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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
五章 縁は異なもの味なもの
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悲鳴は切り裂く

―上野城大広間 夕刻―

 使用人に案内されたのは、大広間。和室特有の匂いと、机に置かれた料理の悪臭が混ざり、僕は気分が少し悪くなった。


(臭いがキツイな……)


 と思っても、それを何とか堪えないといけない。


「おぉ、遅かったではないか!」


 酔いが回っているのか、田村殿の顔は既に赤い。周囲を見ると、彼らもまた顔がほんのり頬が赤い。どうやら、藤堂さんや大臣や使用人達も一緒に食べるようだ。もう既に食べているみたいだが。


「申し訳ございません」


 と、その使用人は、ちらりと僕を見て言った。


(僕のせいだって言いたいんだね、確かにそうだけどさ……)


 もはや、あえて分かるようにやっているのではないかと思う。僕への戒めで。


「先にやらせて貰っているぞ。どれ巽君、君も一杯」


 田村殿は、僕に徳利を差し出す。


「いやぁ……僕は……」

「それ、美味しいお酒ですよ」


 藤堂さんは、揚げ物を食べながら満面の笑みで言った。


「国自慢のお酒なのよ、是非飲んで!」


 こちらも酔っているのか、奥方が機嫌良さげに酒を勧める。


「そうですか……」


(これのどこが美味しいんだろう? 苦いし不味いし……次の日はしんどいし……記憶も飛ぶし、何もいいことがないじゃないか)


「自分が注いでやる」


 僕が席に着くと、満面の笑みの迅によって無情にもお酒が注がれていく。迅は、まだ大人ではないので飲んではいないらしい。


「い――」


 いらないと僕が言いかけた時だった。


「いやぁああああああああああああああああああ!」


 下の方から小鳥の悲鳴がした。その悲鳴で、部屋の穏やかな雰囲気は一転、張り詰めたものに変わる。


「小鳥!?」


 僕は慌てて、窓から外を覗く。すると、衝撃的な光景がそこにはあった。一匹の龍が小鳥を掴んでいたのだ。馬車の中では、ゴンザレスがまだ眠っていた。


(あいつ……呑気にもほどがあるだろ! どうしてこんなに平然と眠っていられる!?)


「田村殿! 龍がいます! 小鳥が……!」


 僕のその言葉に、周囲が衝撃と困惑に包まれる。どよめきが起こり、皆の混乱が伺えた。


「何だと!? どうして城内に!? 見張りはどうした!?」

「龍の侵入したとの報告はありませんでした! そもそも龍なんてとっくの昔に……」

「では、一体どこから侵入したと言うのだ!」

「まさか……封印が……」


 迅がそう言うと、場が一瞬にして静まる。


「封印? なんですか、それは! 龍などとっくに……!」


 藤堂さんが質問する。


「後でしっかり説明するとしよう! 今は、あの子を救うことが先だ!」


 田村殿は、走って大広間から出て行く。それに続くように使用人達も後からついて行った。


「一体誰が……?」

「母さんは、ここにいなよ。もしものことがあれば、急いで国民達に伝えて逃げるんだ」


 迅は奥方にそう言って、後から大広間から走って出ていった。


「僕らはここから行こう」

「良かった、護身用の小刀を持って来ておいて」


 藤堂さんは懐から小刀を取り出して、覚悟を決めたように息を吐く。


「封印されるような龍では、力を見せ所どうこうではないわね」


 薬師寺大臣は、とんでもなく怖い目をしている。人を殺す目だ。こっちが怖い。


(小鳥……絶対に助けてやる)


 窓から僕は飛び降りた。

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