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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
五章 縁は異なもの味なもの
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影武者の知りたかったこと

―馬車 昼―

 二人の会話が嫌でも耳に入ってくる。寝たふりをしているだけだから、仕方がないけれど。

 この時間帯は、ちょうど昼食の時間だ。二人は何かを食べながら会話をしているようだ。凄く変な臭いがする。変な臭いがしてるのは、間違いなく僕だけだろうが。


「後、とんぐらいなんだ?」

「ちょっと聞いてみます。御者さ~ん! あとどれくらいで到着しますか?」

「あと三十分もあれば着くよ~! 遠くを見てご覧! 立派なお城が少し見えるよ~!」


 少し籠った男性の声でそう聞こえた。


「あ、本当だ! 凄い……古風な感じですね!」

「めっちゃカッコいいな! 日本って感じするわー。そういや、ここって俺の世界では、どこ辺りになるんだ? 上野って言ってたけど、日本史? いや地理?」

「え?」

「あ、いや……上野っていい感じのとこだなぁ~と思って……アハハハハハハ!」


(ちゃんとしてくれゴンザレス……不安だ……)


 変に疑惑を持たれるのは勘弁して欲しい。


「……? 確かにいい所ですねぇ。空気が美味しいです」

「そういや、こいつ起こさねぇといけないんじゃないのか。そろそろ」


 足を軽く蹴られている感覚がある。


「そうですね。でも、もしまだ……」

「別にいいだろ、起こせって言ったのこいつじゃん? もうそろ着くじゃん? 起きる条件でしょ」

「もっと優しく……巽様、起きて下さい。もう少しで到着致します」


 耳元でそう優しい声が聞こえた。


「あぁ、もうそんな時間になっていたのか……」


 寝てなどいなかったけど、とりあえず寝起き感を出して返答した。


「糞呑気だな。あ、そいや、お前に聞きたいことがあるんだけどさ」

「何だ」

「婚約者の名前とか知ってんのか?」


 予想もしていなかった質問に驚いた。


「そりゃ知ってるけど……」


(何で急にそんなことを聞いてくるんだ?)


「ちょっと教えてくれよ」


 ゴンザレスの表情は、真剣そのものだ。


「何で聞きたいんだ? 何か企んでるのか?」

「そんな訳ねぇ。ただ……気になるだけだよ」


 隣の小鳥は、不思議そうに首を傾げている。

 

「名前は、琉歌るか。田村 琉歌」


 僕がその名前を言うと、ゴンザレスはどこか腑に落ちない表情を浮かべた。


「知らねぇな……」

「それはそうだろ。僕も知らないんだから、名前とか以外は」

「公の場にも一度も姿を現したことがないそうですよ。少し前、実は存在していないのではないかと噂になっていたとか……でも、流石にそんな筈はありませんでしたね」


 小鳥は半笑いを浮かべた。


「そういや、そんなことあいつに聞いたな。でも、何で他の奴は教えてくれなかったんだ? 名前くらい」

「他の奴?」

「お前の両親とか、大臣の奴らとかに聞いたんだけど適当にはぐらかされた。ま、一人はその噂だけ教えてくれたけどな」

「私も知りませんでした。いずれ分かるようなことですけどね……何故でしょうか」

「ま、苗字が変わる前に聞けて良かったよ」

「皆様~! そろそろ到着で~す!」


 再び御者の声が聞こえた。景色を見ると、確かに立派な城がすぐ近くに見える。


「身だしなみ……大丈夫か?」


 僕は、小鳥に確認して貰った。髪などが乱れていては情けない。


「はい! 問題ありません!」


(よし。この時をずっと待っていた。絶対に醜態を晒さない。一番大事だ。今の僕には……)


 城門前には、こちらも多くの人が集まっている。歓声が徐々に大きくなっているのが分かった。


「こっちもこっちですげぇ……」


 そして、城門がゆっくりと開かれる。目的地まであと少し、やっと会えるのだ。

 手紙でしか話したことのない相手に、面と向かって。この日を僕はずっと待っていた。

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