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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
六章 死人に口なし
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守り抜く

―自室 昼―

(遅いな……)

  

 部屋に来て、待っててと言われて十分は経った。着替えるのは、そんなに時間が掛かるものなのだろうか。歩いて部屋を訳もなく歩いてみたり、窓から景色を眺めるのは飽きた。

 待ちくたびれて、ベットに寝転がろうとした時だった。


「お待たせ」


 そのベットの上に、美月がいた。それに驚いて僕は、尻餅を勢い良くついてしまった。骨を通じて、痛みが全体に広がっていく。


「いつからそこに!?」

「さっきかな」

「来たなら言ってよ……びっくりする」

「ねぇ、私の格好どう?」


 美月はベットから飛び降りて、尻餅をつく僕の前でくるくるとゆっくりと回って服を見せてくる。花柄の長袖のワンピースで、女子感が出ていた。普段、美月は動きやすい服装で正直女子力を感じない。そういう面からすれば……。


「いいんじゃない」


 と、本音を言ったのだが、美月はその返答が不満だったようだ。


「……何がどういう風にいいのか言いなさいよ」

「えぇ……」


(面倒臭い……というか、何で一々服の感想なんか……)


「面倒臭いとか思ってるでしょ」

「お、思ってないって」

「思ってるんだ。こういう時に気の利いた答えをしないと駄目だからね。結婚するんでしょ。そういう所大事だよ」

「へぇ……それより服は? 用意してくれてるんでしょ」


 僕はそう言いながら、ゆっくりと立ち上がる。一応の為、ズボンをはたいた。


「してるよ、どうせ巽の服ってこういう庶民感のある服ないでしょ。やたら派手なんだから。だから、はい、これ」


 美月は背後から、スッと服一式を差し出す。しかし、僕はそれを見て違和感を感じた。


「ん?」

「どうしたの。着てよ」

「いや……これ何かおかしくない?」

「おかしいって何が」


 美月の差し出してきた服の一番上は、何故か無駄にフワフワしているというか……例えるならまるでスカートのようである。


「気のせいかな? これってさ……いや、錯覚かもしれないんだけど、もしかしてスカート?」

「その通り、チュールスカートって言うんだよ」


 間髪入れずに美月は返答する。スカートの中にも種類があるというのか。いや、僕はそんなことを聞いているんじゃない。


「いやいやいやいや、その通りって。何でスカートなの? 意味分からないんだけど」

「巽は女装した方が違和感ないもん。普通に男の格好してたら、逆に間違いなく注目の的だよ」

「それだけは絶対にない! 絶対ありえない!」

「世論をしっかり理解した方がいい。現実を受け止めた方がいい。巽にとってそれは残忍であるかもしれないけれど、それは一つの真実だから」

「世間的には、僕が正しい男の格好をしていることに違和感があるって言いたいの?」

「うん」


 一番残忍なのは、その事実を何食わぬ顔で伝えてくる美月ではなかろうか。


「……どっちにしても着たくない。自分の服を着る、目立たない物だってあるんだ」


 僕は奥歯を嚙み締めた。この上ない屈辱を味わったことへの怒りを抑える為に。


「駄目だって言ったでしょ、巽だし……バレる確率が上がるもん」

「じゃあ行かない方が――」

「誕生日の贈り物は、自分でその人の為を思って選ぶから意味があるの」


 美月が、強く僕を見つめる。


「も~やだよ~はぁ……」


 思わず、ため息が漏れる。


(何で誕生日の贈り物程度で、こんなにこだわるんだ? 今までこんなこと一回もなかったのに)


「……うん、分かった」


 美月が突然何かを閃いたようで、ポンと手を打った。


「何が分かったの?」


(何か企んでいるような気がする……)


「ジャンケンしよう」

「は?」


 ジャンケンとかいう、一つの運を試す行為を突然出してくるとは思わなかった。一体、美月は何を考えてジャンケンにしたのだろう。


「私が負けたら巽は、男の格好で城下町に行く。私が勝ったら巽は、女装で城下町。どう?」

「どう? って言われてもね……そのどっちかしか選ぶことが許されないの?」

「うん」


(よりにもよって、ジャンケンって……いや、勝てばいいんだ。そう勝てば)


 自身の右手を目の前に持って来る。この右手に全てを賭けるしかない。どちらも同じ確率だ。この勝負を決めるのは、運だけだ。


「分かった……やるよ、絶対に勝つから」

「絶対なんてない……どうなるかな」


 美月は、自身の手をポキポキと鳴らす。美月が本気だ。こんなことに、本気になるのもどうかと思うが。

 僕は、右手を先にグーの状態で差し出す。


「じゃあ、やろうか。美月」

「うん」


 美月の手が僕の手の前に差し出される。互いの拳がこれからの行方を握っている。この勝負は僕とって、大切な物を再び失うことがないよう守り抜くものになる。


「「最初はグー! じゃんけん!」」

***

ー美月 巽の部屋 昼ー

 巽がベットの上で体操座りをして、肩を震わせている。相当ショックだったのだろう。


「巽~、元気出して~」


 私がそう言っても巽は、うんともすんとも言わない。巽は現在、白いフワフワのスカートと鮮やかな赤のシャツを着て、ロングヘアのかつらを装着している。

 大人になっても、やはり違和感がない。かなり可哀想なことをしているという自覚はあるが、何としてでも巽を外に連れ出したかった。どうしても、巽に普通の目線で城下町を見て欲しかった。ついでに、私を癒して欲しかった。


(巽が話に簡単に乗ってくれて良かった……それより急いでいかないと、時間がない)


「巽、行くよ、ほらほら急いで」


 巽の近くに寄ると、何やらブツブツと呟いているようだ。小さ過ぎて、全く私には聞こえない。


「巽!」


 私が耳元で大きな声を出すと、ようやく顔をこっちに向けた。殺意を剥き出しにした目で私を睨む。


(お~こわこわ……一日に二回もこの目で見られるのは勘弁ね)


 少し前に藤堂先生が言ったあの言葉。


(時々冷たい目をしている……か。危険……その目の向こうで何を考えてるんだろう)


「行こ」


 私が巽の腕を引っ張ると、ようやく体操座りをやめて巽はベットから降りた。


「……最悪だ……」


 巽がそう呟いたのが聞こえた。


(どうでもいいけど……巽がジャンケンで私に勝ったこと、今まであったっけ……記憶にないけど)


 そんなことを考えながら、私は部屋の窓から飛び降りた。飛ぶ魔法は使えないので、単純に脚力を信じた賭けである。

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