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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
五章 縁は異なもの味なもの
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この世界はとっても

―上野城内 昼―

 使用人に案内されて辿り着いたのは、かなり城から離れた場所だった。


(離れというより隔離って感じがするけど……考え過ぎか)


 その離れは、池の上にポツンとあった。真っ赤な木橋がかけてあって、そこから入るようだ。


「では、私はこれで……」


 使用人が僕を置いて、どこかに行こうとする。


「ちょ、ちょっと待て!」

「はい?」

「え、僕はどうするの?」

「どうするって……」


 は? と言ってはないが顔に出ている。


「いや、だって……」

「橋を渡って、中に入ればいいじゃないですか」

「え……あ、うん」


(なんでこんな高圧的なんだ? 仮にも僕は王なんだけどな……こういう人なのかも)


 僕は複雑な思いを抱えながら、離れへと歩みを進めた。段々と近付くと、鼓動も大きく、そして速くなっていく。僕にしか聞こえない音が、僕の中で響き続ける。


(どうしてこんなになってしまうんだ。ただ会うだけじゃないか、ただ会うだけ、ただ会うだけ……)


 自身の胸に手を当てて、そう何度も言い聞かせた。それでも鼓動は激しく速くなる一方。


「――幸せは気付かれた♪」


 透き通る綺麗な歌声が、僕の大きな鼓動さえも凌いだ。


「歌……?」

「幸せを踏み台に♪」


(なんて綺麗なんだ、なんて素晴らしいんだ……)


「命は彼方へと沈んでく~♪」


 歌声がとまった時、僕はいつの間にか建物内にいた。そして、目の前には一人の美しい女性が涙を流しながら、こちらを見つめていた。その美しさに、僕は息を吞む。


(まるで、人形のようだ……いや、それよりもずっと美しい)


「逢いたかった、ずっと待ってた……」


 そう言って、琉歌は僕に思いっきり抱き着いた。


「僕も会いたかった……ずっと」


 僕は、琉歌を抱き締めた。華奢な体だと感じた。琉歌の髪は、黒髪を見慣れた僕でも見惚れてしまうくらいに綺麗だった。あの大臣や睦月よりも美しい黒髪だった。

 繊細でありながら、他人の目を引く大胆さのある髪。髪だけでこんなにも美しさを表現出来てしまう。全てが絵になるほど、何もかも美しい。

 会うまでは少し不安だった。でも、それは杞憂だった。見ただけで、ますます愛おしくなった。


「長い時間だった……ねぇ、聞きたいことがあるの! 文字だと聞きにくくて! 聞いてもいい?」


 そして、琉歌は一度僕から離れる。


「勿論さ」


 純粋に笑う彼女に釣られ、僕も笑ってしまった。


「巽さんは、この世界のこと好き?」

「この……世界? どうしてそんなことを?」

「ずっと気になってたの。手紙でのやり取りで……」


(手紙でのやり取りで、何故……?)


「僕が、この世界が好きかどうかなんて……琉歌が気にすることなんかじゃないだろう? どうだっていいじゃないか」

「……ごめんね。だけど、凄く気になってたの。小さい頃の手紙は、私の質問に答えるだけじゃなくて、貴方のこと、未来に対する希望が沢山書いてあった。だけど今の手紙は淡々と質問に答えてくれるだけ。それに前出した手紙に、この質問を書いたら返って来なかったから余計気になって……」


(前出した手紙……美月に読まれた奴か。僕は、読めなかったな。結局)


「あぁ……ごめん。忙しかったから、まだ読めてないんだ。それに、小さい頃は自分について語りたくて仕方ない時期だろう? 成長してそういうのをやめた、それだけのことだよ。それに世界なんて関係ないよ」


 僕は、笑顔を繕う。


「そう……私てっきり未来に希望とかを持てなくなって、この世界が嫌いに、嫌になったんじゃないかって思ってた。あまりにも唐突だったから……そっか、ならいいの」


 未来に希望を持てない。その言葉は図星だった。あの現象に陥ってしまった時から、六歳の時からずっとこの世界が嫌で憎くて怖くて、未来がなくなればいいってそう思っていた。


「嫌いな訳ないだろう? だって、この世界はとっても」


 僕は琉歌に顔が見えないように、もう一度抱き締めた。


「美しいから」

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