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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
五章 縁は異なもの味なもの
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思い出辿り

―上野城内 昼―

(ゴンザレスは上手くやってくれているだろうか……)


 そんな心配をしながら僕は、天井の木目を辿っていた。寝ることも出来ず、体を動かすことも出来ず、出来ることと言えば、ゴンザレスが影武者としての仕事をしっかりとやってくれているかどうか、遠くから心配するだけだった。

 影武者の正しい使い方が、これであるのかどうかは不明だが。


(あの木目……顔みたいだな)


 木目を辿る作業の二回目、僕の寝ている角度から見ると、少し離れた場所にある木目がちょうど怒ったおじいさんのように見えた。一回目では、ただの模様でしかなかった。これは、二回目だからこそ見えた光景だろう。


(そういえば……僕の記憶の始まりもこんな感じだな)


 記憶の始まりと言えば、少し違和感があるが、これしか言葉が見つからないのだ。その記憶の始まりは、今回と同じように僕は木目を見ていた。そして辿り、木目の模様に疑問を抱いた。

 その疑問は「どうしてこんな模様なんだろう?」とか「どうしてここに顔があるんだろう?」と純粋な子供らしいものだった。

 その疑問を解決する為に、僕は必死に母上を探した。そんな僕を見て、周囲は気味悪がった。睦月は僕を抱き締め、美月は「狂った」と僕に言った。

 気味が悪いのは、皆。皆おかしい。それが当時の僕が思ったことだ。そして、幼い僕が父上に連れられて向かったのは――――墓場。

 そこで全てを悟った。おかしいのは、本当に気味が悪かったのは、間違いなく僕。

 僕は、六歳以前の記憶があやふやだ。完全にない訳ではない、自分や周囲の人物が何者で、ここがどこであるか、それらははっきりとしていた。

 しかし、僕にないもの。それは、その人との思い出やその場での思い出。その人に何があったかとか、それだけが綺麗に抜け落ちている。


(最初から母上との思い出なんてないけど……僕のせいで)


「はぁ……」

 

 思わず溜め息が出る。その日以降に出会った人々との思い出、美月からされた悪戯など、そこは鮮明だ。美月は見事に恐怖を植えつけてくれた。何故、こういうのは抜け落ちないのだろう。


(あぁ、これからどうなるんんだろう)


 僕は、横向きになって日程を考える。


(明日には帰る予定だが……これは治るだろうか)


 熱があろうがなかろうが、どっちにしても帰らないといけない。国に帰れば、やることは腐るほどある。反逆者の正体をはっきりさせること、睦月の件、新しく出来た城下町の博物館に訪問、それらが控えている。

 正直言って憂鬱だが、逃げる訳にはいかない。気付いたのだ、僕はようやく。僕に逃げ場なんてなくて、逃げることも逃げないことも迷惑になる。しかし、今はまだ逃げる必要がない。

 僕に僕の代わりが見つかれば、混乱もなく、王になれる者を見つけることが出来れば、それまでの辛抱だ。私情で壊すことはありえない。


(死ぬこともある病気なんだよね。大丈夫だろうか)


 僕の国では、王である者が何らかの理由でその務めが果たせなくなった場合、次の王になれるのは妻がいた場合は妻に。妻が拒否するかいない場合は子供にその権利が渡される。長男を優先的に、次男、三男と王になる権利を得る。

 同じように長女、次女と譲られ、子供も妻もいない場合、王位継承権を拒否したことのない王の者達がその権利を得る。それでも決まらなければ、最終的には遠い親戚の方へと渡っていく。この制度は、初代当主がが決めたらしい。


(代わり……琉歌か閏か、どっちだろう)


 二人の様子を浮かべる。琉歌は僕の妻となれば、いつか僕がいなくなっても女王として即位出来る。そして、閏は次男だ。まだ幼いが僕の次には継承出来るだろう。

 美月や皐月が王になる姿はあまり想像出来ない。出来れば、美月はやって欲しくない。

 

(こんなに時間がある……ゆっくり考えよう)


 再び上を向くと、木目が霞んで上手く見えなくなっていた。

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