その塔の入口は王には出口
―城内飛脚所 夜―
僕が急いで飛脚所に行くと、若い青年がせっせと配達の準備をしていた。城用に飛脚所があるとは言え、外にあるから結構行くのに時間がかかる。
(間に合ったな)
「配達前で忙しい所申し訳ないが、これも配達願う」
そう声をかけると、僕に気付いた彼は深くお辞儀をした。そして、すぐに顔を上げると僕の手にあった封筒を受け取る。
「巽様! はいはい! 承りますよ!」
彼は、封筒に書かれた住所を確認する。
「えーっと、信濃国の望月様ですね! となると」
彼は指笛を吹いた。すると、上から羽の生えた女性が現れた。彼女は鳥族と呼ばれる者だ。空を誰よりも理解し、空と共に生きる者達、それが鳥族だ。
足で行くより、飛んだ方が外国に行くのは圧倒的に速い。だから、基本的に外国への郵便物は鳥族に委託される。
僕らも魔法を使えば飛べるが、彼女達ほど速く飛べたり、高い所までは行ったりすることは出来ない。
「承知」
彼女は、手紙を受け取ると凄い勢いで上昇して、あっという間に彼方へ行ってしまった。
「凄いな」
「空の専門家ですよ、鳥族は。天気とかも教えてくれるのは彼らですから」
「うん、彼らがいなければ農業とか行事の開催……色んな所で支障が出る」
「神様、仏様、鳥族様~なんてね。おっと! すいません、自分、そろそろ配達の時間なんで失礼致します!」
「嗚呼、気を付けて」
と、僕が言っている間に既に彼は、颯爽と配達物が入った籠を持って遠くに行っていた。
(速っ)
風よりも速いのではないかと思ってしまう。風になって消えた彼とは対照的に、夜風は穏やかだ。そして、日中と比べるとまだ冷たい。そんな中、ふとあることを思い出した。
(そういえば、あの開かずの扉があるのはあの塔だったかな? 折角ここまで来たし、ちょっと見てみようかな。久しぶりに)
僕は、少し外を歩いてみることにした。
城内飛脚所と隣接するようにあるあの塔は、蔦に覆われた古い煉瓦造りになっている。幼い頃はもう少し綺麗だったと思うが、あまりに誰も使わないから掃除もされていないのだろう。その塔の扉はどうやっても開かない。だから、開かずの扉と呼ばれている。
その開かずの扉は、異世界へと通じる扉だと噂されていた。その扉の中は、色んな世界線が入り混じっていて、固い意志がなければ、その空間で迷子になってしまうとも言われている。そもそも、その門を開く事が出来るのは選ばれし者だけだとか。
(その選ばれし者でさえ、固い意志がなければ迷子になってしまう扉。とても興味がある。幼い頃は遠くで見ることしか出来なかった。だけど今は、僕にとってこの世界から逃げ出せる唯一の出口だ)
所詮は伝説、だけど今はその伝説に縋りたい。
開かずの扉は、僕の意思を意志だと認めてくれるのだろうか?
僕は、ゆっくりと歩みを進める。
(一体何に使われたんだろう。記録には、塔の用途もいつ出来たのかすら書かれていない。どうでもいい建物だったのか、記録出来ないようなことに使われていた建物だったのか……)
僕は塔の目の前に立った。そこで気付いた。
(塔はこんなにも汚いのに、扉はまるで新品だ)
木で出来た扉なのに腐敗している様子もない。まるで、この扉だけ時間が止まったままのよう。
(ふふ、伝説は本当かも知れないな)
大きく深呼吸をする。
(僕をどこか知らない世界に連れて行ってくれ)
願いを込めて、その扉の金色に輝く取っ手を引っ張った。