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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
五章 縁は異なもの味なもの
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ー上野城内 夕刻ー

「――巽様! しっかりして下さい、巽様!」


(この声は……)


「……小鳥」


 意識がはっきりとしてくると、僕の目の前には小鳥の顔があった。周囲にも、藤堂さんや薬師寺大臣、田村殿、奥方、迅の姿があった。

 僕は、どうやら地面で寝かされていて、それを皆で見ているようだ。

 手を確認すると、治療の跡があった。包帯が巻かれてはいるが、手だと認識することが出来る。


「良かったです……もう二度と目覚めないかと……」


 小鳥の涙が、僕の額に零れ落ちる。


(目覚めたくなどなかった……もう迷惑をかけなくて済む。いい機会だと思ったのに……)


「龍は……?」

「それが……あの閃光の後、忽然と姿を消してしまってね、行方知れずだ」


 田村殿が、訝しげな表示を浮かべながらそう言った。


(僕が生きてるから封印は出来ていない。だとすれば、あの人影……興津大臣か、朝比奈大臣のどちらかが何かをやったのか)


 あの時一瞬、人影が見え声が聞こえた。あの声は間違いなく、あの二人、どちらかの声だ。嘘の情報を迅に流したということにも、合点がいく。


(国の混乱を……許さない、絶対に)


「巽様……?」


 心配そうな顔を浮かべながら、小鳥は僕を見た。


「どうかしたかい、小鳥」

「いえ……」

「そうかい? それより、小鳥はどこも怪我はしていないのか?」

「私は大丈夫です……ただ捕まえられていただけです」


 確かに小鳥には、怪我一つないようだ。僕は、ゆっくりと体を起こす。


「他の者も怪我はしていないか?」

「怪我はしていないのだけど……」


 奥方が、横目で迅をみる。


「あぁ……」


(そう言えば、そうだったな)


「精神的負担が大きかったことが原因で……声が出なくなってしまったのでしょう。機器が使えれば、もっと精密に調べることが出来るのですが……もしかしたら他の原因、例えば魔法的要因があるかもしれない」


 藤堂さんが、腕を組みながらそう言った。


(その機器があれば、魔法を使った事がバレてしまうということか……)


「この国に、その機器はあるのですか? 田村殿」

「いや、最新機器は一つもないんだ。昔らしく生活すること、宗教的にそうなっている。勿論、触れることすら駄目だ」


(宗教って言うのは、本当に面白いな。家族になるまで葬式に出れなかったり、今度は新しい文明に触れるのが駄目……お陰で助かってるけど、今は)


「なるほど……なんにせよ、魔法的要因とは考えにくいと思いますよ」


 僕は立ち上がり、座っている迅の元へと近付く。迅の表情は、僕と目が合うと明らかに強張った。さらに歩みを進めていくと、迅は、地面を力強く何度も叩く。そして、迅の目の前に僕は来た。


「嗚呼……可哀想に。さっきのことが怖くて仕方がないんだね」


 違う違うと言いたげに、横に振ろうとする首を動けないように掴み、そして迅の目線に合うように僕はしゃがんだ。


「……あんまり、暴れないでくれ。喉の調子を確認してるだけだよ」


迅の喉は僕と同じように動いていた。声を発する為に小刻みに振動している。僕には病気はよく分からない。この世界には数え切れないほどの病が存在し、それを治療する為の術がある。

 しかし、全てを治療出来る訳ではない。そう、一つ例を挙げるなら、悪意を持った人間によって病に陥る人間もいるのだ。それは、一目で分かるものではないらしく、最新機器が必要となるらしい。


(魔法って凄いな……喉は動いてるけど、声だけを完璧に消してるんだ)


「既に、それは私が確認して……」


 藤堂さんが背後で言った。


「どうしても、気になってね。こんなことが出来る魔法はないよ、今は」

「……えぇ、だから、私は精神的負担かと今は判断した次第で。でも、確かでないので出来れば詳しく調べたかったのですが……宗教ですからね、致し方ありません」


(あるとでも言いそうな顔だね、言えないけど……ハハッ)


 僕はゆっくり迅の耳元に口を近付け、囁いた。


「ここで僕が消えていたら、君は苦しむことはなかった……血ごとなくなるんだもん。でも、こうしたのは、君に情報を教えてくれた人だよ。これが君に対する罰なのかもね」


 僕は、ゆっくりと耳元から口を離して立ち上がる。その時見えた迅の顔は、顔面蒼白になっていた。唇が小刻みに震えている。


「あ、藤堂さん、手の治療有難うございました。龍にやられちゃって……」


 そう言って、僕は振り返った。

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