及ばない。


――駄目だな君は……美月が待ってるよ? 仕方ないなぁ――


「ねぇ、行こうよ、大丈夫だって」


 僕は、腕を掴んでいた男性の手を振り払う。


「おいおい、おねーさんさぁ……」


 もう一人の男性が再び、僕の腕を掴もうとする。


「気安く触れるな、愚民の分際で」


 僕はその男性を睨んだ。その瞬間、男性の余裕のある表情から一転、恐怖の表情に変わった。


「目が……おいおい、こいつやべー奴だぞ!」

「は? 何言ってんだよ。たかが睨まれた程度……で!?」


 半笑いを浮かべながら、僕の前に来た屑達の表情も凍りつく。


――世話が焼けるね――


「殺されるぅ!」


 そう言い捨てて、屑達は僕から逃げるように去って行った。




「タミー? もう、そこで突っ立って何やってんの。はぐれたらどうするつもり」


 気付くと、美月が向こうから近付いて来ていた。頬を膨らませている。


「ごめん……すぐ、行くよ」


 今度こそ、足を踏み外して挫かないように、ゆっくりと美月の所へ向かった。

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