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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
五章 縁は異なもの味なもの
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成長

―上野城内 昼―

 急な坂道を上ると、ようやく城の玄関らしき門が見えて来た。そして、そこには何人かいるのが見える。


(やっと着く……)


 田村殿がかなり速い速度で上っていくものだから、僕らはすっかり疲れていた。傾斜が高いから、歩く度に膝に来てかなりしんどかった。


「お~い! 早苗! お連れしたぞ~!」


 疲れも感じないその声に、僕は流石だと感じた。伊達に、この坂上ってないってことだろう。


「お疲れ様~!」


 少し先から、女性の明るい声が聞こえた。


(あと少し……)


 やっと玄関の門まで辿り着くと、田村殿を除いて皆息を切らしてた。


「お待ちしておりましたわ! あら、巽君すっかり大人っぽくなって!」


 田村 早苗さなえ。田村殿の奥方である。平安装束のようなな格好で、いつ見ても暑くないのかと思ってしまう。


「もう二十歳ですから……」


「はっはっはっ! そうだぞ、もうわしゃわしゃも嫌だと!」

「えぇ!? そうなの!? なら、もう抱き締めたら駄目なのかしら!?」

「二十歳なんですよ……僕は……」


 こんなやり取りを、今まで何度もした気がする。いい加減、僕を子供扱いするのは勘弁して欲しい。


「寂しいわね~。成長っていうのは……少し見ない間に、ここまで変わるなんて」


 そう言うと、奥方は悲しそうに笑った。何故だろう。いい加減、僕の成長を喜んで欲しいものだ。


「本当、二人共巽義兄さんが好きだよね」


 苦笑いを浮かべながら、奥方の隣にいた少し小柄な男が腕を組みながらそう言った。

 彼は、次期当主の田村 じん。遠い親戚の子を養子にした、確かそうだった筈だ。


「成長の様子をよく見て来たからな!」

「ふ~ん……確かに少し身長も伸びて、大人に見えるようにはなったかな」


 迅は近付き、舐め回すように僕を見る。そこに好意は感じない。気持ちの悪い奴。


「だから、僕は大人だって」

「雰囲気も変わったよね。色々あったから? 例えば、睦月さんのこととか?」


 その名前を出した瞬間、場が一気に静まり返った。


「迅……!」


 奥方が焦りの表情を浮かべ、迅をとめようとする。それでも気にせず、迅は続けた。


「正直言って、義兄さんには失望したよ。義兄さんのせいで睦月が死んだんだろう? 今の義兄さんに、姉さんを任せるのは危険じゃないかな」


(それが言いたかっただけだろ。別にいいけど。それよりおかしいなぁ……)


 迅を黙らせる為の手段を思いついた。僕は迅の耳元で囁く。


「そう思ってくれても構わないよ。でもこれは、随分と昔に決まっていたこと。後から来た君がごちゃごちゃ言っても、何も変わらない。君は黙ってそれに従っていればいい。それが今、君に出来る唯一のことさ。第三者は黙ってなよ」


 これは、嘘ではない本心だ。だから、言葉が滞ることなく次から次へと出た。


「……お前誰だよ。雰囲気所じゃない、何もかも変わったね……」

「いい加減にしろ! 迅!」


 田村殿の威圧感のある声が響いた。


「はぁ……皆おかしいよ。どうかしてる……」


 そう呟きながら、迅は遠くへと歩いて行った。自分は一切悪くない、そんな様子だ。


「ごめんなさいね、あの子ったら……」

「後でもう一度、しっかり言っておこう。巽君は何も心配しなくていい。彼女のことと、これは無関係だ……本当にすまない」

「いいんです。別に」


 僕は、必死に口角を上げて笑顔を繕った。


「巽君、娘はずっと君に会いたがっていたようでな。この時、この日をずっと待っていたんだ。だから、早く会いに行ってあげて欲しい」

「彼女はどこに?」

「少し向こうの離れにいるよ。ちょっと病弱でね、療養中だ。でも、巽君と会えば、少しは元気になるんじゃないかと思う」

「巽君をあの子の元へ連れて行ってあげて……」


 奥方がそう言うと、一人の使用人が僕の目の前に現れた。


「参りましょう」

「あ、嗚呼……」

「では、我々は我々ですべきことをしようか」


 僕らは二手に分かれて、違う場所へと向かうことになった。僕と使用人は琉歌のいる場所、その他の人達は城へ。


(病弱だから、大人になるまで駄目だったのか?)


 色々疑問はあるが、会えるのならそれでいい。愛する人の待つ場所へと、僕はゆっくりと向かって行った。

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