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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
六章 死人に口なし
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僕を透かして

―バルコニー 昼―

「あの人、納得してくれたの?」


 美月が冷めた目で僕を見る。別に冷めた目で見つめているつもりはないんだろうが、傍から見ればそうとしか思えない。何度でも思う、もう少しどうにかならないものかと。


「さぁ……暴れ回って泣き叫んだ後、無言で部屋から出て行ったから……納得までしてくれたかは分からないな」


 僕が偽りの口伝を伝えた後、暫く泣き叫んでいたかと思えば、突然無言になって物凄い勢いで部屋から出て行った。そして、そのまま国に帰ったらしい。一応、今の所は最悪の事態は免れたという所か。


「嵐みたいな人だったね。流石、暴君って言われるだけある」

「あの人……暴君なのかい?」

「え、知らないの? 引くわ」

「ごめん……」

「傲慢で我儘で傍若無人……圧倒的な力を見せつけて、弱い国を従わせる……それが常套手段だって。あの人になってから薩摩は物騒になったって聞いた。でも、それが薩摩を強国へと変えた。恐らく、薩摩で英雄よ。でも、薩摩以外では違う。睦月は……あの人が来る前はため息ばっか、帰った後はいつも疲れた顔してた。怖かったんだろうね、まぁ結果としてこうなったけどさ」


 美月は、手すりにもたれ掛かってぼんやりと遠くを見つめる。


「そんな……人だったんだ」


 確かに、壁に向かって思いっきり飛ばされたり、苛々とした態度を露骨に見せられたりはしたけど、そこまでだったとは思いもしなかった。

 だって、いつも城に来ている時は穏やかな感じで、優しそうに見えた。睦月だって、楽しそうにしていた……のに。


「巽って本当何も見てないよね。そういうとこ、父さんそっくりで殴りたくなる」

「それって……僕を馬鹿にしてる? それとも……父上を馬鹿にしてる?」


 僕がそう言うと、横目で美月はこちらを見る。


「どっちでもいいでしょ」

「良くない。もし、父上の方だったら……とにかく誰であっても父上を馬鹿にするのは許さない」


 僕は、美月を睨んだ。


「気持ち悪っ。巽って昔からそういうとこ……異常だと思う」

「別に異常なんかじゃない、尊敬する人を馬鹿にされるのが嫌なだけさ」

「尊敬ねぇ」


 美月は小さく息を吐いて、こちらへと向いた。


「じゃあ、私は尊敬してないってことか」

「は?」

「この私に対して、今まで散々馬鹿って言ったり、胸倉掴んで来たりしたのは……尊敬してないからでしょ」


 僕の両頬が、横に伸ばされる。僕の頬は、いつから餅になったのだろう。少し痛い。いや、かなり痛い。いつまで引っ張るつもりだ。


「いふぁいっ! ふぁなせ!」

「ほれほれほれほれほれほれほれほれほれほれー」


 僕の両頬が様々な形へと変形していく。僕の頬が、芸術を表現する為の手段になった記憶はない。その度に、僕は痛みを味わい続ける。


「いふぁい! あぁ!」

 

 僕は何とか、美月の手を頬から離した。


(まだ掴まれてる感じが残ってる。痛過ぎ……容赦なさ過ぎだ……)


 恐らく赤くなっているであろう頬をさすっていると、美月が言った。


「昔はこの程度で大号泣だったのに、成長したね」

「当たり前だろ! この程度で泣いてたら大人としてどうかと思うよ!」

「あんたが、うわーんって泣く度、睦月が、もーっ! って凄い速さで駆けつけてたなぁ……覚えてる?」

「まぁ……それは何となく」


 今まで何度もそんなことがあったからよく覚えている。泣かされる僕に、泣かせる美月、そしてその仲裁をする睦月……昔はそればかりだった。六歳以前も、こんなことを繰り返していたに違いない。


「あ~あ……何で死んじゃうかな。死ぬくらいならさっさと駆け落ちしてれば良かったのに。永遠に会えなくなるくらいなら、まだ迷惑掛けて、皆で探し回って、見つけたら睦月達に文句言って……絶対そっちの方が良かった。代わりに巽は私が助けたのに……とめてくれる人がいないのってすっごく……寂しい」


 そう言う美月の表情や声色はいつもと変わらず、先ほどと何も変化がない。ただ、いつも以上に言葉と言葉の間隔が広がっているだけ。


(美月……美月はやっぱり気付いてたんだ。睦月と東があんな関係であることにも、駆け落ちをしようとしていることにも。何で、誰にもそれを言わなかった? 美月が言っていれば、こんなことには……)


「それって……どういう意味」

「どういう意味って?」

「駆け落ちだのなんだのって……」

「何で気付かないの? 随分前……子供の頃からずっと二人は――」

「気付いてたなら! どうして言わなかった!?」


 許せなかった。僕の声が、外まで響いているのが分かる。父上にでも誰にも、美月が見聞きしたことを言ってくれていれば、僕は噓を重ねる必要もなかったし、皆を嘘に巻き込むこともなかった。


「私が言ってたら……きっと二人は引き裂かれる。睦月の心の頼りが奪われる。それに、こういう問題は……覚悟が決まった時に自分から言った方がいいに決まってる。私から言った所で何も解決しない。それに、私が言わなくても言ってもきっと解決しない。なら言わない方がいい。それにね、巽」

「何?」

「知ってしまった方だって……凄く苦しい。どうしたらいいのか、分かんなくなるの」


 美月の目は、僕を透かして見ているように感じてしまうくらい、強く僕を見ていた。

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