泡沫の時
―上野城内離れ 夕刻―
僕達は、そのままの体勢で多くの話をした。琉歌は嫌がっていなかったし、僕も出来ればこのままでいたかった。琉歌の話は小さい子供が話すような感じで、とても可愛らしい。
「宝生様〜! 晩餐のお時間です〜!」
その声で、夢のような世界から現実世界へと連れ戻される。琉歌と話した時間は、信じられないくらいあっという間だった。
「もうこんな時間か……」
「ねぇ、晩餐……? って何?」
「夜ご飯だよ、単純には」
「あぁ! そういうことか!」
琉歌は、納得したように首を動かす。
「琉歌は一人で食べるのかい?」
「うん、私はここから出れないもん」
悲しそうに琉歌は笑った。
「じゃあ……僕がここで食べるって駄目かな?」
僕としては、なるべく人がいない所で食べたかったし、琉歌も誰かと一緒に食べられるしいいと思ったのだか、そんな僕の気持ちとは裏腹に琉歌の表情は強張った。
「駄目! それは駄目!」
「そんなに……嫌かい?」
「巽さんと一緒に食べたいけど……ごめんなさい。巽さんと食べるのが嫌な訳ではないの! だから、そんなに悲しそうな顔をしないで」
琉歌は、そう言って僕の頬に優しく触れる。僕はやはり顔に出てしまうらしい。
(何故、駄目なのだろう? 琉歌から拒否するなんて)
「晩餐が終わるのはいつ?」
「さぁ……それは色々あると思うから……」
「そっか、分かった。ここにまた戻って来れる?」
「言ってみるよ」
僕は、口角を上げて笑った。一瞬、琉歌の表情が悲しそうに見えたような気がした。
「宝生様〜!」
待ちくたびれたのか、先ほどより少し声色が怖い。
「待ってるよ。急いで行ってあげて」
「うん……」
琉歌は、ふらつきながら僕の上からのける。僕も、ゆっくりと体を起こして立ち上がった。
「ねぇ、ここには使用人達は入らないのかい?」
「彼らは……入って来れるけど、入って来ない。当然よ、彼らから見れば私は化け物そのものだもの」
(化け物……!?)
その言葉に思わず、心が貫かれたような衝撃を受けた。
「そんな筈ないよ……君は美しいじゃないか」
「違うの、違う……」
「ほぉおーしょぉおー様ぁああ!?」
使用人の声は、完全に怒号だ。僕が王でなければ、もっと下品な言葉が飛んで来ていたかもしれない。
「うわ、怒ってる……怖い怖い。そろそろ行かないと大変そうだね、じゃあ行くよ」
僕は、部屋を出て玄関へと向かう。琉歌が見送りに、一緒に来てくれた。
「行ってらしゃい」
笑顔で琉歌は手を振った。離れるのが惜しい。でも、行かなければならない。
「嗚呼、行ってくるよ」
玄関の戸を閉めて、橋を渡るとその先に使用人はいた。この位置から声が伝わって来ていたのだと考えると、その発生方法を是非お伺いしたい。
(距離を感じる。琉歌がさっき言っていたこと……本当なのだろうか)
やはり、先ほどの使用人と一緒であった。腕を組んで仁王立ち、笑ってはいたけど抑えれきれていないその苛立ちは、確かに僕に伝わった。
(この使用人は僕と同じ人だね、多分)
「お待ちしておりました、ささ、急ぎましょう」
足早に使用人は歩き出す。
「嗚呼……すまない」
僕は、再び彼と共に来た道を戻った。




