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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
五章 縁は異なもの味なもの
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忘失

―馬車 早朝―

「もう熱は大丈夫かい? 無理しないほうがいい」


 田村殿が、馬車で寝る僕に心配そうにそう言った。


「昨日よりは……まだ少し体が重いです。でも国から連絡があったので……」


 国からの連絡、それは昨日の夜にあったものだ。睦月の婚約者が突然僕の国に押しかけて、睦月の遺体を見せろ、見せなければ死んだとは認めないなどと騒いでいるらしい。相当怒り狂っているようで、事態を理解している僕に早く戻って来て欲しいということだった。

 だから、僕達は少し早く帰る準備をしているという訳だ。今は朝五時、故にまだ周囲は静かである。目の前では、不審者のゴンザレスが明らかに眠そうにしているし、隣の小鳥も、どこか遠くを見ている。


「巽君も一国の王……大変だ」

「仕方ありません、これが僕の道ですから」

「それでは、そろそろ出発致します~! 危ないですので離れて下さい!」


 御者がそう言うと、田村殿は既に遠くにいた奥方と迅の所へと走って行った。勿論、そこに琉歌の姿はない。


(ゴンザレスは上手くやってくれたのだろうか……小鳥がいるここでは聞きづらいな)


 僕が、外を眺めながらそんなことを考えていると、馬車が物凄い勢いで上昇した。そこからさらに、前へ僕らが大勢を崩してしまう程の速度で前へと進んで行く。その時に、小鳥の服から何かが飛び出した。


「あっ!」


 それは、小鳥の足元へと落ちた。慌てて、小鳥はそれを拾う。汚れや傷がついていないかどうか、しっかりと確認するように、それをクルクルと回す。


「それは一体何だい?」


 僕がそう質問すると、小鳥は、えっ? と驚きの表情を浮かべた。


「巽様の部屋にあった物ではないですか、ペンダントですよ」

「僕の部屋にそんな物……あったかい? 今初めて見たんだけど……」

「巽様の物ではありませんでしたが、私がこれを見つけた時、巽様も一緒に見ておりましたよ」

「それっていつ?」

「巽様がその……美月様に押し倒されていて……その後です」

「それは記憶にあるけど、そのペンダントは知らないよ……というかあれは押し倒された訳じゃ――」

「何言い合ってんだ、うるせーな。お? その手にある奴めっちゃ高そうじゃん! 何それ何それ! 初めて見たこんな綺麗な奴~うひょ~!」


 ゴンザレスが突然会話に割り込んで来て、興味津々にペンダントを見る。小鳥は眼球が飛び出るのではないかというほど目を見開いて、ゴンザレスの言ったことへの驚きが隠せないと言わんばかりの様子だ。


「な……何言ってるんですか! ゴンザレス様も巽様も私をからかっているのですか!?」


 突然小鳥が怒り口調でそう言った。僕達は何故怒られているのか分からず、思わず一瞬見つめ合った。


「別にからかってねぇよ、何でそんなキレてんだ?」

「そうだよ……小鳥、どうしたって言うんだい?」

「だっておかしいです、こんなの。どうして覚えていないんですか?」


 小鳥は涙目になっていた。


「いやいや! 覚えていないも何も知らんって! マジで! その~……ペンダント? 今初めてそれを見た、俺は」

「僕も、さっき小鳥が落とした時に初めて見たよ」

「そんな……」


 小鳥はそれっきり俯いて口を開こうとはしなかった。それを僕達はどうすればいいのか分からず、だたただ到着を待つことしか出来なかった。

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