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僕は僕の影武者  作者: みなみ 陽
五章 縁は異なもの味なもの
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溜まる疲労

―馬車 朝―

「――おい! なんでこいつは起こさないんだよ! おかしいだろ! 不平等だ!」


 そんなゴンザレスの雑音が僕の脳内に響く。


(うるさいなぁ、こんな時も相変わらず。というか、いつの間にか僕も寝てたんだ。でも、まだ眠たいな……)


 少しいつもとは違う生活を取り続けたせいか、睡眠時間が少ないと、まだ寝たいと体が言っているようで、目を開けることが出来なかった。


「ゴンザレス様は、少なくとも九時間は寝ています! 今朝七時ですから十分でしょう!」

「どうせ、馬車乗ってるだけだろ! 寝させろよ!」

「駄目です! 規則正しい生活の徹底させるようにと言われています!」

「はぁ!? 誰にだよ!」


(駄目だ。一度目が覚めると、やっぱり眠れない。しかもうるさいし)


 僕は、仕方なく目を開けた。頭がぼんやりとする。


「何を騒いでいるんだ……」


 やはり、朝は眩しい。空に近いから余計に眩しい。


「あ! 申し訳ございません。起こしてしまいましたか……」


 小鳥が大声を出し過ぎたことを自覚したのか、申し訳なさそう顔を浮かべる。


「よぉ、おはよう。王様」


 にっこりと満面の笑みでゴンザレスは笑う。


「朝からそんなに元気なのは羨ましいよ、全く」


 僕は、小さく伸びをした。少々体が痛い。座ったまま眠るのは、やはり体に堪える。


「朝ご飯食べましょうか、ちょっと待って下さいね」


 小鳥は、後ろにある大量の荷物から何かを漁り始める。少しして、そこから小さな籠を取り出した。


「お! 何だ何だ~」


 ゴンザレスは突然機嫌が良くなって、足を子供のように動かし始めた。


「サンドウィッチです。普段よりは控えめになりますが、勘弁して下さい」

「さんどういっち?」

「サンドウィッチです!」

「へぇ……勉強になったよ」


 小鳥が籠を開けると、色とりどりで健康的な感じがする物が見えた。これをサンドウィッチと呼ぶらしい。


(これが理想の朝ご飯だな。でも、やっぱり美味しそうには感じない……)


「お~! これこれ! こういう朝ご飯を俺は求めてた!」


 ゴンザレスは籠に手を突っ込んで、いくつかサンドウィッチを手に取ると、それらをおもむろに頬張った。


(一つずつ食べればいいのに)


「もう! あ、巽様は……?」

「いや、僕は遠慮しとくよ」

「はぁ? お前、昨日もそんなに飯食ってないだろ。食事制限か何かしてんのか?」

「そんなんじゃない……」


 昨日も一生懸命用意された物を食べてはみたが、一口食べるだけで精一杯だった。


「やっぱりまだ体調が……」

「そういう訳でもないんだ。今は食べたい気分じゃない、それだけさ」

「朝ご飯はなぁ! 食べないとなぁ! 頭良くならないんだぞ!」

「一日くらい食べない日があってもいいだろ」

「それはともかく、食べないと体にも悪いですし……」

「いいって言ってるだろっ!」


 思わず声を荒げてしまった。すぐに冷静さを取り戻した僕は、子供じみたことをしてしまったと感じ、恥ずかしくなった。


「申し訳ございません……」

「あ~あ、いいよいいよ、ほっといて。俺らだけで食っちまおうぜ。もう朝ご飯を食べないことの弊害出てるしな」


 目の前でゴンザレスは、次から次へとサンドウィッチを放り込んでいく。それを見る度に、若干自分が苛ついていることに気付いた。

 僕は食べられないのに、もう一人の僕は僕の前で平然と食事を楽しんでいる。これは意味のない嫉妬だと自覚する。でも、その嫉妬を堪えることが出来なかった。


(食べたいけど、食べれば食べるほど、しんどくなる。どうすればいいんだよ? どうしたらいいんだよ?)


「到着する頃になったら、起こしてくれ」


 僕は、窓の方を向いて目を瞑った。どうせ寝れないことは分かっている。それでも、まだこうしている方がいいと考えた。

 何故なら、自分が異常だということを見せつけられずに済むからだ。

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