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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
五章 縁は異なもの味なもの
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不運な男

―上野城内 昼―

 城門のさらに奥、そこに城はあった。しかし、目の前にあるのは坂。結構傾斜のある坂道だ。この坂の先に、城への入口があるのだろう。


「ここからは歩きですよ~!」


 御者がそう言った後、馬車はとまった。これからあの坂を上らなければならない。

 僕らは、馬車から降りた。後ろの馬車に乗っていた藤堂さんや、大臣も続々と降りて来る。


「ん~!」


 ゴンザレスは、大きく伸びをした。


「はっはっはっ、長旅ご苦労様」


 目の前にあった坂道から、無精髭を生やした、がたいのいい着物の男性が下りて来た。その男性の名は、田村 一心いっしん。琉歌の父親であり、上野の統治者である。つまり、上野国の王だ。


「久方振りです。田村殿」


 僕が挨拶したことで気付いた他の者達も、続いて挨拶をした。


「一昨年の夏以来だったかな……立派になったものだなぁ、巽君、よしよし」


 田村殿は、僕の頭をわしゃわしゃと撫でる。


「やめて下さい……僕はもう子供じゃないんです。そう何度も言ってるじゃないですか」

「はっはっはっ! 撫で心地が最高なんだよ。そうだよなぁ、巽君も二十歳だからな。来る度にやってくれと言っていたあの頃が懐かしい。そして成長は虚しい……」


 そう言いながら、撫でるのをやめて遠いどこかを見つめる。


「俺ならやっても……ぐはっ!」


 ゴンザレスが何か言いかけた所で外交大臣が現れて、ゴンザレスを一瞬で気絶させた。


「ん!? 彼は大丈夫か? それに、さんぐらすにマスクとやらですかな……かなり怪しい感じがするが」

「新人の使用人です。サングラスはかけていないと落ち着かないらしくて……マスクは、風邪です。そしてこれは、気の緩みをなくさせる為の訓練……TPOを弁えず申し訳ございません」


(さんぐらす? ますく? てぃぴぃおー? 田村殿はこれを理解しているのか?)


 眼鏡をクイッと上げて、外交大臣はそう言った。


「そうか……なるほど、素晴らしい訓練だ」


 うんうん、と納得した様に田村殿は頷いた。


「小鳥、これが目覚めるまで馬車にいなさい。我々は、先に行きますから。もし、目覚めて暴れるようなら力の見せ所ですよ。頑張りなさい」


 外交大臣は、にっこりと笑みを浮かべた。


「承知しました!」


 元気良く、小鳥は返答した。


(災難だな……ゴンザレスは。本当にこんな訓練あるのか?)


 外交大臣薬師寺 美恵子。通称親分と呼ばれるこの人は、大臣のまとめ役のような人物で、働きもとても優秀だ。それは、僕も父上も評価している。さらには、誰よりも美しい黒髪に、四十代後半とは思えないほどの美貌。才色兼備の薬師寺大臣に信奉者は多いと聞く。

 しかし、僕はこの人が苦手だ。興津大臣と一、二を争うくらい。小さい頃、英語の授業で何度泣かされたことか。


(結局、英語は分からないままだ……教えてくれなんて思わないけど)


「それでは、そろそろ参ろうか、妻と……娘が待っている」

「はい、楽しみです」


 僕らは、田村殿の後について坂道を上って行った。

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