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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
六章 死人に口なし
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賑やかな城下町へ

―秘密基地 昼―

「よし、着いた着いた」


 僕達は、あの秘密基地の穴の前に到着した。普通の感覚ですれば、間違いなく近付きたくない場所。それを利用して作られた秘密の抜け道。

 ここに来るまでの道のりの間、誰かに見つかるのではないかと不安だったが、奇跡的に誰ともすれ違うことはなかった。美月曰く「何回抜け出したと思ってんの」とのことだ。人がいない時間は頭にしっかり入っているのだろう。だから、あんなに急かしてきたのか。

 ここに来るまでの道のり、慣れないかかとが高い靴のせいで普通に歩くのも難しかった。それなのにあの道を行くなんて、憂鬱だった。


「はぁ……帰りたい」

「グズグズ言ってないで行くよ」


 美月は、もうあの穴を通っていた。腕を組んで仁王立ちをし、こちらを睨んでいる。


「分かってるよ……」


 僕は負けたのだ。負けた方は勝った方に従わなくてはならない。美月も同じ確率の下で勝負をしたのに、どうして僕は負けたのだろう。何故こんなにも不運なのだろう。


 僕は、穴をゆっくりと通り抜けた。やはり、若干狭く壁が当たる。


「ちゃんと穴塞いでよ」

「言われなくても分かってるって……」


 苛々する気持ちを抑えながら、壁の一部を穴へと持っていく。もうこれで穴があるかないかは、分からなくなる。よく目を凝らせば亀裂があることが分かるが、そもそもここのしかも建物の裏に来る人なんて限られているので、それを見る人などほとんどいない。

 僕が穴を塞ぎ終えると、美月が突然言った。


「そういえば、巽が見つかったのって……この秘密基地だったよね」

「そうだけど、それが何?」

「私達はこの穴のことを知ってるとは言え、他の人達は知らない……だとしたら急にここから出て来るのって不自然だよね」

「壁を飛び越えて入ったって考えれば……別に問題ないだろ」

「巽は嘘下手なんだから。怖いなぁ、ここバレたら自由に一人で外出が出来ないじゃん」


 美月はそう言いながら、急いで道を進み始める。まだ、この道を使っていたとは驚きだ。本当に美月は、いい歳して何をしているのだろう。


「ごめん……」


 僕はとりあえず謝って、美月の後を急いで追う。美月の歩く速度はとても速く、今の体調では少し怠いものがあった。

 さらに、道も悪い為余計に体に負担が来る。それなのに美月はちっとも疲れた様子を見せないで、どんどん進んで行く。疲れてるのかもしれないが例によって、そうは見えない。

 しかも、かかとが無駄に高いこの靴。この斜面にこれはないだろう、普通は。


 僕達が住んでいる城は、低い山の上に立っている。その為、城は木々に覆われている。その木々の部分は放置されているので、人目を避けるのは容易だ。

 そして、人目を避ける僕達が歩くのは獣道。動物達が作った道だ。これもあって美月達と一緒に行くのは嫌だったのだ。


「よく美月達は子供の頃、平気でこの道通ってたね……」

「女は強いのよ」


 美月は振り返ることもなく、さらりとそう言った。


「そうなんだ……」


(女は強いからこの道も平気だった? 理論がよく分からないけど)



 しばらく下り続けると、平な地面と整備された道が見えた。木々で隠され昼でも暗かった道と比べ、光に照らされ明るい道だ。当然なのだが。


「はい、着いた」


 美月は、小さく跳んで整備された道へと着地した。


(よくワンピースで、しかもやたらかかとの高い靴でほいほい出来るよな……尊敬するよ)


 僕は慣れないので、足元をしっかり確認し体勢を崩さないようにしながら、整備された道にゆっくりと足を着けた。


「何でそんなにガクガクしてるの?」

「慣れないから当然だろ!」

「昔履かせた方が良かったかな……」

「いいえ、結構です」

「そうかな。あ、あそこだよ、お店いっぱいある」


 美月が指差した方向を見る。店が沢山並んで、賑やかな声がここからでも聞こえてきた。子供の楽しそうな声に、男性の威勢の良い声。商売をしているというのが伝わってくる。

 

「賑やかだね……」

「今日は特売日だから。あ、巽間違えても『僕』とか使わないでね。後、露骨な男口調も駄目」

「えっ……それって、僕に……女口調で喋れってこと……?」


 自分から出た声は、情けないほど震えていた。ここまでの仕打ちをしておいて、さらに苦行を強いらせようとしているのか、目の前の女は。


「勿論」


 美月は即答した。


「嫌だ! 絶対嫌だ!」


 これ以上、僕から大切な物を奪うのはやめて欲しい。


「どうせ嘘つけないんだから、演技して貰わないと」

「えぇ……」

「想像して、この格好で巽だとバレた時の瞬間を……」


 美月は僕の肩に手を置いて、耳元でそう囁いた。


 脳裏に映像が浮かぶ。そんな趣味だったのかと嗤われ、周囲から蔑まれ、それが記事となり世界中を駆け巡る。父上からも完全に見放され、あの人にも侮辱される。閏や皐月が苦笑を浮かべ、美月はそれで僕を脅し、睦月と東はその噂を聞いて絶句。小鳥は僕を軽蔑し、琉歌は戸惑う。そして、これは永遠に語り継がれることとなる……まさしく、これは絶望。

 僕は、その映像を消すように左右に首を振った。


「そんなことになるくらいだったら! くっ、分かったよ。やるよ、やればいいんだろ!」

「うんうん」


 分かればいい、と言わんばかりに首を縦に振った。


(なんかもう訳分かんなくなってきた……はは……)


「私は美月じゃなくてミズキって名乗ってるから、その辺宜しく」

「えっと……じゃ、ぼ――」

 

 美月の視線が僕に突き刺さる。


「――私は、な、何になるのかなぁ?」

「う~ん……タミとかどう?」

「じゃ、じゃあそれにしようかなぁ! オホホホ……」


(オホホホ……は流石に変か、周囲で使ってる人あんまりいないし……)


「私達の関係は姉妹ってことでいくからね」

「うん」

「じゃあ、行くよ~」


 僕は美月に手を引っ張られ、町へと向かった。その時、不安の中に少しだけ何故か安心感を感じていた。

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